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52_修練進化_セレネ

 

 

 エマと勝負することになったらセレネは獣桜組の射撃場に来ていた。

 勝負するとのことでギャラリーが既に何人も集まって、どっちが勝つかなどの賭けをしていた。

 

「随分賑やかね」

「せっかくやし、見物客から小銭稼ごうおもてな」

「あらお上手」

 

 エマはにっこりと微笑む。

 仮に勝負に負けても適性金額にプラスで見物客の小銭が得られ、勝てばセレネとの取引を半額にできる。どっちにしろエマは得をする。

 もしもセレネが勝負に勝って取引額をつり上げれば「買わない」と言ってセレネは骨折り損となる。

 

 売る側と買う側の力関係を上手く使われていた。

 

「さて、そろそろやな」

 

 射撃場に表われる一人の男。

 

 上半身は人間の女性だが、その両足は鳥類を彷彿させる。

 青白い肌に琥珀色の瞳、首回りは少しだけ血色がいい。

 

 それ以上に目につくのはこの女性が担いでいる身の丈に合わないサイズのライフル銃である。

 

(なんなのあのバカみたいな銃は……50口径? もっとあるわね、おそらく70口径かしら)

 

 

「おう、頭今日はどういう要件でアタシを呼んだんだい?」

「ヒクイ、ちょっと射撃の腕が良いって話の人や」

 

 ヒクイと呼ばれる女はにっこりと笑い、チェーンソーが駆動するような声を出す。

 どうやら彼女なりの喜びの表現らしいとセレネは直ぐに理解した。

 

「いいね。おい、赤髪」

「何かしら?」

「獲物は?」

「何でも」

「じゃあ、コイツは?」

 

 ヒクイは両方の腰にぶら下げているホルスターから拳銃を抜く。

 

(リボルバー拳銃、しかも50口径って……良い趣味してるわね)

 

「もう少し小さいのはある?」

「車にいくつか」

 

 ヒクイは携帯端末で部下に連絡して車にある武器を持ってこさせる。

 

 大型アタッシュケースにライフル、ショットガン、ハンドガン……およそ火薬式銃と呼ばれる中で往年の名器と名高い武器が顔を連ねている。

 

「好きなのをどうぞ」

 

「今回のルールは?」

「ラウンドアバウトって言えばわかるか?」

「5個の的をいかに早く撃つかという競技だったわね。最後の的だけ決まっていて着弾と同時に計測終了よね?」

「今回はスタンダードなルールで上からサイコロの5の目を少しずらしたような配置で的を置く。最後のターゲットは真ん中だ」

「いいわよ。それならP(ピストル)C(キャリバー)C(カービン)が良いわね」

「あるぜ、これとこれだ。40口径と45口径のやつだ」

 

 ヒクイはアタッシュケースからPCCを2丁取り出す。

 

「9ミリは無いの?」

「そんな豆鉄砲、自宅のショーケースにしかねえよ」

「じゃあ40口径で」

「オーケー」

 

 セレネは銃と弾を受け取ると準備を始める。

 

(このヒリついた感じ、戦士競技を思い出すわね。あとで今年の世界選手権を見返そうかしら)

 

 セレネは銃を一度全てバラバラにして悪戯されていないか確認すると、目にも留まらぬ速さで組み直す。

 

「準備はいいか?」

「ええ、大丈夫よ」

 

「じゃあ、裏と表どっちだ?」

「表」

 

 ヒクイはコイントスを行い、どちらが先攻か決める。

 ピンと指を弾く、クルクル回転しながら地面にコインが落ちる。

 

「アタシが先攻か」

 

 ヒクイはセレネが選ばなかった45口径のPCCを構える。

 

 セレネは開始のブザーを手に取り、準備をする。

 

「いつでもどうぞ」

 

 ヒクイは銃にスリングを通してから両手を頭につける。

 

「じゃあ行くわよ」

 

 開始のブザーが鳴り響く。

 

 

 

 ダンダンダンダンダン!

 

 

(うっそ……3秒切ってる……)

 

「タイムは?」

 

「2.89秒」

「んだよおっせえな……」

「世界選手権に出れるわよ」

「そりゃどうも。じゃあそっちの番だ。ガッカリさせないでくれ」

「ええもちろん」

 

 ブザーをヒクイに渡すとセレネはスリングを通して頭に手を付ける。

 

「準備は!」

「いつでも!」

 

 心臓は破裂しそうだった。

 

(こんな強敵、久々!)

 

 

 ブザーが鳴る――。

 

 ダダダダダン!

 

 思わず歓声が響く。

 

「記録は?」

「2.54秒」

「よし! 世界記録一歩手前! これ非公式だけど」

 

 

 エマがニコニコしながら歩み寄る。

 

「あら、ずいぶん手加減したんやねヒクイ」

「いやいや、この人本当に強えよ」

「そうなん?」

「少なくともコイツなら勝ち目は無い」

 

 ヒクイは手に持っている銃をちらつかせる。

 

「ふーん……ヒクイから見て、このお嬢ちゃんはどう思う?」

「文句なし!」

「ほんまに?」

「アタシが保証する」

「そーかそーかぁ~、おおきに、今日はありがとうなぁ」

 

 ヒクイはエマに一瞥する。それからセレネの方に視線を向ける。

 

「今回はアタシの負けだ。気持ちが良いくらい完敗だ」

「あら、潔いのね」

「まぁ、これも全部、頭の仕込みだからな。エマがあんたを取引相手に選ぶだけの頭と力を持ってるかの」

「えっ?」

「おそらくここに来る前になんかいびられてると思うがあれも全部、アンタを本気にさせる口車だ。最初から取引する気は満々だし何なら金も用意してるぜ」

「ええ!?」

 

「こらヒクイ! それを言ってしまったらうちの面目が立てへんやろ!」

「頭もいちいち回りくどいことして、素直に言えばいいじゃねえかまったく」

「こちとら組を預かる者として面子ってのがあるんよ」

「ケッ! アタシにとって犬の餌にもなりはしねえっての」

 

 そう言いながらヒクイはブザーをセレネに渡す。

 

「負け惜しみじゃねえけど、一応本気を見せとく。趣味が合いそうだしな」

「わかったわ」

 

(本気……?)

 

 ヒクイは腰のホルスターに収めていた拳銃の玉を確認する。

 

「いいぜ」

「いくわよ!」

 

 セレネがブザーを鳴らす。

 

 

 ダ――ンッ!

 

 

 セレネは愕然とした。

 

(いくら拳銃って言っても50口径でファニングショット!? バケモノじゃない……まって、ということはそのリボルバーはシングルアクションッ!?)

 

「タイムは?」

「……0.3秒」

「まぁまぁだな」

 

 ヒクイはシリンダーをスイングさせて薬莢を地面に捨てる。

 

「これでまぁまぁ?」

 

「ふっ……自己紹介がまだだったな。アタシはヒクイ、獣桜組幹部十二会、鷄組の組長やってる。今度はそっちも得物持参で来な」

 

 

「シュミットトリガ社の代表取締役社長兼CEOのセレネ・シュミットトリガよ」

「え!? あのシュミットトリガ社!? マジかよ! コレクションいっぱいあるぜ?」

「あら嬉しい」

「ランスタで上げてたフルカスタムのアハトノイン今度見せてくれないか!?」

「ふっふっふ、それもいいけど、開発中の武器に興味は?」

「大あり!」

「じゃあ、これから適正な取引をお願いし出来るかしら」

「おう任せな!」

 

 思わぬところで友情が芽生えることになった。

 



 修練進化 完

 


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