46_修練進化_セレネ
カナメに案内されたのは天帝邸の敷地の一番奥にある建物だった。
和風と洋風を混ぜたオリエンタルな建物が並ぶ天帝邸の中では、やたらと浮いてしまうほど無機質で機械的な建物がひとつだけあり、そこに案内された。
「ここは?」
「地上の人間は椿宮師団の本部はここと勘違いがするけど実際は違う」
「じゃあ、ここは? 随分豪華だけど?」
「ん? ああ、ここは余の自宅。ただ無駄に広いから一般に門を開いてるだけだな。賑やかな方が楽しいじゃん?」
「それでトモエに何かったらどうするの?」
「逆だよ。ここにいる人間はもう何年も付き合いのある連中ばかり、みんな顔なじみになれば知らない人間が来ても直ぐにわかるだろ?」
「隣人を愛せ、かしらね?」
「まぁそんなところだ」
与太話もほどほどにカナメは扉のスイッチを押して扉を開ける。
「これは昇降機? もの凄く大きいわね?」
「トラックを5台同時に運べる特大昇降機だ」
「ワォ! こう言うの私大好きよ。建物を見た限り、ここが最上階みたいね?」
「まぁ立ち話もなんだ。それに動くところ見たいんじゃないか?」
「わかってるわね! それじゃ早速お願い!」
特大昇降機に二人は入ると、カナメは操作パネルをいくつか押すと扉が閉まり特大昇降機のモーターが声を唸らせ始める。
「どうしてこんなものが?」
「話すと長いんだが、まぁこれ降りるのに結構かかるから話すか」
「退屈な話はよして」
「大事な話だから安心しな」
カナメは少しだけ真面目な表情になる。
「椿宮師団のトモエ、獣桜組のエマ、君影研究所のアンナ、いずれもレブルウイルスの特殊株に感染した親と呼ばれる存在の話はしたな?」
「ええ、特殊感染者を生み出す特殊感染者、私もトモエに命を助けられたわ」
「この親たちそれぞれに生み出す感染者のベースに傾向があるんだ」
「というと?」
「獣桜組のエマは哺乳類、鳥類の感染者を生み出す傾向が強く、君影研究所のアンナは爬虫類、両生類の傾向が強い」
「トモエは?」
「トモエは、節足動物と魚類だ」
「え、それって」
「不自然に思わなかったか? ここは天下の東京、首都圏まで含めると人口は3000万人、それにしては――」
「人が少なすぎる!」
「そうだ。何故ならほとんどの感染者が――」
扉が開く。
潮風の香りが雪崩れ込む。
目の前には着替えるためのロッカールーム、その奥には水密扉がある。
「海水浴はお好きでしょうか?」
「ええもちろん!」
セレネはダイバー用の装備を一式装備するとカナメは水密扉を起動させる。
「カナメは着替えなくて良いの?」
「ん? ああ、必要無い」
特大昇降機側のシャッターが閉まり、注水が開始する。
そして水密扉が油圧駆動してゆっくりと開く。
セレネは目を丸くした。
太陽の光は半分以上届かない深さの海に眩いほどの光、立体区画された都市がそこにはあった。
「ようこそ、海底東京へ!」
海底都市と言う言葉がピタリと当てはまる。そして自由に泳ぎ回る人々はどれも麗しい女性ばかりなのも驚かされた。
「素敵ね! あれでも男人は全然いないのね」
「ああ、ここにいるのは全員女だからな」
「男性は?」
「女になった」
「え?」
「そうだよなぁ、驚くよな」
「いやまぁトランジェンダーは珍しくもないのだけど」
「魚類をベースに持つやつらは共通でベラという魚を少なからず持っている。それが影響して全員性転換して女になってんだ」
「ハーレムだっけ? だとしたら一匹くらい男性がいるんじゃない?」
「そうだな」
「それがここのボスってことでしょ」
「そうだな」
「面白いわね、じゃあ早速ボスと顔合わせもいいんじゃないかしら?」
「それは必要無いな」
「どうして?」
「そのボスが余だからな」
「あー……」
セレネは心の中で「流石天帝というだけあるわね」と呟いた。
「カナメ陛下!」
前方から爆速で泳いでくる女性が現われる。
「おいっすー」
「来るなら前日に連絡してください」
真面目が顔に張り付いていそうなお堅い表情にキリッとした目、青みを帯びた髪は爽やかさを持つ美女だ。
「セレネ、紹介する。海底東京のまとめ役のミノだ」
「はい! 小職は椿宮師団海底東京地区戦術機動部隊所属感染者等級甲種のミノと申します。以後お見知りおき下さい。セレネ・シュミットトリガCEO」
海兵式の敬礼と共に自己紹介する。
「セレネ・シュミットトリガよ。シュミットトリガ社現CEO、まぁお堅いはそこまで好きじゃないから砕けたかんじでいいわよ」
「承知致しました。しかし小職はこれで慣れておりますのでお気になさらなくて結構です!」
「ええ、それならいいわよ」
「ちなみにそいつ無茶苦茶強いから」
カナメがボソッと言う。
「甲種って言ってるものね……」
「まぁ、そいつは脳筋担当だから、頭脳担当は別にいる」
「ということはこの人、ただ強いというだけでここまで上り詰めたの?」
「そういうことだな。さて、一応視察だがここはただの街並みだし海底東京の事情を見て貰えりゃいいからぶっちゃけここで終わりなんだよな」
「あー、そうだ、ミノにお願いがあるんだけど」
「はい、小職にできることであれば」
「感染者がこうなっているとは全く知らなかったの、もしよければ水中用の装備開発をしたいのだけれど普段使っている装備を見せて貰ってもいいかしら?」
「了承しました。ではこちらへ」
ミノは腰に付けているカラビナをセレネに渡す。
「泳げるわよ?」
「いえ、早い方がよいかと考えまして」
「じゃあ、お願いするわ」
セレネはカラビナをダイバースーツのベルトに取り付ける。
「セレネCEO」
「なにカナメ?」
「呼吸器はしっかり手で押さえて」
「ええ、わかったわ」
「陸地の方にも椿宮師団の施設があるんだけどそっちは明日でいい」
「ええ、わかったわ……さっきから気の毒な顔をしているのはなに?」
「……絶叫マシンは好きか?」
「まぁほどほど?」
「そうか、じゃあまたな」
「……?」
「ではセレネCEO、早速ではありますが小職がご案内させていただきます」
「うん、じゃあよろし――」
直後にセレネは、上下も左右もわからなくなった。
最後に見えたのはカナメが黙祷するジェスチャーだった。




