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34_修練進化_カナメ

 

 ヤマトに死ぬ寸前までボコボコにされたナガトを背負って、天帝邸の客室を尋ねる。

 

チュ(知由)ーいるかー?」

「どうぞ」

 

 凜とした声に案内されるがままカナメは部屋に入る。

 部屋には赤茶色の髪に齧歯類を彷彿させる獣耳が頭に二つ、少し垂れた目に魅力的なボディラインが印象に残る女性が穏やかな表情で迎えた。

 

「すまんな、ちょっと頼みがある」

「何かしら?」

「コイツの面倒を見て欲しい」

 

 カナメは背負っているナガトを指差す。

 

「そこに寝かせて」

「わかった」

 

 チユが使っていたベッドにナガトを寝かせる。

 

「あらら、随分なことになっているわね。何発やられたの?」

「十を超えてからは止めるのが大変だった」

「随分やんちゃしたのね。相変わらずの人食い虎ね」

「まったくだ。ありゃ予想以上だ」

「それでこの子は手に余るから私に?」

「察しが早くて助かる」

「いいわよ。後進育成の話が愛茉さんからあったところだし」

「頼む」

「どんな風に育てれば良い?」

 

「全部任せる」

「わかったわ。この子が途中で投げ出したら?」

「投げ出したらか……今回だけは賭けてもいい。それ無いってな」

「ふーん……そうなの」

 

 チユは二度手を叩く。

 

「じゃあ、目一杯優しく、手取り足取り指導してあげる」

 

 ニッコリと張り付いた笑顔をカナメとナガトに向けた。

 

(うわぁ、こりゃあマジでやる気だな。ご愁傷様ナガト)

 

 これでカナメは安心してもう一人の問題児に専念できる。

 

 

 

 

 カナメはヤマトが待っている。演習場に戻る。

 

「待たせて悪かったな」

「いえ、別に」

「さて、まずさっきの戦いについての評価だな」

「圧倒的だろ?」

「ああ、確かに、ヤマトお前は並みの感染者じゃ到底叶わない力を持っている」

「そりゃあそうだ。俺は正面から丙種感染者を倒しているからな」

 

(あの話もマジだったか。いや、あの戦いを見りゃ事実として余りあるか)

 

「らしいな」

「だから俺は乙種並みの力がある。等級を上げるのも普通だろ?」

 

(自信家? いや、違うな……これは……)

 

「それを普通か、上げるかどうかは余が決める」

「何でだよ、俺は強いだろ!」

 

(これは焦りか、そうかヤマトは獣桜組に返り咲くチャンスが欲しいのか)

 

「強いか……ハハッ、お前は並みに強いだけだ。乙種を倒せたのもラッキーなだけだろ?」

 

 カナメはわざとヤマトの神経を逆撫でする。

 

「アアッ!?」

 

「いいぜ、どっからでも来いよ」

 

 カナメのセリフを待たずしてヤマトが殴りかかる。

 

 

 音も無くその拳は止ってしまったが。

 

 

「え? はぁ!?」

 

「判断が早いのは良い。思い切りも良い。俺はそういうの好きだ。他の奴は慎重さに欠けるとかほざくだろうがな」

 

 指一本、人差し指一本がカナメの拳を阻んでいる。

 

「なぁ、俺が誰かわかって殴りかかったのか」

 

「……ここで一番強い奴」

「そうか、それをわかって殴ってきたんだな」

「ああ!」

 

「良いね、気に入った。こりゃいい。教えてやるよ。戦い方をさ」

 

 カナメは拳を止めていた人差し指をピンと弾く。

 ヤマトの大柄な体躯がボールのように弧を描いて数メートル先の地面に叩き付けられる。

 

「とりあえず、今週中、俺に一発当てたらノルマクリアな」

 

 

 ツバキノミヤ(椿宮)カナメ(奏芽)――

 

 日本国の現天帝と言えばどのような人物か容易に理解できる。

 

 ただ、ひとつ勘違いされやすい事がある。

 

 

 それはカナメが等級甲種だと思われることだ。



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