33_修練進化_カナメ
ナガトが感染者等級を丙種に上げるため椿宮師団を尋ねてきた。
カナメはついて早々にカナメは演習場と呼ばれる四角く柵で囲った簡素な砂場に案内する。
「話はアンナから聞いている。よろしくなナガト、まぁ、必ず余が面倒を見るかは知らんけど」
「よろしくお願いします」
「まぁ、気長に頑張っていこう」
緊張するナガトを励ましながらカナメはナガトの機微を捉える。
(プロファイルによれば、かなりの手練れであのフソウの弟か、それにしてはいささか大人しい気もするな)
「ナガト」
「なんですか?」
「獣桜組は知っているな?」
「名前だけですが」
「実は獣桜組の親、獣桜エマはフソウと仲がかなり良いんだ」
「へえー、そうなんですね」
ナガトは関心を寄せる。カナメはその様子をじっくりと観察する。
数秒後にナガトは首を傾げる。
「あれ、そしたら俺の感染者等級を丙種に簡単に上げてもらうなら獣桜組に行けば良かったですね。どうしてアンナ先生は椿宮師団で受けろと言ったんだろう」
(察しが良いな。見所があると思っていたがなかなか悪くない)
カナメはニヤリと笑う。
「あえてこの椿宮師団にしたんだろうな。なんでも甘やかしちゃ育つものも育たねえからな」
「それもそうですね」
「そうだな」
そんな会話をしているうちに、演習場に背の高い男が現われる。
「お、来た来た」
「カナメさんどうも」
大柄な男がのそのそとものぐさな表情で一瞥する。
「お、ヤマトさんじゃん」
「ん? あー、ナガトじゃねえか」
「あの時ヤマトさんが助けてくれなかったら今どうなってたかわからなかったよ」
「ナガトがツイてたそれだけさ」
「ん? お前ら面識あんの?」
「以前、助けてもらったことがあるんです」
「そうだったのか」
(あー、少しこれは……最初の訓練しちゃ厳しい……いや、あえてこっちで行こう)
「よし! 等級昇格候補生共、俺の訓練は厳しいぞ」
「おう、いつでもいいぜ」
「よろしくお願いします」
ヤマトとナガトは揃って性格がよく出ている挨拶をした。
「よし、じゃあ今からお前ら殴り合え、最後に立ってた方が勝ち。武器の使用は禁止それ以外は自由」
「えっ――?」
ナガトのきょとんした表情をした。だがそれは一瞬で歪むことになる。
(うーわ、マジか……)
カナメの話が終ったと同時にヤマトは即座に臨戦態勢、そのままナガトに拳を打ち放つ。
顔面に拳がめり込んだナガトはそのまま後ろに倒れる。
(この動きじゃ、あの噂は本当だったか)
カナメは期待と驚きが芽生える。
(人食い虎か)
ヤマトの指先は赤茶色の体毛に黒の虎柄のラインが入り、全身が獣へと姿を変える。まさに半獣半人が当てはまる。
隆起した筋肉を覆う分厚い毛皮、鋭い爪と牙、まさに野獣。
ヤマト ベース ベンガルトラ。
ネコ科動物において大型種に位置付き、極めて獰猛な生物、数多くの死者を出している。
しなやかで柔軟な筋肉から繰り出される一撃は人間であれば容易く致命を取ることが出来る。
もちろん、ヤマトにもそれらはしっかりと受け継がれている。
(にしてもあの一撃はやべえな。最悪死ぬな)
カナメはヤマトに拍手を送ってやりたがったが、どうやらそう言うわけにもいかないらしい。
カナメの一撃を受けたナガトは尻尾を展開して後ろにバク転の要領で衝撃を逃がす。それでも脳震盪でかなりふらふらだった。
(へえ、あの一撃を沈まないのか。やるな)
カナメは想像以上の素質に期待を弾ませた。
が、この後の30秒でカナメは頭を抱えることになる。
ヤマトは先ほどの鋭い一撃で終ること無く次の一撃をぶち込むために鋭い爪をナガトの右肩と頭に食い込ませる。そのまま地面に叩き付けるように腕を振り下ろすと同時に顔面に膝を撃ち込む。
その応酬を間髪入れずに何十発もたたき込む。
「やめ! やめ! そこまで!!」
カナメの一言で止ること無くヤマトの攻撃がナガトに降り注ぐ。
物理的に二人の間に入り、ようやくヤマトはストップする。
(厄介だな。素質のある問題児だなこりゃ……)
砂の上に沈んだナガトは虫の息も同然だったが、よく見るとヤマトのズボンの裾を掴んで負けを認めようとしなかった。
(こっちもこっちで問題児だな)
カナメは前途多難な修行にため息を見せた。
(しゃーない、チユに頼むか……)




