22_鼓動継承_ナガト
ナガトは君影研究所に到着し、所長であるアンナに健康診断を受け問題ないことがわかった。
朝になるとナガトは職員用の食堂に向った。
(時間はちょっと早いけど大丈夫かな)
食堂には既にティータイムをしながら空中に浮遊するモニタードローンで指示を出しているアンナがいた。
「おはようございます」
「おはよう、ちゃんと起きれたようだね」
アンナは食堂管理用アンドロイドに指示を出し食事を用意させる。
「かけたまえ」
「うっす……」
直ぐに味噌汁と白米に焼き魚と小鉢が出てくる。
「いただきます」
ナガトは両手を合わせてから箸を右手に持つ。
出汁の利いた味噌汁に温かい白飯があるだけでナガトはひしひしとそのありがたみを堪能した。
魚も塩が振ってありしっかりと旨味を感じられた。
「おいしいか?」
「はい、うまいです」
「それは良かった。作った甲斐があったというものだ」
「これは先生が?」
「何か問題か?」
「いえ、ありがとうございます」
「こう見えて一児の母親だったかね。これくらい作るのはなんてことないよ」
(母親だった。だったということはこの感染症できっと)
「そうだったのですね」
「丁度、ナガト君と同い年くらいだろう」
「それは……」
「ああ、いや、まだ生きてるよ」
「あ、そうなんですね。よかった」
「もっとも……死なせてやれてないと言うのが正しいのかもしれないがね」
「死なせて?」
「そのうちわかるさ、今は知らなくても良い。早く食べてしまいなさい」
「わかり、ました」
ナガトは直ぐに食事を済ませるとアンドロイドが食器を回収する。それと交替する形でお茶が提供された。
「さて、昨日の検査でナガト君のバイタルと心理状態ともに安定がわかったのだが、感染のベースが増えている点が不可解で色々調べたのだが」
「何か悪い事が?」
「結論を言うと、さっぱりわからん」
「えぇ……」
「だが通常の人間の遺伝子と乖離した箇所がいくつか見つかった。6箇所あるのだが、うち2つは活性化状態、残りの4つは不活性化状態であることがわかった」
「えっと?」
「活性化している2つがトッケイヤモリとカーペットパイソンであることがわかっているが不活性化している4つは未だに謎。今後活性状態になる可能性は十分にある。その形質から生物を特定することができるかもしれない」
「ざっくり言うとあと4つ、他の生物の能力に覚醒する的な?」
「平たく言えばそうなる」
「へー、キメラっすね」
「全くだ。そしてベースを6つ持つのは理論限界の数だ。流石私が産みだした感染者と褒めてやりたいが、こうなるとは当時まったく予想ができていなかった。仮説すら立てられていないのは学者失敗だな」
そのわりにはアンナは楽しそうだった。
「じゃあ、俺って結構特別な人間だったりします?」
「うぬぼれるな」
「はい……」
「よく覚えておきたまえ、人間は等しく皆特別なのだ。ただ現実問題、社会において有利不利はどうしてもあるだけなのさ」
(口調の割りに優しい人だな)
ナガトは湯飲みに入ったお茶を飲む。
「あっっつ!」
「ゆっくり飲むと良い。さて私は実験の続きをする。君は、そうだなフソウが帰ってくるまでゆっくりしているといい。明日には帰ってくると連絡があった。昔からブラコンだとは思っていたがここまでとは」
「俺がおかしくなっている間何があったのですか……」
「たしかあれは――」
アンナの携帯端末が振動する。応答ボタンを押してアンナは通話を始める。
『よ! アンナ! なんか虫の知らせを感じたから連絡だ!』
「……気持ち悪いほど勘が鋭いな」
『まぁ、そんな褒めるなって!』
「で、それ以外に何か用があるのかね?」
『いや、マジで特にない』
「そうか、じゃあ切るぞ」
『あっ、最近、シルバーベルが妙に活動的になっているらしい。関係ないとは思うが気をつけろよ!』
「わかった。では引き続きお使いを頼む」
『おう、明日の朝には帰るからな! ナガトによろしく伝えといてくれ! じゃあな!』
足早にフソウは通話を切った。
「昨日もそれは聞いたのだが……」
「相変わらず元気だ……」
「まぁそう言う事だ。今日はゆっくりしているといい」
アンナは去って行った。
「いや、何しよう……」
とりあえず、ナガトは二度寝することにした。




