21_鼓動継承_ナガト
ナガトはフソウの指示で東北は会津に拠点がある君影研究所に向った。
(感染者の体って便利なもんだな)
会津の一帯はフソウが掃除をしたことで平和そのものだった。せいぜいがツキノワグマが顔を出すぐらいで多少命に影響がある程度だった。
(ここが君影研究所か、真夜中だけど大丈夫かな)
元々は病院らしく看板は元々あった病院名のところに板を上から張り付けてペンキで“君影研究所!!”と書いてある看板が掲げられていた。
(姉ちゃんだな、これ)
奥に進むと、エントランス入り口の監視カメラがナガトを捉えると自動ドアが開いた。
中に入ると警備ドローンが「イラッシャイマセ」と人間とそうかわらない合成音声で迎える。内部は病院らしい無機質冷たい印象をナガトは受けた。
「ナガト君じゃないか!」
いくつかの浮遊型のサポートドローンを引き回しながら女の人が息を切らして駆け寄ってくる。
「あー、えーっと、あなたがアンナさん」
「以前に何回か会っているが君は覚えていないか……いかにも私が君影研究所所長のキミカゲアンナだ」
少しだらしない長い髪に恐ろしいぐらい整った顔立ちに包容力とシックな印象が同時に得られる奇妙さ、ただ白衣を着ていることから医者か科学者でありそうとはナガトは勝手に納得する。
「よろしくお願いします」
「いやぁ、もう体と心は戻ったのかい?」
「ええ、随分、時間が掛かりましたが」
「いや、それでもいい。君は家族をその手で弔い、そして家族に食い殺され掛けていたのだから」
「食い殺されて? それっぽい傷跡は――」
「傷跡なんて無いだろう? 当然だ私はこれでも腕利きの外科医だからね。ま、今は総合診療医兼レブルウイルス研究者だけどね」
「そうだったのですね。その節はお世話になりました」
「いいさいいさ、それよりも久々に体を見せてくれ」
「え? 体って……」
「検査さ、今まで本腰を入れた検査することはなかったからね。健康状態のチェックだよ」
「あ、はい」
このアンナに基本的な健康診断を受けた。
検査はアンナが手際良く淡々と進めたため、ナガトは時間を感じる間もなく検査の結果がでた。
「検査の結果が出たよ」
「え、早くないですか?」
「今患者は君だけだからね」
「それで、俺はどうだったんですか?」
「内臓機能に問題は無し、年齢から考えても健康だね。少し脱水症状と栄養失調の傾向が見られるがしっかりご飯を食べば問題ない範囲だ」
「そうですか」
「じゃあ、次に感染状態についてだが」
「お願いします」
「まぁ、感染者になってから特に変わりは無いようだね。君は私の作品でもあるわけだから把握はほとんど出来ているんだけどね」
「作品?」
「このレブルウイルスなんだが、特殊感染者の中で更に特殊な状態にある人物が何人かいる。私を含めた彼女らは特定の感染ルートでウイルスを感染させると極めて高い確率で特殊感染者を生み出すことができる感染者だ」
「感染者製造マシーン感染者ってこと?」
「微妙にダサいのが癪に障るがそういうことだ。これを我々は『親』と呼んでいる。そして親を経由して出来た特殊感染者を『子』と呼んでいる」
「俺はアンナ先生の子になるってことか?」
「その通り。今々、親と言ってナガト君に関係あるのは椿宮師団のトモエ、獣桜組のエマ、そして私だな」
「トモエさんは親だったんだ」
「面識があるのか。結構だ。親はこのレブルウイルスを解明するために非常に重要なポジションだ。だから組織を編成して親を守るような構造をしている」
「そうだったんだ」
「話が少しそれたね。それでウイルスの状態だがまずナガト君のベースはトッケイヤモリという爬虫類だったね」
「あ、そうなんだ」
「ん? んんん?」
アンナが検査結果を見て首を捻る。
「え、ちょ、どうしたんですか?」
「ベースが増えている……今のベースはトッケイヤモリとカーペットパイソンに増えているね。これは興味深い。指先からバラバラにして細部まで調べてもいいかね?」
「え、死にません?」
「死ぬねえ」
「死ぬじゃないですか、いやですよ」
「冗談さ、真に受けないで欲しいよ。そんなことしたらフソウが暴れるさ」
「心臓に悪い冗談ですよ」
「バラバラにして調べたいのは、ちょっとやりたいところだけど」
「ちょいちょいちょい」
「はっはっは、すまない。からかうのが楽しくなってしまった。とりあえずしばらくはそのままで大丈夫だろう」
「わかりました」
「とりあえず、今日は三階にある病室のどこかで休むといい。私は最上階執務室か地下実験場にいる。本当に何かあればナースコールを押せば私に繋がる」
「わかりました。ありがとうございます」
「あ、朝食は朝8時だ。寝坊すると冷めてしまうからちゃんと起きたまえよ」
「お、飯ありがとうございます」




