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17_生存遊戯_ナガト

 

 

 感染者に噛まれたセレネを救うべくナガトは夜の東京を縦横無尽に駆け抜けていた。

 目指すは椿宮師団、嘘かも知れないがナガトは信じるしかなかった。

 

 

 

「ナガト……私は」

「大丈夫、大丈夫だ」

 

 ナガトの機動力は並大抵の人間を大きく上回る。

 外見はまるでヤモリと蛇と人間を混ぜたような形態をしている。

 

「ナガト、なんで戻ってきたの?」

「……何でだろうな、たぶんお人好しなんだと思う」

「そう、なのね」

 

「大丈夫、助けるよ。大丈夫だから」

「当てはあるのかしら?」

「ここから少し行ったところに椿宮師団っていう感染者の寄り合いがあるんだ。そこを頼るよ」

「感染者の寄り合い……あなたみたい人が大勢いるのね」

「そうだね」

 

 

 新宿から椿宮師団まではおおよそ5kmほど、今のナガトならこの悪路でも一時間はかからない。

 

 

 ほどなくして、椿宮師団の門を叩くことになった。

 

(頼む。頼む!)

 

「どちら……あぁ~、アンタか。姫殿下から話は通っている入りな」

 

 守衛の男がナガトの姿と見て直ぐに門を開いた。

 

「まるで和風の宮殿ね」

「いや、ここは本当に宮殿だよ。まぁ中の人が本物かは知らないけど」

 

 そんな会話をしながら、回廊を進み波の間という部屋へと向う。

 

「よく来て下さいました」

 

 車椅子に乗ったトモエが丁寧に一瞥する。その後ろには以前、ナガトに掴みかかろうとした男が静かに佇んでいる。

 

「助けて欲しいです」

 

 トモエはナガトに背負われているセレネを見て頷く。

 呼び鈴を鳴らした瞬間に、どこからともなく人が現われて、セレネをストレッチャーに寝かせて運んでいった。

 

(わたくし)はやることがあるので。あとは兄様にお願いします」

 

 トモエはセレネを追うように部屋から出て行った。

 

「…………」

「…………」

 

 兄様と呼ばれる人物が、ナガトにゆっくりと歩み寄る。

 

「…………」

「…………」

「いやぁ~~~この前は悪かったな。誘拐犯だと勘違いしちまったよ」

「は、ええ、はあ?」

「約束通り、いやそれ以上の恩を返させてもらうぜ。まずはあの麗人、感染しちまっているようだしそれを何とかする」

「そりゃ、どうも?」

 

 ナガトは兄様が想像以上にフランクな人物で拍子抜けした。

 

「ん? あ~悪い悪い。自己紹介がまだったな。余はツバキノミヤ(椿宮)カナメ(奏芽)だ」

「ナガトです」

「ナガトか、名字があれば教えてくれ」

「いえ、ありません」

「そうか、新しい時代の名前だな」

 

 カナメ少し寂しそうに言った。

 

「セレネは助かるのですか?」

「それは感染症が完治するという意味かい?」

「そりゃそうですね」

「無理だな」

「なっ――」

「この病気は未だに根治できていない」

「え……」

「だから、彼女……えっと?」

「セレネです」


「Mrs.セレネは厳密には治療じゃない」

「どういうことですか」

「端的に言うとウイルスの再感染だ」

「は?」

「うちの可愛い妹ことトモエも感染者だがちと特殊でな、アイツは感染者を生み出す感染者みたいなもんなんだ」

「え、じゃあそれってセレネは」

「感染者と言ってもお前みたいな特殊感染者ならゾンビみたいにならない」

「バケモノになるくらいなら俺たちみたいにするってこと?」

「そういうこと」

「そう……ですか」

 

「これも危険な賭けだ。そもそも確定で特殊感染者になるわけじゃないし、特殊感染者になったからと言って下手な変異を遂げれば生きていることに絶望するほどの奇形障害になる可能性もある。誰しもが余やナガトみたいに形態をスイッチ出来るわけじゃない」

「形態をスイッチ?」

「特殊感染者にも色々なタイプがある。例えば俺やナガトみたいに人間の状態とバケモノ状態を切り替えられるタイプ。トモエみたいにバケモノ状態しかないタイプ。そもそも大きな変異が無く人間状態のまんまのタイプ。大きく分ければこの三つ、細かい話はMr.セレネの結果が出る以上の時間がかかるからまた今度な」

 

「それじゃあ、外見がバケモノのままだったらドイツに帰れないのか……」

「んああ!? Mrs.セレネはサバイバルゲームの参加者か?」

「はい、そうですが……」

「あちゃぁ……ちょっと来てくれるか」

 

 カナメに案内されたのは自室だった。

 部屋は質素なもので書類整理の机とベッドとクローゼット、来客用の椅子が二つと自分用なのかゲーミングチェアが置かれていた。

 

(あの椅子の場違い感すごいな)

 

「まぁ座れや」

「はい」

 

 ナガトは床に座り込む。

 

「いや椅子使おうぜ」

「……床が絨毯だったので」

 

 ナガトが椅子に座り直す。

 

「まず、感染者を含めた日本の本州にいる人間は日本から出国することはできない」

「え?」

「サバイバルゲームは現在、余たちの重要な収入源だ。だから特別に許可を出している」

「あ……じゃあセレネは」

「だがサバイバルゲームで感染者となった場合出国は制限されるんだよな」

「じゃあやっぱダメじゃないですか」

「そういうこと」


「クソ……こんなところでセレネは」

「だがしかーし、これにも例外があるんよ」

 

 カナメは机から薬の入ったボトルを取り出す。

 

「これは一時的に二次感染を抑える薬だ。これを週一のペースで飲み続ければ海外に住んでてもいい。プラスでお目付役をこっちから出すことになるけどな」

「じゃあ、セレネは」

「ドイツに帰れるように手配してやるよ」

「ありがとうございます!」

 

「けどこの薬、すげえ貴重品だから。ちょっとナガトにはお手伝いをしてもらって埋め合わせすることになるな」

「俺に出来ることがあれば」

「オッケー。じゃあ、あとはMrs.セレネの運次第だな」

 

 話を終えた後、ナガトはトモエとの約束通り温かい食事と風呂とゆっくり眠れるベッドにありつけるのだった。

 

「そういや……天帝陛下はもう死んでるか、この状況だし」

「ん? いや生きてるぞ」

「え、そうなの?」

「何を隠そう余が現天帝だからな」

「え? まじ?」

「マジマジのマジ」

 



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