167_超越再来_フソウ
フソウのベースは不明とされている。
おそらく既に絶滅した生物であると推測されているからだ。
だが、その本気の姿を見たものは口を揃えて同じ生物の名前を呟く。
その生き物は遥か太古の王者。
その生き物は大地に君臨した。
その生き物は強靱な肉体を力を持つ。
そして誰もがその生き物を見たことはあるが生きた姿を見たことはない。
カナメが最も新しい生物というならフソウはその逆。
おそらく全ての感染者の中でも最も古い。
「手加減できねえからな」
フソウは右足を力強く前に出す。ただの一歩に過ぎないが床に亀裂が走る。
一瞬で距離を詰めると殺気込めた拳が火を噴く。
さながら重機。
「――やるな」
「へえー、面白い」
フソウの右拳をアームストロングの左手が阻み――
アームストロングの右拳をフソウの左手が阻む――
両者拮抗を見せた。
「俺の腕は18トンのダンプカーを持ち上げるが、それを止めるとは」
「これでダンプカー持てるのか、なら私はビルでも持ち上げてやろうか?」
冗談に聞こえない冗談をフソウはうそぶく。
それから徐々にアームストロングの拳を押しのけ始める。
「なんだこの力……ウイルスは確か生物の力を得る。だがこんな力を持っている生物なんて――」
「あ、悪いな言うのを忘れてた――わっ!」
剛力がアームストロングを後ろに下がらせる。
「アタシのベースはティラノサウルスらしい」
「ティラノサウルス……」
「知らないってことないだろT-REXだぞ?」
「そんなファンタジーあり得るわけねえ!」
「どうした? カルシウム足りてねえのか? こっちはようやく体が温まってきたところだぜ?」
アームストロングは拳を固めて一気に振り抜く。
フソウは口角を限界まで上げて笑いながら、その拳を真正面から右の手で掴む。
「出力が負けている……だと」
「ぶっ飛ばす前にちょっとだけ教えてやるよ。私の筋力からティラノサウルスの筋力を逆算した奴がいたんだが、そいつが言うには重戦車と綱引きができるレベルなんだとよ」
アームストロングの拳がグシャリと潰れる。
「さて、アタシは今アンタの腕を掴んでる。これは綱だ。そう簡単に千切れないことを願ってるさ――」
フソウは目を見開いて左腕を握り固める。
トラック同士が正面衝突するような音が響く。
それも一回ではない。十も二十もだ。
「弟の借り、キッチリ返したぜ」
手をパンパンと払いながらフソウは欠伸をした。
「お疲れ様」
ナガトはふらつきながらトモエを抱える。
「おう! じゃあ、帰るぞ!」
「うん、姉さん!」
エピローグ
拝啓 偉大なる師匠へ。
私ことナガトはこの感染地帯の前線に今だ走り続けています。
何度も死にそうなったし、何度も立ち上げなくなりそうになりました。
それでもみんなに支えられて今日も頑張って生きています。
もう少しでそちらに行けそうですが行ったらあなたに殺されそうになると思うのでもう少し生きてみようと思っています。
敬具 感染地帯より生存報告