166_超越再来_ナガト
(あっ、やっちゃったなぁ――)
吹き飛ばされたナガトは空中に放り出された数秒、その間に損傷箇所を感覚で調べる。
(内臓は……まぁまだ大丈夫、筋肉は千切れちゃったか……)
体を捻ってそのまま立ち上がる。気丈なフリをしているが肉体はあの一撃でボロボロになっている。
(……二人を使うか)
ナガトはポケットにある送信機を起動させて合図を送る。
(ダチュラさんの能力と空調を計算して……ざっと7分ってところかな)
「ほう……感染者ってのは意外と頑丈なんだな」
「そうでもないさ」
「俺はアームストロング」
(アームストロング……アメリカ特殊部隊出身、たしか今は雇われ傭兵でアフガニスタンにいたはずじゃ?)
「名乗れよ、ジャパニーズ?」
「採択者って呼ばれてる」
「チンケな名前だな。もっと言い名前はねえのか?」
「……じゃあ、トッケイ」
「トッケイ、採択者よりは聞こえがいい。さて、アメリカでコソコソ色々やっていたドブネズミ、どうしてお前の動きがわかったか知ってるか?」
「……おおよそ」
倒れているチユに視線を向ける。
「話が早い、この女はクローンでも超がつく一流の仕事をした。本物は一体どれだけの仕事をしたんだろうな?」
「さぁ、でもまぁ、俺を止められないくらいだし、これで一流? って感じだよ」
「言うねえ。確かにこれならお前を雇った方が良い。いくらだ?」
「気に入らない仕事は引き受けない主義なんだ。例えば……アンタみたいな奴からはミリオンダラー積まれてもやらないさ」
「言うじゃねえか、気に入った」
送信機が小刻みに震えてナガトに合図が返される。
(サ・ク・セ・ン・チュ・ウ・シ……? 作戦中止!?)
「どうする? 感染者相手に勝てると思ってるのかい?」
「俺の体、この体は最新鋭の技術を注ぎ込んだ圧倒的なパワー!」
アームストロングが丸太よりも太い腕で壁を殴る。
たった一撃で周囲の壁を粉砕する。飛び散った石の破片が銃弾のように飛び散る。
(ゾ・ウ・エ・ン・ク・ル……増援? 一体誰が?)
「凄いパワーだね。こんなの食らったらハンバーグになっちまうな」
「今日はトカゲのハンバーガーで決りだな」
(ウ・エ・カ・ラ……?)
ナガトは上を見上げる。地下通路の天井の奥から、鈍い音が聞こえる。
(あー……なるほど、スゲエ良いよ。最高だよ)
「残念だけど。俺はアンタには勝てない」
「だろうな」
「だからトモエ殿下を救出したらとっととずらかるよ」
「できると思うか? ここを! 通れると! 思っているのか!」
「ああ、できるとも――」
ナガトは歯を剥き出しにして笑う。
そしてセリフを続ける――。
「俺じゃないけどね」
天井、砕ける。
「なんだぁ?」
「おっとっと、ふう……間に合ったみたいだな」
上半身は黒いビキニような格好で、下半身はホットパンツ。
およそ戦場に赴く格好ではない。
だがその圧倒的な存在感はまるで重力に引きつけられるかのようだった。
「なんだ……この雰囲気、ただの女ってわけじゃねえ」
「あー、ナガト、その腹をやったのはアイツでいいか?」
「うん、合ってるよ。姉さん」
「そうか、ちょっとぶっ飛ばしてくる」
「いってらっしゃい」
「初めまして、えーっと? まぁ誰でもいいや、アタシはフソウ」
「アームストロングだ」
「そうか、弟を随分可愛がってくれたな。この借りは高く付くぜ?」
「なんだ、夜の相手でもしてくれるのか?」
「残念だが。アタシはナースなんでな夜は患者の面倒を見なくちゃいけねえんだ」
「ナース? 笑わせるじゃねえか!」
「ナースはナースでも――」
フソウは大きく息を吸う。
そして咆哮と共に吐き出す。
「君影研究所、感染者等級甲種! そして甲種等級最強はアタシさ」
フソウの指先がまるで怪物のように変化する。
鳥の足のようであり爬虫類でもあるがどれにも該当しない。
体の一部には鱗と羽毛が生える。
「来やがれ!」