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165/167

165_超越再来_ナガト

 

 懐かしい匂い。

 在りし日の思い出、それでいて地獄のような日々。

 

「やりやがったなアメリカのクソ共ッ!」

 

 ナガトが激昂を露わにしてしまうほどの出来事が起っていた。

 

「あら? あなた私の知っているのかしら?」

 

 よく知っている顔、何度もその笑顔でナガトを地獄に追いやった人間の顔。

 

「……覚えていないのですか?」

「ごめんなさい、私のサンプルは七年前に採取された遺伝子なの」

「そう……ですか」

「私が知らない私の知り合いだったみたいね。あなたは私の何だったのかしら?」

 

 優しく穏やか表情とは裏腹に棘のある言葉、小柄な体にグラマーではないが妙な色気があるその体をナガトはよく知っている。

 

 チユだ。

 

 だがナガトの知っているチユとは違い頭に獣耳はないことから感染者になる前の姿であることは直ぐにわかった。

 

「よりにもよってあなたがここで立ち塞がるとは」

「そうね、私は情報戦が得意なんだけど、アメリカも急に私を目覚めさせていきなり命令を出すんだから困ってしまうわ」

「はは、そりゃあいい」

 

 ナガトは袈裟懸けしていたレーザー式のアサルトライフルを構える。


「あら物騒ね」

「あなたにはこれでも足りませんよ」


(これはおそらく師匠のクローン……師匠が伝説の工作員、愛国者であることに気付いてそのクローンを作ったのか)

 

 まさかそれがよりにもよって一番弟子であるナガトにぶつけられたのは偶然だった。

 

 ナガトは即座に引き金を握り込む。

 カチカチっと音が鳴ってロックがかかる。

 

(ハッキング、まずい)

 

 銃本体を掴んで攻撃に備える。

 鋭いナイフが銃を貫いてナガトの眼球の数ミリ先で止る。

 

「あら――」

 

 二発、ほぼ同時であったため二発であることにさえ気付けないほどの速度。

 両脇腹にチユの足が交互にめり込む。

 

「うっ――」

 

 ナガトは尻尾を展開して地面を支えながらサマーソルトを放つ。

 だがチユは素早く反応してバックステップで後ろに下がって避ける。

 

「この動き……私と同じ師匠かしら?」

「どうでしょうね――」

 

 ナガトはサマーソルトで上下が反転した体をそのまま天井まで運んでヤモリの足で天井に張り付く。

 膝を曲げてそのまま跳ねる。

 チユの足下に着地すると地面張り付くように低空姿勢で右足で足払いをする。

 

 だがチユのふくらはぎ、その寸でところでナガトの攻撃は止る。

 

 何か硬いものに当り、ナガトの足は拘束されたように動かない。

 その瞬間をチユは見逃すことなくナイフを振り下ろす。

 ナガトは尻尾で体をずらしてナイフを避けると左足で水月を蹴り上げる。

 

「ッ――!」

 

 衝撃を逃がすためにチユは後ろにわざと飛ぶ。

 足の拘束が解除されるとナガトも体を立て直す。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 ナガトは腰にあるナイフのロックを外し、刃を抜く。

 チユと全く同じ構えを取る。


「へー、私師匠は弟子は私だけって言ったけどあれは嘘だったのかしらね?」

 

 チユは言葉をナガトにぶつける。

 ナガトは表情を一切変えず、何も答えない。

 

 それすらもチユにとっては心読むのに十分な反応だった。

 

「ねえ、あなた、私と一緒に組まない?」

「……」

「あなたと私、スタイルも似てるしきっとベストパートナーになれると思うのだけど?」

「そうかな?」

「それに体の相性もとってもいいと思うわよ。私意外と尽くすタイプだから」

「はは、素敵だ。だけど残念、先約がいるんだ」

「あら、残念」

「あーでも、男選びの趣味は凄く良いよ。あと正直言うけど俺もあんたの顔、スゲエ好みなんだ」

「あら、あなたも女の趣味とっても良いじゃない」

「すげえ良い女にさ、鍛えられたんだ。あんたとは比べものにならないほど良い女にさ」

「あら、残念」

「所詮アンタは顔と体だけだよ合格してるのは」

「ふーん、じゃあ、あなたを殺して死体からクローンを作って私のものにするわね」

「ご自由に――」

 

 チユは前に躍り出る。

 

(ああ、その構え、そのモーションは――)

 

 懐かしい記憶が駆け巡る――。

 

(よく知っていますよ)

 

 ナガトは目からひと筋の線を作る。

 

(何十回、何百回も教えてくれた技ですね。ナイフ訓練のとき最初にやる技がそれでしたね)

 

 ようやく理解する。

 

(ああ、あなたは最初から全てを継承したら俺に殺されるつもりだったんですね。それが一人前の条件――)

 

 ナガトは右で持つナイフとは別に左手に綺麗な彫刻が施されたナイフを取り出す。これはお守り代わりに肌身離さず持っているナガトの宝物。

 

 大好きな人の形見――

 

 その技は人間の反射と無意識を利用した異なる致命部位へ連続攻撃。

 初見では回避出来ない、チユの必殺技。

 

 

「御無礼――」

 

 ナガトはチユの動きを逆手に取りカウンターを決める。

 

「嘘――そう、あなたの師匠は――私――」

 

 両腕両足の靱帯を両方のナイフで突き刺して切断する。

 

 

 

「あなたの四肢はもう使いものになりません」

「そうね……負けちゃったわ。でも悪い気はしない。あっでももうちょっとだけNNEDの練習はしておきたかったわ」

「あれは空気を固定して壁にする能力ですか?」

「ええそうよ、昨日の今日で得た能力、やっぱり上手く使いこなせないわ」

「ですね……訓練しないと」


「そうね、さぁ殺しなさい」

「わかりました」

 

 ナガトはナイフを逆手に持つ。

 柔らかい肉を掻き分けて、その先にある鼓動を止める。

 

 次の瞬間、ナガトは衝撃で吹き飛ばされた。


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