163_超越再来_ナガト
ナガトは事前のブリーフィングでトモエのいるアメリカにある地下研究所の地形と救出ルートと役割を他のメンバーに伝えている。
と言ってもやることは簡単で空調設備を乗っ取ってダチュラの能力を使い研究所内を制圧する。ヤクゼンはそのサポートと他のメンバーがしくじった時のために待機する手筈になっている。
ラッキーなことにトモエの部屋はウイルス感染対策のために特殊フィルターが備え付けられているためダチュラとヤクゼンの能力が及ばない構造になっている。
施設内全てに特殊フィルターがつけられていないところからトモエの受け入れはかなり急ごしらえであったことが容易に想像できる。
順調に事を運べているが、ナガトは嫌な予感がしていた。
あまりにも順調に行きすぎているからだ。
(計画が完璧だった? ……いや、違う)
ナガトとムサシはガスマスクつけて、研究所の通路を走る。
「ナガト君、この先から凄い殺気を感じる」
「ムサシさんもわかりますか?」
「……ナガト君、先に行ってくれ」
「わかりました」
「ふっ……そこは二人で協力しましょうとかじゃない?」
「それなら最初からそう言うじゃないですか」
「そうだね」
先の通路にはわかりやすく男が通せんぼをしていた。
「ほぉ……ゼロの言っていた通り本当に来たな」
全身を強化外骨格に改造し、その上軽量プラスチック装甲を全身につけている男が樹脂製の棍棒を構える。
「はは、小生の対策もバッチリってところだね」
「どうします?」
「二言はないさ、まずはナガト君を通すよ」
ムサシは刀を抜くと目にも留まらぬ速度で男に一太刀浴びせる。
男は避けることもせず一刀を浴びるがプラスチック装甲によってかすり傷ひとつついていない。
「冗談キツいよ――」
ムサシはウイルスの能力を発現させ、亀の甲羅や外皮を纏う。
「あらよっと」
棍棒の鋭い一撃がムサシの胸をつく。
「痛ッ……」
硬い外殻の上から浸透する衝撃にムサシは苦笑いを見せる。
呼吸を正して痛みを逃がすと更に一歩踏み込む。
太刀のひとつき、それはフェイント。
刀を手放すと男の胸ぐらと腕を掴み体を捻る。
そのまま男を頭から垂直に投げ落とす。
見事な背負い投げを食らわせる。
「おっと、柔道もいけるのか」
「さぁね」
強化外骨格による規格外のパワーに捕まらないようにムサシは素早く手を放す。
「今だ!」
「ありがとうございます!」
ナガトは天井を駆け抜けて先へと進んだ。
(ムサシさん、負けないでください)
ナガトはエレベーターに乗るとしたの階層へ進んだ。