161_超越再来_ナガト
「アスペル先生、例のデータ、手に入れましたよ」
『ナガト君、随分仕事が早いね』
「急いで片付けないとタスクに押しつぶされそうです」
『今アメリカだっけ?』
「ですです」
『……喋ってていいの?』
「この電話は20カ国のサーバーを経由していますのでそう簡単には見つかりませんので」
『いや、それならいいんだけど』
「もちろんリスクはあります。が、それより姉を優先してください」
『理論上ならこのデータで全ての臓器を復元できるはずだからもう間もなく目を覚ますはずだよ』
「それは、嬉しい連絡です」
『まぁ起きたら数年後になってるのは浦島太郎もいいところだけど』
「それでも死ぬよりは遥かに」
『……そうね』
「はい」
通話を終える。
「さて、次は」
ナガトは番号を変えて再度電話をかけ直す。
『何かしら? こっちは忙しいのだけれど?』
「こっちも電話なんてかけたくないさアイボリー」
『それもそうね、それでご用件は?』
「そっちの首尾は?」
『ええ、順調よ。アジアから中東まで、そこかしこで内戦が起きているわ。食べ物の恨みは怖いわね』
「そうか、アメリカのニュースでも引っ切りなしさ、NNEDも厄介だね」
『ほとんどが非戦闘向けよ。でも無限の食糧を出せる能力で貧困層に食糧を与えて内戦を誘発させる。当然、世界のアメリカ様は事態を収めるために率先してリーダーシップを働かせてあっちこっちに軍を派遣、それを狙ったかのようにイタリアでは感染者の親個体が好き勝手、世界を目茶苦茶よ』
「だね、俺たちはアメリカに潜入してその間に必要なデータの収集と、トモエ殿下の救出」
『こっちはお膳立てしてあげたんだから』
「そりゃどうも」
『それでそっちのお姉さんはどう?』
「一応順調かな」
『あれにもう会いたくはないけど、快方に向っているならそれでいいわ』
「こっぴどくやられたらしいね」
『ええ、笑っちゃうくらい』
「そっか、じゃあ急いで目覚めさせるよ」
『皮肉がお上手で』
一方的に電話が切られる。
「そりゃどうも」
ナガトは静かにアメリカの街並みを眺める。
ビルの屋上、涼しい風が吹く。
「さて、色々派手に動きすぎたしそろそろ身を潜めよう。一ヶ月くらいベガスでバカンスでもしようかな」
端末でネットサーフィンをしながら暇つぶしをナガトは考えていた。