154_英雄顕現_ヘラクリス
ドーバー海峡は穏やかな波の音。
ホワイトクリフから眺めるには最高だった。
ヘラクリスは天帝にメッセージを送る。
(そろそろこの携帯端末も傍受される頃か、後は頼みます日本の御仁よ)
ヘラクリスはキャンピングカーに仕舞われた軽量合金製のエグゼクティブアーマーを着込み、右腕には身の丈ほどのタワーシールド、左手にはソードスピアを持つ。
いずれも戦士競技で最も愛用した武具である。
「オーロラ、間もなく迎えが来るでしょう」
「ええ……ヘラクリス、あなたはどうするの?」
「ふふ、わかっているのでしょう?」
「……ダメよ、ダメに決まっているじゃない!」
「オーロラ、私は私の務めを果たします」
「…………ダメよ」
「はぁ、まったくあなたは……私は死に行くわけではありません、ただ行き先が死地なだけです」
「それを死にに行くって言うのよ」
「わかってください。もう時間はありません」
ヘラクリスはメッセージを確認する。
『あと20分でホワイトクリフに着く、目印をくれ』
空を見上げる。
照明弾を打ち上げる。
「では、次なる生でもあなたのお側に」
「――っ」
ヘラクリスは前へ進む。
ここまで来るのに多くの擁護派の命を失った。
それでも、たったひとりの王女のためには安いものだと皆口々に言った。
ヘラクリスもまた同じなのだ。
ヘラクリスは前へ進む