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148_闘争矜持_ノーチェ

 ノーチェは顔面蒼白だった。

 まさか拾った男が、裏社会で三本の指に入る大御所の息子とは思いもしなかったからだ。

 

「よりにもよって、また来るって行ってたしこれ絶対潰されるやつじゃない!」

 

 ノーチェは荷物をトランクケースに詰め込んでシチリアを去る準備をしていた。


「大丈夫、大丈夫、今はまだ病室のベッドの上、これから高飛びすれば逃げ切れるはず」


 と言い聞かせていたが、ヤマトはあっさりとノーチェの店に顔を出した。


(終ったわ、パパ、ごめんなさい……)



 店内は貸し切り状態となり、ノーチェとノーチェの父親ことインズィミーノファミリーのボスとテーブルに着く形となる。

 

「どうした? なんかあったか? ノーチェは縮んでるし」

「ベースのクロアシネコの力で小さくなってるだけ、こっちの方がコンパクトで良いのよ」

 

 小さくなることで銃弾とかの被弾も下がる意味合いもある。


「その姿、いつ見ても小さい子供にしか見えねえな」

「そうね、小学生か小さい中学生に見えるわね」



「さて与太話もこれくらいで、今日は前に言ってた話の続きで」

「ごめんなさい、何を話してたっけ?」

「ほら、ここの組を守るためにノーチェがどっかの組に買われるとかって話があったろ?」

「ええ、はい」

「で、それ以上の金額を渡せばなんとかなるって言ってたからこれで足りるか聞きたくて」

 

 ヤマトはアタッシュケースを差し出す。


「か、確認するわね」

 

 ノーチェは恐る恐るアタッシュケースを開ける。

 

「……嘘、いやこれ……嘘……」

「あっあっあっ」


「どうした? 二人して」

「…………お父さん」

「ノーチェ……」


「?????」


「これが最後、お別れね」

「そうだな……」

「……足りなかったか……もう少し用意できるが」



「ちょちょちょ、多い! 多すぎるの!」

「じゃあ、買えるでいいんだな」

「ええ、そうなるわね」

「よかった」


「で、何をさせたいの私に」

「何? 考えてないな」

「はぁ?」

「いや、ここには世話になったからな。恩人に報いるのは当然だろ?」

「てことは、私が他の組に買われるのが嫌だとぼやいたからそれならそっちで私を買おうってしたの?」

「そうだ。悪い話じゃないだろ? まぁ金は受け取ってくれ宿代払ってねえしな」

「いや、こんな大金をポンと出して、あんた組に殺されるわよ!」

「頭取から貰ってきたから大丈夫だろ――」


「邪魔するなー」


 扉の鈴が鳴ると同時に一人の大層綺麗な女性が現われる。


「ん? 頭取どうして?」

「いや、なに、物騒なこと言ってホテル出てった馬鹿息子が何してるか見に」

「見ての通り」

「…………」


(ヤバイヤバイヤバイ、もう沈められるの確定じゃ……)


「……なぁヤマト」

「ん?」

「この子を買う言うたん?」

「まぁそうだな」

「あんたそう言う趣味なん?」

「趣味? あーまぁーそうかな?」


「ヤマトさん」

「ヤマトでいいよ、どうした?」

「そちらになんて言って来たの?」

「女を買うって」

「…………」


(女を買うって言って、小学生くらいの女児を買おうとしてるのを見る母親、そりゃあ青い顔もするか)


「ちょっと待ってね」

 

 ノーチェは自分の部屋に戻ると本来の格好に戻って、再び席に着く。


「あー、あんさん感染者なんね」

「ええ、本来の姿はこっちです」

「そうかーそうかー」

「安心下さい」


 物凄く安堵したエマの表情にノーチェも胸をなで下ろした。

 

「して、馴れ初めは?」

「えっと、たぶんですが、違うと思います」

「と言うと?」

「この人は単純に、私のファミリーを守るためにお金をくれただけです」

「ふーん……まぁそういうことなら、てっきりうちは嫁を取りに来たのかと思たわぁ」

「いや、私も妾にでもされるのかと……」


「……なんか変なことになってるな」


「「あんたのせい!」」


「そうか、悪かったな。あと妾以前に俺にツレはいねえ」


「意外とお固いのね」

「でもまぁ嫁か……」


 ヤマトは視線を上げて少し考えてる素振りを見せる。


(まぁ、私みたいな背の高い女は嫌よね)


「ノーチェ、来るか?」

「はえ……? えっと、どういうこと?」

「来るのか、来ないのか」

「何に?」

「嫁に」

「いや、結婚したい要素、私に無いでしょ?」

「飯が美味い、天才ハッカーだったか? じゃあたぶん頭が良い、話も面白い、美人。これだけ揃ってりゃ十分だろ?」

「いや……」

「どうすんだ?」

「ちょっと待って」

「ここで決めろ」

「あーもう! わかったわよ!」

「よし、決りだな」


「そんなに私が欲しいってことでいいのよね!」


 今出すことができる最大限の皮肉をヤマトにぶつける。


「ああ、そうだ」

 

 この男は即答する。


 

 この後、ノーチェ、もといインズィミーノファミリーはシチリアマフィアの中でも超異例の大出世をすることになるとはまだ誰も知らない。


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