145_闘争矜持_クラマ
馬組元組長にしてエマの左腕、獣桜組最強と謳われた男がいる。
名はクラマ、つけられた二つ名は求道者と名付けられたがその前の二つ名剣客と呼ばれることが多い。
その強さはとは。
「ふーん、シチリアの月夜も綺麗なもんじゃねえか」
のんびりと地酒に舌鼓を打ち、シチリアの道を歩く。
「叔父様、もう追いつかれたのですね」
パワードスーツに身を包んではいるものの声で姪のメズキであることは直ぐにわかった。
「相変わらず生き急いでるな」
「まだまだ未熟なので」
「そうかぁ? 立派にやってると思けどなぁ?」
クラマはメズキの隣に立つと肩を叩く。
「お父さんとお母さんに追いつけたでしょうか?」
「さぁな」
感染者であるが故に、力と破壊という意味では、メズキは人間というカテゴリーが逸脱している。
だがその器は、クラマが知る彼女の両親、クラマの兄夫婦には及ばない。
それはクラマにも言えたことでもあるが。
ただ敵を斬り伏せる、組み伏せる、そんな些事はクラマの血筋では当たり前だ。
「これでもまだ足りませんか……もっと鍛えなければですね」
「……少しは肩の力を抜いて、気楽に、気楽に生きて見ろ」
「それで強くなるのですか?」
「今よりは多くのものが見える」
駆動音が響く。
「敵、ですか」
「ちょうどいい、美味しいところ持っていくぞ」
「……どうぞ」
メズキは組員を集める。
ものの数十秒で巨体が姿を現す。
パワードスーツに巨大な鉈のような武器を肩に担ぐ。
「ハハッ、どいつもこいつもチンケだな」
「悪いねえ、そっちよりいいもの食えて無くてね」
クラマは酒瓶を地面に立てる。
スタスタと前に躍り出ると腰にぶら下げたサーベルの柄尻に左手を沿わせ遊ばせる。
「俺はアメリカ陸軍、アレックス。階級は大佐、戦士競技では世界ランク5位にも入ったことがあるんだぜ」
「戦士競技か、懐かしいな。昔は世界選手権を液晶に歯形が付くんじゃねえかって勢いで見てたさ」
「なら、この数字の意味がわかるよな?」
パワードスーツを唸らせる。肉体もかなりいじくっていると覗える。
クラマは戦士競技の選手を聞いて少し胸を昂ぶらせたが、同時に落胆もした。
「ああ、凄いな。お前さんみたいな奴でも5位なんだな」
「どういう意味だ?」
「そのままだよ。どれ、若いのちょっとおじさんと遊ぼうや」
アレックスをおちょくるようにクラマは口角を上げてわざとらしく笑う。
「ふん、遊んでやるのはこっちのセリフだ」
地面を掬うように鉈がクラマの足をさらう。
途端にアレックスの視界からクラマが消える。
「っ――」
クラマはアレックスの大鉈に足を乗せていた。
「なぁ、俺が戦士競技に出たら優勝、できるか?」
「優勝できるだろうな、今ならまだヘラクリズが復帰してねえからな」
「そうか、もうちっと夢を見れる話だ」
サーベルが抜かれる。否、誰もサーベルが抜かれた事さえ刮目しているにも関わらず捉えられない。
銀閃だけが残光を残す、あとから斬れたという事実が追いつき始める。
すうっとアレックスの首が地面に落ちる。
その剣戟から現代最高の剣士と持て囃されたこともある生粋の人斬り。
一太刀見えずのクラマ、そんな風に呼ばれていることもあった。
「まだ、まだ鋭くなれるな」
刀の求道者は今も尚さらに鋭く輝く。