141_闘争矜持_アンナ
エマの暴れ姿を見てアメリカ軍は余剰戦力の投入を決定した。
パワーはあれどスピードの遅さを弱点と捉え、高機動部隊が攻撃を始める。
「アンナー、よろしゅう」
「はいはい」
十文字槍を携えたアンナが高機動部隊の前に立つ。
(装甲は薄め、パルスアーマーもなし、というか軽量化のために装備していない、その代わりに足の強化パーツで人間じゃ出せない機動力を生み出しているということか)
アンナは高機動部隊の攻撃を目に入れることもなく避ける。
(確かに速いが、速すぎてステップが単調、これじゃあせっかくの足も泣いているな)
「明け透けだな」
フソウは槍の穂先をすれ違う部隊員の一人の腕に宛がう。
傷自体は浅いが、機動力を完全に見切られているという事実に高機動部隊は身じろぎした。
(ふうん……長らく戦争の無い時代が続いたもんだからほとんどが殺し合いを知らない世代になってしまったというわけか……あ、いやむしろ今の日本が血みどろ過ぎたのか)
「さて、この槍は少々特殊でね、そこの君、早いところ腕を切り落とさないと死んでしまうよ」
「何……毒でも塗っているのか? こちらにはナノマシンによる解毒が――」
切り付けられた腕から小さく蠢く何かがポタポタと落ちる。
「えっ――」
「エマのあの武器を見て何も思わなかったようだね。流石に私も腕に自信はあるが馬鹿じゃない。こんな戦場で戦国武将ごっこなどしないさ。君たちは私たちを無傷で捕まえるように命令されている。だから私たちはあえて蛮族を装っているに過ぎないのだよ」
(まぁ実際、この程度なら素手でも問題ないが)
と心の中でアンナは毒づく。
「なんだ、これ!? 無限に虫が――」
「この槍は紫紺神威と言ってね、あのシスターベルが数ある生体武装の中で最も人間を殺すことに特化しているとお墨付きをもらっている」
「人間を殺すことに特化」
「この紫紺神威の切っ先には芽殖孤虫という寄生虫の幼体が蠢いていて、切り付けた相手の肉を食い荒らして成長する。本来の芽殖孤虫であればこれほどまでの成長速度はないが、この槍にはポロニウムが含まれていてね、どうやらポロニウムが発生させる放射線で異常成長、増殖させるように遺伝子が変化してしまったんだ。その結果、見ての通りだ」
ものの数十秒で部隊員の腕は骨になり胴体を食い荒らし始める。数分で死に至ってしまうだろう。
「さて、今ここで手を引くなら犠牲は一人で済むのだが、どうする? 忠告だが私は銃弾でも見切れるよ」
(まぁ正確には銃を撃つタイミングがわかるだけで狙撃されたら普通に当たるのだけど、これは黙っておこう)
「こうなれば殺してでも――」
部隊員たちはアサルトライフルを構える。
「頑張りたまえよ男の子なんだから――ッ!」
余裕綽々の表情でアンナは紫紺神威を構える。
どうなったかは、描写するのもはばかれる結果となった。
以前、アンナの息子ムサシが言っていた「性格以外は母親似」というのはこういうことである。