137_闘争矜持_レオ
レオの人生は敗北の二文字から最も遠いものだったと言える。
確実に勝利を積み重ね、実力を伸ばす。
常に先を見据え、表も裏もすべてを牛耳る。
全てはファミリーのため、レオは昇進を重ねた。
だが、父ガリレオ・シラクサーナはレオを良く思っていなかった。
厳密に言えばある一点において心配しすぎていることがあった。
それはレオがあまりにも完璧で挫折も後悔も何もないまま今の今まで生きていたことだ。
失敗しない人間が失敗してしまったとき、再起不能になるのではないかと常々心配していた。
レオもそれはわかっていたが、レオ自身の全力に叶う者は誰もいなかった。
ひょっとしたら、戦士競技無差別級六連覇をした伝説の戦士ヘラクリズならレオを負かせるかもしれないがその機会はついぞ得ることはできなかった。
結局レオは敗北を知らないままイタリア最強を欲しいままにしてしまった。
そう言う意味では彼の退屈は、これまでもこれからも続く。
(どうせ今日も、多少骨があれど同じ。だろうな)
ケージの中で両者は睨み合う。
(ヤマト……データによれば気性が荒く短気で力に身を任せたファイトスタイルだったはずだが……やけに穏やかだな)
レオは表情こそ変わりないが、いつになく慎重な足運びを見せる。
「早くやり合え!」
「何やってんだ!」
観客は状況を理解していないかヤジを飛ばす。
(攻めるか、様子を見るか……)
この選択を脳裏に浮かべた瞬間、レオは自分の内にある日和りに気付く。
(日和ってんのかこの俺が?)
レオはまるで獅子のようにヤマトの懐に潜り込む。
得意のジャブ、それを避けさせて足を払いボディに一発食らわせる得意技を披露する。
距離もモーションも完璧なジャブがヤマトの顎を狙う。
自信の満ちあふれたコンボ、だがレオは背筋が凍る。
(なんだこの感覚――)
ヤマトは迫り来るジャブを目の間にして大きく前に出る。
ジャブを顔面に直撃する。
「前、嘘だろ――ッ!」
ヤマトの肩が外れる。厳密に外れてしまったかのようにさえ思えるほど大きく駆動する。
ジャブを放った右手でヤマトの耳を掴む。
ここまでは想定の範囲内、あとは後ろに下がったヤマトに追撃を加えればいいだけだった。
止らない。
無視された。
レオ・シラクサーナ、齢25歳にして初めて勝つヴィジョンが曇った。
トラックに衝突された気分だった。
咄嗟にバックステップで衝撃を半減させたにも関わらず心臓が異常な鼓動を続ける。
「……へぇ、いいじゃねえか」
ヤマトは涼しい顔で笑う。
「……それはこっちのセリフだ」
気丈を振る舞うがレオに余裕はなかった。
おそらくヤマトも同じ状況だ。
(強いが、強いだけだ)
レオの体が変化を始める。
ウイルスの力を発揮させた。
白いたてがみに鋭い牙、精悍な目に獰猛さが宿る。
それに応じるようにヤマトも獣人に成り代わる。
「本気を出す。潰れんじゃねえぞ」
「来やがれライオン野郎――」
ライオンとトラが双眸を滾らせる。