136_闘争矜持_ヤマト
マニアーチェ城に着くと、ノーチェとすぐ別れを告げて彼女を帰らせた。
少し進むと城門前にシチリアマフィアたちが無駄に金をかけた特設会場があった。
指の太さほどの鉄格子で作られた総合格闘技用のケージ、それらを囲うように観客達がひしめき合っている。少なくとも数百、下手をすれば数千人がいる。
獣桜組の陣営にヤマトはゆっくりと混ざる。
「へえ、死んだかとおもたわぁ」
エマは変わらずの調子だった。
「随分と派手に動いていますね」
「そうやぁ、えらい大金が動いているんよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「何のお礼を言っておるん?」
「……じゃあまた」
これだけの大金が蠢く決闘でヤマトが今までのうのうといられたのは間違い無くエマが裏で手引きしていたからというのをヤマトは直ぐ理解した。
「人食い虎」
「アカイさん、どうしました?」
「落とし物だ」
「どうも」
アカイはヤマトに落とした携帯端末を渡す。
画面を確認するとヤマトから連絡が入っていたので折り返す。
『やっと繋がった。今まで何してたの?』
「いや、色々あってな」
『そうか、聞いたよ随分派手な決闘をするみたいだね』
「ああ、会場はスゲエことになってる」
『気をつけて、アメリカ軍が動いてる。まもなくそっちで派手にドンパチやるつもりだよ』
「おいおい、こっちには世界有数の金持ちもいるらしいぞ?」
『もうなりふり構うつもりはないみたい。天帝陛下もイギリスで大暴れしてるみたいで』
「カナメさんが?」
『それでウイルスを巡って世界中喉から手が出るほど親個体を奪い合おうとしている』
「今のシチリアには二人いるな」
『エマさんとアンナさん、それを狙っているんだ』
「だからエマさんはわざわざシチリアに獣桜組を全員集めて来たわけか」
『……おいおいおい、まかさ最初からアメリカとドンパチやるつもりで』
「あの人ならやる、はなっからシラクサーナファミリーとのいざこざなんて偽装ってわけだ」
『決闘を餌にアメリカを引きずり出して叩き潰すための?』
「全ては計算通りってやつだな」
『サーカスのライオンじゃないか』
「ライオンは相手の方さ」
『そうだね君はトラだったね』
「トラか……なぁナガト」
『なんだよ』
「またな」
『またな』
ヤマトは通話を切ると上着を脱いで半裸になる。それからシラクサーナファミリーの連中にボディチェックを受けてケージの中に入る。
「初めましてかな。ヤマトでいいんだったか?」
「初めましてになるな。レオであってるな?」
スポットライトがケージを照らす。二人は中央で拳を合わせる。
「降りるなら今だ。どうせこの決闘も茶番だ」
レオもどうやら全て知っているとヤマトは察した。
「茶番なら俺に白星をくれ」
レオはその言葉を聞いて目尻を一瞬ピクリと動かす。
「悪いなヤマト、それは出来そうにない」
「そうか」
ヤマトは一拍置いてから静かにつぶやく。
「じゃあ、勝負しよう」
「そうだな」
両者拳を構える。
これより先は、大馬鹿野郎達のくだらないプライドを賭けた争い。
どっちが強いか、シンプルにそれを決めるためだけの争い。
思惑、交錯、欺瞞、謀略で成り立ったこの決闘。
それでも尚、それでも両雄が成すべき事はただひとつ――
終わりなき闘争への矜持の見せ合い。
ようこそ、漢の世界へ。
ようこそ、獣の世界へ。