135_闘争矜持_ヤマト
ノーチェの家に転がり込んではや三日が経つ。
彼女から借りたデバイスによって言葉は通じるようになりヤマトは様々な情報を入手した。
まずこの店はただのリストランテではなくシチリアマフィアの隠れ蓑であること、組は小さいがハッカーの集団であるため裏社会でも独特の立ち位置にいる。
簡潔に説明するなら情報屋というのが合うだろう。もっとも電子工作も行うのでシチリア島での時限爆弾はここの謹製品になるということ。
何より驚いたのがここまでの情報が漏れたところでノーチェたちには毛ほどの影響がないということ。
一体どこまでの秘密を握っているのかヤマトは底知れないものに少し驚いた。
とは言うものの、ヤマトは表向きのリストランテで手伝いをしていた。
ノーチェの指示に従い食材を搬入、皿を洗い掃除をする。大きな体と鋭い目つきは厄介なクレーマーに効果抜群だった。
「ねえちょっと、いい加減名前くらい教えてくれない?」
「また今度な」
「いつもそれじゃない」
「まぁ明日ここを出て行く。覚えたところで意味なんかねえよ」
ヤマトはレオとの決闘が行われる日まで身を潜めることにしていた。それが明日だった。
「来週何かあるの?」
「野暮用」
「ふーん、そう言えば日本の獣桜組っていうファミリーがシラクサーナファミリーと決闘するらしいわよ」
「へぇー世の中物騒だな」
「どうでもよさそうね、でも生の殴り合いが見れるって金持ち達が大金を動かしまくっている話よ」
「一大イベントだな」
「ええ、そうよ、それで賭けに絶対に勝つために決闘に出るヤマトっていう男が行方不明って話よ。まぁあれだけの大金が動いているなら殺されているのかもね」
「どうだろうな。俺は日本人だから贔屓しているだけかもな」
「そうだね、シチリアマフィアを舐めない方がいいよ」
「だな」
「……そう言えば銃弾もらっているけど、ひょっとしてアンタがヤマトだったり?」
「そうだと言ったら?」
「その切り返しなら別人ね」
「わからねえぞ?」
「よくある、偽者の三流セリフね」
「違いない」
「でもまぁ、もしもアンタが渦中のヤマトならさ」
「お?」
「……」
ノーチェは野菜を刻む手を止める。
「私さ、半年後に他のファミリーに売られるんだ。ここを守るためにさ」
「大変だな」
「あんたがさ、本当にヤマトならさ、私を助けてくれない?」
「どう助ければいい?」
「例えば……私を買うとか?」
「俺がもしも、ヤマトだったとして、ノーチェは俺でいいのか?」
「……まぁ悪くはないかな」
「そうか、悪いな、俺はそんな男じゃない」
「そうね、私も半分は冗談よ」
「そうか……」
リストランテの仕込みを終え、夜までの間、二人は体を休める。
ノーチェは静かにPCをいじっている。
「そろそろ、行くか」
「もう行くの? 送ろうか?」
「最後だし、頼めるか」
「いいよ」
家の裏にある車を出す。助手席にヤマトは座ると窓からシチリアの風景を眺める。
「行き先は?」
「マニアーチェ」
「そこは今日殺気立っているけど?」
「そう」
ノーチェは車を走らせる。
「なぁ、ノーチェ」
「何?」
「次、会うときはまとまった金持ってくる」
「ちゃんと宿代払ってよね」
「ああ、約束する」
静かにヤマトは呼吸を整える。