133_闘争矜持_フエテ
フエテとアカイは街並みをベンチからぼんやり眺めている。
「これで3人目だね」
「中々尻尾でねえな」
流石にアカイの顔にも僅かに苛立ちを募らせていた。
「いや、かなり見えてきたよ」
「どういうことだ?」
「これだけ上手いこと隠してるってことはもうアウトローの手腕じゃないよ」
「……てことは軍か?」
「正確にはもっと手練れ、それでいて獣桜組、いいや日本かな、それをマークしている連中」
「アメ公か」
「おそらくは、ただレブルウイルスなんて兵器になり得るもの、どこだって喉から手が出るほど欲しいだろうね」
「じゃあ、わからないということだな」
「だから、いくつか罠を張った」
「罠?」
「麻薬の動きをシラクサーナファミリーに頼んで調べたもらった」
「アメリカと何の関係がある?」
「これみて」
フエテはタブレットをアカイに見せる。
「違法麻薬の流通か……普通は中国から各国に流れているが、ここ数ヶ月はアメリカからの輸出品が多い……なるほど薬の輸出に乗じて各所に流れて来たわけか」
「そうそう、表向きのニュースはアメリカがレブルウイルス対策として医薬品を大々的に他国へ流す話だけど、獣桜組がいるイタリアが少し医薬品の量が多くなっている。それなりに人を動員してるのかな?」
「逆にこれ探りがバレてるってのは?」
「バレバレ」
「だめじゃねえか」
「いいんだよ。だって――」
目の前に車が止る。
「あー、そう言う事なら話が早い」
「見てよ、あれアメリカ製のリニアライフル」
「うちのはドイツ製のもっと良いの使ってのにな」
「うちの兵器使ったら冗談通じない状況になるよ」
「さて、ここに来て尻尾出したわけだが、フエテどうする?」
「それに関して、今からボスから話があるみたいだ」
端末を操作するとエマの顔が映し出される。
『お、きたきた、フエテにアカイ、随分やっておるみたいやね』
「お疲れ様です頭」
「お疲れ様っす」
『さて、アメリカさんたちは、いよいよ本腰入れてうちとアンナを狙っているみたいやね。兵隊さんぎょーさん連れて戦争ごっこするみたいやね』
「ここイタリアですよ」
フエテの問いにエマは少し微笑む選択を取る。
『サウスサイドが手引きしたんよ。元々はイタリアがアメリカに流れた組織やって言うのに、今じゃアメリカの手先、イタリアは政府まで腐りきってる。シラクサーナファミリーがうまいことやってたんやけど、どうにもヤケに頭のいい人間が裏社会に入り浸るようになってな』
「なるほど、CIAですか」
『そそ、もうシラクサーナファミリーが持つ海以外、イタリア人の誇りはありゃせんのよ』
「悲しいもんですね」
『でも、今は違うんよ』
「と、言いますと?」
『うちらの大ボス、かの天帝陛下が言うたんよ』
「カナメ陛下が?」
『かつてイタリアとは戦で同盟を結んでいた戦友、今は失効されたが助けを求めるなら手の握り返すのが筋やってな』
「なるほど、天帝陛下のご意向であれば、我々も大手を振って良い。と?」
『そーや、だからなここでひとつ、アメリカさんにお灸を据えてやってもろて』
「承知しました。でもそれだけじゃないですよね?」
『……あー、そうそう忘れておったけど、人食い虎が檻から出てしもたんやけど場所知らへん?』
「いえ、存じておりません」
『うちが聞きたい言葉とちゃうなぁ』
「尽力します」
『尽力? そんなん組の人間ならみーんなやってはりますよ?』
「……まずはアメリカのおもてなしからで」
『ええよ、特別にな』
「(絶対ヤマト君の方が心配だな、アカイ)」
「(組長、本当に素直じゃねえよな)」
『なぁにぃ?』
「「いえ、なんでもありません」」
『ほいじゃあよろしゅうな』
エマが通話を切る。
「俺たち暗殺とか情報収集がメインの組なんだけどねえ」
「仕事だ。四の五の言う立場でもねえよ」
「そうだねえ、アカイ準備出来てる?」
周囲にはレーザーライフルやリニアライフル、パルスアーマーをつけた手練れの連中が二人を囲んでいた。
「パルスアーマーが厄介だな」
「今の手持ちでなんとかできる? 俺は無理だよ戦闘向けのベースじゃないし」
「働け」
アカイがベンチから腰を上げるとベンチの裏に隠していたハンマーを取り出す。
「獣桜組が猿組組長、フエテ、感染者等級は丙種、まぁ猿組は俺一人だけどね。よろしくー」
「獣桜組が猪組組長、アカイだ。感染者等級は乙種、不要な殺生は避けたい。願わくば帰ってくれ」
アカイの提案に乗る者はいない。
「そうか、残念だ」
獣桜組の掟には変わった内容のものがふたつある。
ひとつは女子供には手を出さないこと。
もうひとつは違法薬物の取引を手を出さないこと。
だがこの掟を破ることを許されている組が二つある。
それが猿組と猪組。