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129_闘争矜持_フエテ


「イタリア、まぁまぁ良いところじゃないですか」

「そうだな」

 

 フエテは日本にはない街並みに心を躍らせていた。

 その隣にいる大男はフエテと同じく獣桜組の幹部、猪組のアカイだった。

 

「せっかくだしピッツァでもどうだい?」

「ピザか。食う」

「ピッツァ」

「ピザでいいだろ気取り屋が」

「ふっ、それもそうだね」

「どの店がいいんだ?」

「さあね」

「それもそうか、レオに聞いておけばよかったな」

「しまった。失念ですねえ」


「まぁ仕事はした。冷やかしはこれで十分だろ」

「こっちも舐められる前にいつでも殺れることを教えておけ」

「そーそー、組長も相も変わらず血気盛んだよね」

「違いない」


 フエテとアカイはベンチから見える街並みをぼんやり眺める。

 しばらくそうしているうちに通信端末が振るえる。


「うーん、ピザはお預けになりそうだ」

「組長からの指令か?」

「正解、でもまぁ、気分が良くなる仕事だ」

「薬か? 女か?」

「どっちもさ」

「……気が進まない」

「そう? わたくしたち見たいな馬鹿野郎にはお似合いでしょう?」

「それもそうか」


「仕事内容は、人捜しと情報を吐かせること」

「ウイルス情報漏洩の件か?」

「そそ、それを手引きしたシラクサーナファミリーのあぶり出しさ、表向きはね?」

「表向き?」

「実はシラクサーナファミリーはウイルス漏洩とは関係ないんだよね」

「どういうことだ?」

「シラクサーナファミリーと敵対しているサウスサイドが手引きしたんだ。シラクサーナファミリーに罪を擦り付ける形でね」

「なんとなく見えてきたな。つまりこういうことか? シラクサーナファミリーにサウスサイドのスパイがいて、そいつがウイルスを漏洩、傍から見ればシラクサーナファミリーがウイルス情報を漏洩させた」

「大正解!」

「じゃあなんでヤマトとレオを戦わせる?」

「組長たちに聞いてみたら?」

「……知らなくていいな」


「じゃあ、一仕事しますか」

「行くか」


 二人は立ち上がって仕事を始めた。




 夜。



 

 深夜三時、喧噪もシラける頃合い。

 安いホテルの一室で二人は仕事をしていた。


「まぁそんな硬くならず」

「……今すぐ縄を解きなさい」

 

 今回のターゲットであるイタリア人女性、イタリアではよくある名前の彼女は二人を睨み付けてた。

 いきなり薬で眠らされ、起きたら身ぐるみ剥がされて椅子にしばりつけられているのだから当然の反応である。


「ねえねえ、裸になると急に心細くなるよね」

 

 女性の言葉を無視する。女性の正面に椅子を運び、フエテは背もたれが前に来るように座る。

 それからいやらしさ2割、警戒8割の視線で彼女の体の隅々を見定める。


「こんなことして許されると思っているの?」

「さぁね? イタリアの法律はよく知らない。拉致監禁、それから傷害、強姦、殺人って罪になるのかい?」

 

 常識が欠如した発言に女性は背筋を凍らせる。これから自分の身に何が起るかを想像してしまったからだ。


「ねえ、レブルウイルスって知ってるよね?」

「ええ、ニュースにもなっているわ。恐ろしいゾンビウイルス」

「そうなんだよ。ニュースじゃゾンビウイルスって言うけど実際は違うんだけどね」

 

 フエテは自分の言葉の後に女性の顔の動きをよく見る。何か隠し事をしているかのように一瞬だけ眼が泳ぐのがわかった。

 

「……へぇ、そうなの?」

 

 女性は強気に言葉を返す。本当にわずかな時間言葉を選ぶための口ごもりが見受けられた。

 フエテはこの女性が何かを知っている、それも後ろめたい内容のであることを見抜く。

 

「サウスサイド」

 

 フエテはワードを呟く。女性は瞳孔収縮させたが直ぐに平常を取り戻す。


「なにそれ?」

「男がいるね。名前は?」


 脈絡のない質問に女性はただ戸惑う。


「男? サウスサイド? なにそれ?」


 わずかに呼吸のリズムが変わった。


「名前は?」

「だからどういう――」

 

 フエテは立ち上がると椅子を蹴り飛ばす。女性に詰め寄ると前髪を掴んで前後左右に振る。


「ウイルス情報をシラクサーナファミリーから持ち出した男の名前だよ! もうわかってんだろ!」

「痛い!」


「言え!」

「知らない」

「そうか」

 

 フエテは髪から手を放すと女性の右目に親指を押しつける。


「3,2,1」

「待って!」

「じゃあ吐け!」

「ルチアーノ!」


 フエテは携帯端末を取り出すと電話をかける。

 

『こんな夜更けにどしたん?』

「ルチアーノ」

『シラクサーナファミリーの幹部の一人やなぁ、最近、別件で粗相して今は姿を眩ましているはずやね』

「その男がお漏らし野郎みたいです」

『証拠はあるの?』

「例の女から吐かせました」

『ふーん……嘘はついてる?』

「少なくともこの女はルチアーノという名前で認識しているようです。これすら偽名、もしくは擦り付けられた可能性もありますが」

『そうやねえ。まぁしらみつぶしにやってこうか、その女はもう好きにしてええよ』

「わーい、組長大好きー」

『うちもあんた見たいなきかん坊好きやわぁ。まぁやるんなら徹底しなよ』

「はーい!」


 通話を終える。


「アカイ、次のターゲットを」

「ルチアーノだな、捕まえてくる」

「居場所はわかるかい?」

「シラクサーナファミリー全員の所在はヒクイが既にマークしている」

「いいね、こっちはちょっと遊ぶよ」

「好きにしろ。その女は趣味じゃない」

「わかった」


 アカイは部屋を後にする。


「さて、と」

「な、なにをするの?」

「君の寿命の話をしよう」

「寿命……」

「より多くの情報を吐けば君の寿命は長くなる。そうしたら警察とかそのルチアーノのお仲間が助けに来てくれるかもね」


 フエテは女性の顔をさする。

 顔の輪郭を指でなぞり、首筋にまで手を降ろしていく。恐怖で震える吐息がフエテの指をくすぐる。

 

「……何が知りたいの?」

「よく知っているでしょう?」


 フエテはニコッと笑う。



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