128_闘争矜持_レオ
シラクサーナファミリーの若頭レオを語るにはいくつか良い言葉があるが、名の通り獅子というのが当てはまる。
若くして頭角を現し、ボスであるガリレオの仕事をほとんど任されているしどれも120%の成果でガリレオに返している。
頭脳明晰、今のトレンドに合う見事な容姿、鍛えられた筋肉は同性でもついつい眼で追ってしまうほどの肉体美だ。
「若頭、対戦相手がわかりました」
「あー、あの地下闘技場でやるくだらない喧嘩だな」
レオが所有するパーソナルジム、その一角。右手の親指だけを地面につけて逆立ちいているレオは涼しげな表情で側近に言葉を返す。
「若頭、くだらないは聞き捨てならねえです。シラクサーナファミリーの存亡がかかってますので」
「なぁ、お前、俺が負けると思うか?」
「それはねえですが、相手は獣桜組、何をするかわかったもんじゃないです」
「獣桜組か。ウイルスの力でのし上がった成り上がりだろ?」
「組長エマは昔から裏の世界では有名です。ご存じでしょう? 564人もその手で殺した怪物です」
「どうせデマだろ。知ってるか? 世界で最も人を殺した犯罪者は2011年、おおよそ200年前にいたアンネシュ・ブレイビクって男だ。いくら無法地帯の場所の住人だって100人も殺せるわけねえさ」
「そうかもしれませんが、用心に超したことはないですよ」
「そうですよ。シラクサーナファミリーの坊ちゃん」
レオは素早く立ち上がると声の主の方を鋭く見つめる。
「アジア人? どこから入った?」
「そこの窓ですよ。換気ですか?」
アジア人の男は携帯端末越しに翻訳した言葉を投げる。
「窓……確かに空いちゃいるが、なるほどお前が獣桜組か」
「自己紹介がまだでしたね。わたくしはフエテ、獣桜組が十二会の猿組を預からせて頂いております」
猫背でけだるけな表情、それでいておどろおどろしいほどに血なまぐさい、人殺しの臭いを燻らせている。
「何の用だ?」
「いやなに、今日はちょっと挨拶です。シラクサーナファミリーの次期ボスの顔をね」
「そんなに殺意を剥き出しにしてか?」
「あっと、おっと、こりゃあ失敬、すいませんね職業柄なにかと血生臭いことをさせられているもんで」
「今日は見逃す。とっと失せろ」
「そんな冷たいこと言わないでくださいよ。せっかく遠路遙々、海を渡ってイタリアまで来たんですから、エスプレッソの一杯くらい洒落込みませんか?」
「残念だ。エスプレッソは朝に飲むものだしあれはゆっくり飲むものじゃねえよ」
「おっと、今はお昼でしたね。こりゃまた失敬。しょうがないですね今日は引き上げるとしましょう」
フエテは仰々しく一瞥すると窓から飛び降りる。
側近の一人が窓から顔出すが、表情からすでに姿は見えないというのがわかった。
「あれが獣桜組の幹部か」
「言ったでしょう? 獣桜組はやべえって……30階ですよここ……」
「そうだな」
レオはニヤリと笑う。
「なんで笑ってるんですか」
「久々に腕が鳴るなと思ってな」
レオ・シラクサーナ、様々な異名を持つが、最も彼を表す言葉は――。
イタリア最強の喧嘩師。
無敗、無傷、無双の三拍子揃った新生代の感染者である。