127_闘争矜持_ヤマト
あれから二年が経過した。
ナガトは医者の卵として生きていた。
トモエがアメリカに拉致されたことでウイルスの情報が明るみになった。同時に世界各地で感染者の報告が上がり始めていた。
カナメたちが努力してレブルウイルスとウイルスに関する情報の流失を防いでいたが、限界を迎えた。
つまり、今まさに世界中でレブルウイルスのパンデミックが始まっていた。
ナガトたちが目指すはイタリア、今回、獣桜組と手を組んでいたイタリアに居を構えるシチリアマフィア『シラクサーナファミリー』の組織と会談を予定している。
つまるところ、ウイルスの情報を漏らした嫌疑をシラクサーナファミリーにかけたということになる。
そのリンチに獣桜組総出でお出かけということだ。
無論、シラクサーナファミリーからは完全ではないが潔白の言い分が出ている。
そこで手打ちとして日本円にして25億円の支払いを獣桜組は命じた。
シラクサーナファミリー自体、海運商事の側面もあり25億の支払い自体は可能だが、提案として地下闘技場でシラクサーナファミリーと獣桜組それぞれの代表を出し合ってファイトする。それ自体を大きな賭け事として運営する。売り上げはどちらが勝っても獣桜組に渡され、支払い金額の25億から差し引くという案が出された。
賭け事好きな獣桜組頭目エマはその提案を気に入り、運営などの諸経費を支払いからさらに差し引き、20億まで支払金額を下げ更に売り上げをそこから差し引いてもよいと気前よく減額した。
で、ここで問題となったのは誰を選出するか。
数億円規模の市場、シラクサーナファミリーからはファミリーのボス、ガリレオ・シラクサーナの息子レオ・シラクサーナが選ばれた。
対する獣桜組だが、ガリレオの提案で、兄弟殺しの罪で獣桜組を破門されたヤマトを指名された。
ガリレオの自慢の息子とエマに見限られた息子の勝負、ギャラリーたちからも同じボスの息子同士でのバトルとしては盛り上がりに十分だった。
「というわけで人食い虎、あんたに仕事の依頼や」
イタリアに向けて獣桜組が所有する大型客船、その一等客室にヤマトはいた。
「つまるところ、イタリアで殴り合いをして倒せばいいんだな?」
「平たく言えばそうや」
「わかりました」
「で、報酬は何がええ?」
「報酬?」
「あんたは椿宮師団の所属、依頼料を支払うんが筋や、いくら欲しい?」
「……いらない」
「なんやて?」
「金は、いらない……です。」
「じゃあなんなら欲しいんや?」
「獣桜組の破門を解いて欲しいです。一からまた一からやり直したいです」
ヤマトの要求にエマは眼を丸くした。エマだけではなくエマの両サイドに並び立つ十人の幹部とクラマは眼を丸くした(本来幹部は十二人で構成されるがだが鼠組と虎組は現在空席になっている)。
「ふーん……あんな、なんで破門されたか覚えてるか?」
「タイガの兄貴を殺しました」
「せやな、でも破門したのは、もうひとつ理由があるよな」
「……なんでタイガの兄貴を殺したか」
「そうや、それを言えば破門を解く、破格の申し出をお前が断ったからや」
「……」
「別にこの約束は今も継続中や、喋ってくれれば今からでも破門を解く」
「…………」
「だんまりか……はぁ……わかったこの勝負で勝ったら破門を解く、約束や」
「はい、ありがとうございます。それじゃ」
ヤマトは足早にエマの客室から出るとそのまま甲板に向った。
「戻れるのか……」
獣桜組の敷居を跨ぐげるようになる。それだけでヤマトの胸は高鳴った。
「やぁ、奇遇だね」
「ん? ああ、師匠ですか。というかこの船に乗っていたのですね」
「仕事だよ。それにイタリアに観光なんて滅多に行けない」
「観光目的ですか」
「何かと制約の多い身なのだよ」
「そうですね」
「それにイタリアに支部がある医療系企業に用もあるしな」
「医療系企業?」
「再生医療に特化した研究を行っていて、そこなら欲しい技術が得られるかもと思ってな」
「再生医療?」
「まぁ内臓とか腕とか足とかを無くしても元に戻せる技術さ」
「便利なもんですね。じゃあ指詰め放題ってことか」
「変な使い方は止すんだ」
「へいへい」
「さて、少し体を動かそう」
「やるかぁ」
ヤマトと師匠は三時間ほど組み手を行い、ヤマトはボコボコにされた。
ヤマト、戦績200戦3勝197敗、うち3勝はナガトと戦ったものだ。