126_決裂流出_ナガト
椿宮師団、神前。
ナガトが目を覚ました時には全てが終っていた。
トモエが拉致された後、ミサイルが病棟に撃ち込まれ大勢の死者が出た。
ナガトは亡き師に向って両手を合わせていた。
チユの希望もあり、葬儀はナガトとエマ、そしてカナメの三人だけ行われた。
「これで終わりですか?」
「チユの遺言だ。葬儀は一番安くしろと」
「そう……ですか」
ナガトの落ち込みようは筆舌に尽くしがたいものだった。
誰も声さえかけられないほどだった。
葬儀が終った後チユの部屋に向った。
現実を受け止め切れていないナガトは何となく、いつも通りチユが部屋にいる淡い期待を持っていた。
閑散としたもの静かな部屋。
誰もいるわけがない。
ナガトは静かにチユの座っていた椅子に座る。
「師匠……どうして……俺はあの時……」
ふと、机に備え付けられた収納に目が行った。
微妙に開いていたからだ。
開けると、そこには『ナガトへ』という書き置きと二つの手の平ほどの箱とそれより小さな箱があった。
手の平ほどの箱にはナイフが収められていた。折りたたみ式のコンパクトなもので見た目にもおしゃれなデザインだった。おそらくは市街で持ち歩いていても問題ないようにわざとそういう装飾を入れている。
ナイフを手に持つと指に吸い付くような感触だった。何も見なくても手に収まり絶妙なバランスで馴染んでいた。
「すげえ」
箱の下にはシースが入っておりこれもまたナイフの形状にピタリと合う物になっていた。
もう一つの箱には小さなメダルに何かを象った模様のアクセサリーだった。
ナガトはナイフをポケットに収め、ネックレスを首からぶら下げる。
「似合わねえ……似合うように顔を作り替えようかな……」
どことなくずっと隣にチユがいるような気がしてきた。
「グズグズしている暇はないわよ。行きなさい」
ナガトは周囲を見回す。誰もいない。
「そうですね。行きますよ」
ナガトはチユのいた部屋に深々と頭を下げてから出て行った。
それから少し歩いて。泣いた。