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125_決裂流出_チユ

 

 椿宮師団、病院。

 

 チユは追っ手の装備を奪うと身に纏う。

 

 周囲の状況を確認しチユは自分に何が起きたかを直ぐに理解する。

 

(緊急事態に遭遇してブースタードラッグを使って元の姿に戻ったみたいね。効果はあと二時間で切れる。まぁそれよりも先に私の心臓が持たないでしょうけど)

 

 

 チユは感染者になったことで健常者とは比べものにならないほど早い心拍と異常な代謝機能、極めて高い聴覚に麻痺性の毒を獲得した。

 

 そして冬になると体が収縮する呪いともう一つ呪いを得た。

 

 

 それは短すぎる寿命だ。

 

 

 チユは外見の衰えより先に内臓の寿命が近く、いつ機能不全を起こしてもおかしくないレベルだった。

 

 その体にブースタードラッグを大量に投入するのは自殺にも等しい。

 

 チユは直感的に死を理解して受け入れた。

 もっとも、今の彼女にとって、自分の死など些細なことだった。

 

 気を失いかけているナガトを抱きしめる。

 彼の唇に自分の唇を近づける。

 

「こっちはルール違反ね。セレネ・シュミットトリガ」

 

 チユは自身の寿命が間近であることをセレネに伝え、自分が生きている間だけナガトを好きにさせて欲しいという約束していた。

 もちろん、手を出さないという約束もしている。

 

 ナガトの首筋には自分の噛み跡がくっきりと残っている。おそらく一生この傷は残るだろう。

 それがせめてできたチユの愛情表現だ。

 

「意外と独占欲があるのね」

 

 

 チユは意識を切り替えて殲滅戦を始める。

 

 

(ここは三階、リネン室は二階)

 

 

 チユは特攻紛いの最速ルートで敵を制圧しながら押し進む。

 リネン室に到着するとトモエの気配がなかった。

 

(遅かったみたいね)

 

 チユは踵を返して二階と一階の制圧に作戦をシフトする。

 

(完全に嵌められているわね。椿宮師団と獣桜組の警備は何をしていたのかしら)

 

 そんなことを毒づきながら次々と制圧を行う。

 

 

「なんだこの女――」

「早すぎる、これが感染者の本気なのか!」

「化け物め……」

 

 怨嗟に塗れた言葉を吐き捨てられるがチユは構うこと無く射殺、撲殺、斬殺を繰り返す。

 

 相手は感染者等級乙種を仕留められる腕利き、決して弱くは無い。

 

 

 ただただチユが強すぎるだけに過ぎない。

 どんな状況でも冷静さを欠かさず、最適な行動を取り続ける精神力、これこそがチユ最大の武器。

 

 泥臭く研ぎ澄ました経験と知識の賜物である。

 

 

「どうしたかしらアメリカの皆様! レディ一人を満足させられないの? 星条旗もくすんでおられますわよ!」

 

 ネイティブな英語で煽り入れる。

 

 チユが通った道には血だまりと小さな女性の足跡だけが残されている。

 

 病院を制圧するとチユは外に出る。

 

 斜陽がまぶしくチユの目の邪魔をする。

 全速力でレーザーカノンへ向かい即座に射殺する。

 

「あっ――ぐっ――!」

 

 内臓が悲鳴を上げる。

 

 無視。

 

 

 レーザーカノン砲台を奪うと周囲に潜んでいる軍人をピンポイントで撃ち抜く。

 光学迷彩を使用しているため通常であれば目で見えるはずも無い人間をピンポイントで撃ち抜くチユ。

 

 彼女が持つベースの作用だ。

 

 

 レーザーカノンの弾が尽きると回路をショートさせてジェネレーターを暴走させる。

 それから伏兵達を見つけては殺し続ける。

 

 

 

(殿下はどこに連れて行かれたの?)

 

 必死にチユは近くにいるであろうトモエを探す。

 光学迷彩を施した車両がいくつか固まっている場所を見つけると、迷わず突撃する。

 

 

「動くな、ネズミ」

 

 軍人の一人がトモエに銃を突きつける。

 チユは男の言葉を無視して銃を突きつけている男の頭を撃ち抜く。寸分も狂うことなく男の頭が吹き飛ぶ。

 

「殿下! 今いきま――」

 

 再び心臓が発作を起こす。

 

 その一瞬の隙を突かれ、チユは心臓を撃ち抜かれる。

 

 ガクンと膝から崩れ落ちる。

 

 

「チユ! チュ!」

 

 意識が擦り切れる。

 

「まだ……まだやることが……ナガト」

 

 咄嗟に出た言葉、それからチユは静かに笑う。

 

(この状況で出てくる言葉がナガトって……本当にあのバカ弟子は……)

 

「ナガト――」

 

 

 チユの目から光が消える。

 そしてもう二度と光が戻ることは無かった。

 

 


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