124_決裂流出_ナガト
椿宮師団、病院。
強襲を受けたナガトは増援が来るまで囮を演じて時間を稼ぐ。
病室の扉の真上にある天井に待ち伏せし、追っ手が突入した瞬間に部屋を抜け出し走り抜ける。
追いつきそうで追いつかないを繰り返す。
心臓は爆発しそうだった。
廊下は大勢の死体がある。看護師から追っ手まで入り交じった。
その中にハナもいた。椿宮師団でも上位者に入る男の最後は体中を蜂の巣にされていた。
ナガトは背中をゾッと震わせる。
(時間を稼ぐ)
1時間でも1分でも1秒でも長く――。
縦横無尽に病院内を走り回るナガトは周囲の様子がおかしいことに気付く。
君影研究所の人間が誰一人いない。
(どうしてこの病棟に誰もいないんだ?)
追っ手を振り解いてもう一度ハナの遺体の前に立つ。
よくよく観察すると変装でハナ本人ではなかった。
(……ハナさんが入れ替わって、ということはトモエ殿下自体が嵌められて)
思考に集中を割いてしまい周囲の警戒をおろそかにする。
金属が擦れる音がする。
途端に足から力が抜ける。
「しまっ――」
振り返ると何人かの追っ手の影が映る。
万事休す。
音を裂く、突然の出来事にナガトは目を丸くする。
「状況説明!」
「トモエ殿下が襲撃されています。たぶんアメリカ人です」
それを聞いた瞬間、彼女は瞳孔細める。
追っ手の一人の肩を掴み引き寄せる背中側から腕を通し首の骨を折る。レーザーライフルを強奪すると残りの追っ手を射殺する。
この間、約3秒。
「随分なやられようね、バカ弟子」
「師匠、復活したんですね」
「殿下はどこに?」
「リネン室です」
「わかったわ」
チユは座り込むナガトに詰め寄ると慣れた手つきで応急処置をする。
「すみません。またしくじりました」
「むしろこの警備に問題があるわ。してやれたようね」
「はい……」
「私が退路を開く」
「じゃあ、俺も」
「あなたはここで待っていなさい」
「しかし――」
チユはナガトを抱きしめて首筋を噛む。
血が滲むほと深々と突き刺さる牙、きっと傷跡が残るだろう。それぐらい深々とチユはナガトの首筋を噛む。
「し、しょ……」
ナガトの瞳孔が収縮を繰り返す。
「ごめんなさい」
チユは静かに微笑む。