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123_決裂流出_ナガト

 

 椿宮師団、病院。

 

 

「あら、ナガトさんお久しぶり」

「これはトモエ殿下、お久しぶりです」

 

 トモエは車椅子を止めてさせてナガトに挨拶をする。

 車椅子を押しているのはハナという感染者で椿宮師団でも腕利き男だ。

 

「今日は定期検診でここに」

「伺っています。俺の方も今日は非番なんです」

「医者になるって聞きました」

「と言っても工作員のカバー作りの一環です」

「結構です。殺しで血に塗れるより、救いで血にまみれる方がずっと健全です」

「ですね」

 

「ところで、チユは?」

「今はお昼寝をしています」

「そうですか、ではまた」

 

 ハナに合図を出して車椅子を進めさせる。

 

 

 不意に。

 

 本当に不意に。

 

 

 ナガトは嫌な気分になった。

 

 

「殿下」

「なんですか?」

「俺も護衛に混ざっても?」

「どうしてでしょうか?」

「なんか嫌な感じがして……その……理由になっていないですね。すみません忘れて下さい」

「護衛ではないですが……それなら建物の警備を同時にお願いします」

「わかりました」

 

 

 

 ナガトはシュミットトリガ社謹製の防弾装備一式とレーザーダガー、メインにリニアライフル、サイドに火薬式拳銃を装備する。

 

 

(周辺警備、まずはドローンを配置)

 

 屋上からドローンを四機飛ばし、建物外周を監視する。映像はコンタクトレンズ型ディスプレイに表示されている。

 

(まずは周辺……異常なし)

 

 

 携帯端末が振動する。

 

『ナガト? ドローンを起動したみたいだけどどうしたの?』

「トモエ殿下の警護でね。ちょっと使うよ」

『いいわよ。こっちもそっちに向っているから』

「何かあったの?」

『ネズミ入りのコンテナがいくつか』

「ネズミ?」

『ハンバーガーが主食みたい』

「ウイルス狙いか」

『しかもトモエ殿下の情報がリークされたみたい。もう既に潜伏しているわ』

「ピッツアに紛れてハンバーガーね」

『獣桜組が総動員で動いている。ヘクセンナハトでこっちも向っているけど相手は今までとは比べものにならない程――よ――き――』

「セレネ?」

 

 急激に通信が不安定になる。

 

(まずいな)

 

 

 ナガトは屋上から下の階に降り立ち非常ベルを叩く。

 けたたましい警報が病院内に響き渡る。

 

 

(この建物は五階建て、殿下は五階のVIP診察室、まずはそこに行こう)

 

 VIP用通路にはいくつかの死体が転がっている。いずれも何かで押しつぶされたように強化スーツの上から頭を粉々に砕かれていた。

 

「ナガトさん!」

「殿下、ご無事ですか」

「ええ、ハナがおりましたので」

「ハナさんは?」

「下の階の安全を確認しに行きました。敵は建物の地下倉庫から出てきたので上への警戒はしなくて良いとのことで」

「わかりました」

 

「ねえ、ナガトさん」

「何でしょうか?」

「あなたの嫌な感覚、それを大切になさってください」

「知っているのですか?」

 

 トモエは首を横に振る。

 

「オカルトチックな話になります。でもあるのですよ。勘というものは」

「はい、ありがとうございます」

「では護衛をお願いします」

「承ります」

 

 ナガトはウイルスの力を解き放つ。

 

 

 靴を脱ぎ捨てる。

 

 

殺気を研ぎ澄ませ、そして隠す。何度もチユに叩き込まれた影に潜む術を駆使する。

 

(上か下か……どっちだ。ハナが下を制圧している? そしたら銃声の一つも聞こえるはず。それがないということはおそらく)

 

 トモエの顔を見つめる。

 彼女は「お任せします」という表情でナガトを見る。

 

「上から脱出します」

「わかりました」

 

 ナガトはリニアライフルを床に置くとトモエを背負う。落ちないようにしっかり固定する。

 

「殿下、目が回ったらすみません」

「どういうことでしょうか?」

「言葉のまんまです」

 

 

 ナガトは通路を駆け抜ける。

 

 目の前には人影が二、三見える。

 

(レーザーライフル……違う、スタンライフルか)

 

 スタンライフル、文字通り着弾時に筋肉を強制痙攣させて自由を奪う兵器。一発二発なら激痛で済むが何発も一度に食らうと筋肉が焼き切れ心停止を起こす。

 

「行きます」

 

 狭い通路では格好の的になるが、ナガトは追っ手の視界から消える。

 厳密には視界にナガトはいるが、その軌道は追っ手の理解を超えている。なにせ両サイドの壁面、天井を自由自在に走り回るのだから。

 

 リニアライフルを構えて射撃を行う。

 

 

 防弾性のアーマーに遮られてダメージは無いが衝撃で体勢を崩す。

 

 

 階段に着くと屋上を目指す。

 扉を開けると外に飛び出し、ドアを閉める。レーザーダガーを取り出して扉を溶接する。

 

 息つく間もなく、ナガトは手すりを飛び越える。

 

「ちょっ! きゃああああ!」

「お静かに!」

 

 命綱もなしに建物外壁を走る。狂気的な行動にトモエは悲鳴を上げる。

 

(チッ! 大型レーザーカノンか)

 

 ドローンの一つが潜伏していた敵を捕らえる。

 リニアライフルを足下の窓ガラスに撃ち込み病院内に入る。

 

 

 

 レーザーカノンの射撃と首の皮一枚で回避する。

 

「殿下! ご無事ですか!」

「生きてる!」

「結構! 今は二階です。あと一つ降りればこっちのものですが……」

 

 ナガトは手近にあったリネン室に入り閉じこもる。

 

(外にはレーザーカノン、飛び出せば殿下諸共焼却されちまう。ここで救援を待つしか)

 

 リニアライフルマガジンを交換する。

 

「殿下、ここに隠れていてください」

「何をするのですか?」

「迎え撃ちます」

 

 ナガトの視界に移るディスプレイは真っ暗になっており、ドローンが全て撃墜されたことを物語っている。

 

「お気をつけて」

「次は護衛をしっかりしてくださいね」

「あれはこちらもはめられました。まさか光学変装で別人が化けていたとは……」

 

「光学変装……なるほど」

 

 ナガトは服を脱ぐ。

 

「殿下服を交換してください」

「それって……いけません!」

「いいんです。幸い体格が似ているので」

 

 ナガトは有無を言わせずトモエと服を交換すると自分の顔の形をできる限りトモエに寄せる。

 

「……囮になるなんて」

 

 ナガトは人差し指を立てて鼻に当てる。

 リネン室を飛び出す。

 

 

(来やがれ)

 

 

 ナガトは決死の時間稼ぎを始める。

 

 

 


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