121_決裂流出_ヤマト
「なぁヤマト君」
「なんですか?」
「君はどうして戦うんだい?」
「気付いたら戦うしか無かった。たぶん、そういう生き方しかしてこなかったしそれ以外の生き方をしたいとも考えたことも無いんで」
「そうか、今教えていることは無手で人体を激しく損傷させる技だ。もちろん悪用すれば多くの人間を殺せる。それをどう使う?」
「人間を殺す技なんだから殺すに決まってます」
「いや、そうじゃなくて」
「は?」
「それをどういうスタンスで使っていくかを聞いているんだ」
「スタンス?」
「どうして強くなりたい?」
「強くなきゃ死ぬ」
「はぁ……シンプル過ぎる思考も御しがたい」
「俺は俺より強い奴を倒せるようになりたいだけです。じゃないと俺より強い奴が俺を殺す」
「生き残るための手段か」
「そうですが」
「今はまぁそれでいい」
「あれですか、この技は正義のためにみたいな?」
「そんな感じのことを聞きたかった」
「無理っすよ。俺はヤクザ者で半グレで世の中じゃカスみたいなもんです。人殺しは日常茶飯事、将来の夢なんて夢のまた夢、今日を生きる方法ずっと探してる」
「生存のためか……ある意味、武術の最も根源に近い部分さね」
「傷つきたくねえのに武術を習い始めたら毎日傷だらけ、なんの意味があるんだか」
鉄の塊にひたすら手を打ち続けるヤマトはため息をつく。
「ふふ、全くだだが痛みは重要だ。人間は痛みで学ぶ」
「じゃあなんですか、鉄ぶん殴ってりゃ鉄の拳ができるんですか?」
「無理だな」
「はぁー、じゃあなんでこんなことしてるんですか」
「鉄になることはできないが鉄のようにすることはできる。厳密に言えば骨に衝撃を与えることで骨密度が上昇しより頑丈になる。皮膚も同じだ。徐々にまめだらけになって分厚い皮膚の鎧になる」
「へえ……」
「じゃあ次は砂袋を投げては上から捕まえろ」
「へいへい」
数キロほどの重さがある砂の袋を軽く放り投げると上から掴む。握りが甘いと砂袋を落とすことになる。
「カナメにはボコボコされてばかりだったからな、あれじゃ訓練とは言えない。もっと効率的な方法はいくらでもある」
「それがこれですか、えらく地味だこと」
「最短の道のりは一番遠回りさ」
「これなんの意味があるんですか?」
「ふむ、ヤマト、今君の握力はいくつある?」
「120kgくらいだったかな」
「人間が掴まれたら骨が砕けるな……」
「それでも獣桜組じゃ普通ですけどね」
「それだけの力で掴めるなら相手の関節を挫いて捻り上げるのも簡単さ。獣桜組は殴ったり蹴ったりする格闘がメインだから馴染みは無いだろう。ユネと戦ったことはあるか?」
「ないけど……あれとは戦いたくない」
「ユネに何をされたんだい?」
「君影研究所には手を出すな。とだけ」
「はっはっは、医者のメスは気分屋さ」
「だから獣桜組でユネ先生と喧嘩するやつはいないっす。どのみち勝てる人間も少ないですが」
「だろうねえ」
「てか君影研究所って医者の集団じゃなかったか?」
「医者さ。だがこんな時代だ。戦えないやつから順番に死んでいく」
「それもそうか――あっ」
砂袋が地面に落としてしまう。
「さて、ペナルティの時間だ」