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119_決裂流出_ナガト

 

 

 医療オペレーター研修でナガトは椿宮師団にある総合病院に配属していた。

 

 チューターは君影研究所所属のアスペルという女医が担当している。アスペルの専門は内科だが外科手術も出来るため今回の研修のチューターに抜擢された。

 

「アスペル先生、どうでしょうか?」

 

 ティッシュを半分に切ったもの使って縫合の練習をさせられていた。繊細かつ緻密な作業を要求するためナガトも苦戦を強いられている。

 

「うーん……10点!」

「結構上手く出来たと思ったんですが」

「あっ10点満点中ね」

「しゃぁ! 満点!」

 

「ナガト君手先が器用なのね」

「自覚はないですが」

 

(流石に連日、暇さえあればこの作業だけをやらされてれば出来るようになる)

 

「じゃあ次は目隠ししてやって」

「へ?」

「目隠しして縫合」

「無理ですよ」

「停電してても縫合できるぐらいにならないとダメだよ……ほんと……マジ……」

 

「……はい」

 

 この縫合の練習に加えてアスペルが手空きになれば座学が始まる。難しい内容が多いがマンツーマンでナガトはしごかれている。

 それでもチユに比べれば、聞き直しても殴れられないし、わからないと言って蹴られないし、プランクや空気椅子で講義を聞くようなこともないのでかなり優しく感じられた。

 

 チユ曰く「痛みを伴う記憶は早々薄れない」とのこと。

 

「ナガト君物覚えがいいね」

「話を一言一句覚えてないとしばかれてたので」

「チユさんはスパルタって聞いたけど本当なのね」

「あの人と一緒にいるよりアマゾンで遭難する方が命に危険はないですよ」

「あははは、聞かれてないといいね」

 

 ナガトは一応周り確認する。

 

(あれ、おかしいなこういうこと言うとどこからともなく師匠が現われるのに)

 

 携帯端末を確認するとチユから電話が掛かっていた。

 

「うわ、着信履歴がある……」

「本当におっかない師匠ね」

 

 いつもなら出るまでコールが掛かるが今回はワン切りで終っている。

 

「すみません。ちょっと様子が変なので師匠の部屋に行ってきます」

「わかったわ。どうせそろそろ昼休憩だしちょっと長めのお昼にしましょう」

「ありがとうございます。アスペル先生」

 

 

 

 

 急いでチユの部屋に向う。

 

 

 その途中の廊下でヤマトに出会う。

 

 

「お、ナガトじゃねえか」

「お、ヤマ……ト……どうしたその顔?」

 

 顔どころか全身に包帯を巻かれ青たんまみれの体を見てナガトはドン引きした。

 

「色々しごかれてる」

「誰に?」

「えっと――」

 

「お、ナガト君じゃないか。一体どうしたんだね?」

 

 アンナが後ろから声を掛ける。

 

「あ、アンナ先生お久しぶりです。師匠から電話があって駆けつけてるところです」

「チユが?」

 

「え? ええまぁ……あっじゃあそろそろ行きますね」

 

 ナガトは長居せずに直ぐにチユの部屋に走る。

 

「あっちょっとナガトく――!」

 

 

 

 チユの部屋に急行する。

 

「師匠、入りますよ!」

 

 扉を開けるとナガトは目を丸くする。

 

 ダボダボTシャツ、テーブルには食い散らかされたケーキ、そしてマナー悪く座っている小さな女の子。

 どことなく見たことあるような気もしたが、ナガトは思わず部屋を確認する。

 

「し、師匠の部屋だよな……てことはこの子は……師匠のお子さん?」

 

「ん! ナガト!」

 

 小さな女の子は生クリームを口の周りにつけながらニッコリ笑う。それから手づかみでケーキをむしり取ると無造作に口に運ぶ。

 

「えっと……お名前は?」

「チユはね! チユって言うの!!」

「へ?」

 

 

「遅かったか!」

「アンナ先生!? 一体この子は!!?」

 

「ナガト君、知られたからには話しておく」

「どうしたんですか急に真面目な顔をして?」

「この子こそチユだ」

 

 

 

「はぁ?」

 

 

「この子がチユなんだ……」

 

 

「はぁ!? どどどどどどどういうことですか!?」

 

「チユは冬になると体が縮んで、思考が小学生並みになるんだ。しかも冬の記憶はほとんどない」

「いや、そんなアホみたいなことあるわけ」

 

「自然界ではこれをデネル現象と呼んでいる。冬場の間消費カロリーを抑えるため、一部の生物は体や脳みそを小さくするんだ。チユのベースもデネル現象が確認されているが……彼女はその性質を濃く受け継いでいる」

 

「てことは今まで冬場は俺を色々なところに預けていたのは――!」

「この姿を見られたくなかったんだろうな。この状態は最も彼女の深層心理が表に出た姿でもある」

「えっとつまり?」

「一切嘘をつけない状態だ!」

 

「へ、へえ……」

 

 

 ナガトはテーブルに座ってケーキをむしり取っているチユに目を合わせる。

 

「ねえ師匠」

「なあに?」

「俺のこと嫌い?」

「だいすき!!!!!!!!!!」

 

 

「アンナ先生、やっぱこれ嘘ついてるでしょ!」

「は、はぁああ? 君は何を言ってるんだ?」

 

「いや、大好きなんて、こんなの本心なわけないですよ」

 

 

「ほんとだもん! チユはナガト好きだもん! かわいいダシだもん!」

「弟子です師匠……煮込まないで」

 

 頬を膨らませて目をうるうるさせている小さなチユは今にもぐずり出しそうだった。

 

「……ごめんて」

「どうしてナガトはそんなこと言うの!」

「すいませんって」

「罰としてチユとずっと一緒にいるの! わかった?」

 

 

「アンナ先生……どうしよ」

「この状態でも戦闘技術とか一部、体が覚えているものは普通に使う。暴れると手のつけようがなくなるんだ。今まではナガトは遠くに行って春まで帰ってこない。良い子にしてれば直ぐに戻ると言っていたんだが……」

「どうしましょ」

「どうもこうもない。いつもはカナメとエマと私で面倒を見ていたが今年はナガト君が世話してくれ」

 

「わかりました……」

 

「わーい! ナガトと一緒! クリスマス一緒いられるね!」

 

 

(これがどうしてああなるんだろう……)

 

 ナガトは一周回って頭痛がしそうだった。

 


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