116_決裂流出_チユ
晩秋の候。
机に向い紙とペンでチユは些細で下らない文章を書いていた。
「……思った以上に早かったわね」
いつも着ている服はいつもよりブカブカだった。
コンコンとノックが聞こえる。
「どうぞ」
「そろそろ……今年はもう来てしまったんだね」
アンナが怪訝な表情でチユを見下ろす。
「ええ、これが私のベースだからね」
「それにしても年々ペースが速くなっているな」
「ねえアンナ先生」
「なんだい?」
「私はあとどれぐらい?」
「さぁね。でもそう長くは無い」
「もっと具体的に」
「……いつでもあり得る」
「やっぱり」
「チユ、この際だ。君もコールドスリープしてその体を治せる方法を――」
チユは首を横に振る。
「その必要はないわ」
「そうか……」
「もう、いいのよ」
静かに微笑む顔を見たアンナは静かに吐息を漏らす。
「わかった。意志を尊重する」
「ありがとう」
「それじゃあこっちの話だ」
「何かしらアンナ先生?」
「ナガト君がユネの指導を修了したそうだ。それで次は椿宮師団で研修させようと思っている」
「あら、頑張ったようね」
「それでだ。ナガト君は一度椿宮師団の総合病棟で研修を積ませようと思っている」
「ええ、問題ないわ。こっちの仕事は最低限だけどやっているわ」
「わかった早速呼び戻す」
「こっちで言っておく?」
「頼む」
「わかったわ」
「用件は以上だ。それではまた」
「ええ、また」
アンナは静かに部屋を出る。
携帯端末でナガトに電話をかける。
『はい何でしょうか?』
「そっちはどうかしら?」
『ようやくユネ先生から合格をもらいました』
「うんうん、良いじゃない。裏の方は何もしていないわよね?」
『はい、ですがネズミ探しはしているみたいですが、尻尾は掴まれていないと思います』
「そう、わかったわ。じゃあ、怪しまれる前にこっちに戻ってこれるかしら?」
『問題ないと思います。ユネ先生の合格をもらって次の研修先に移動なので怪しまれることもないと思います』
「わかったわ。じゃあすぐ帰ってきて。徒歩で」
『わかりました』
「じゃあ、明日面談するからお昼には帰ってきなさいね」
『……マジですか』
チユはナガトの言葉を無視して通話を切った。
それから別な宛先に電話をかける。
「あ、もしもし? 料理の注文ですが、ザッハトルテと五種のソーセージグリル付け合わせにローストポテト、あとプレッツェルをお願いします。明日までに。料金は割増しで結構です」
注文を終えるとチユはグッと背伸びをしてから、下らない文章の続きを書き始めた。