113_決裂流出_ナガト
獣桜組、蛇組診療所。
「ナガト君、裏の仕事はどうだ?」
「まぁまぁ難航していますね」
「どの辺りが?」
「証拠集めっすね。映像や音声記録はいくつか黒になりそうな物がありますが決定的ではないです。こいつらは合成で作れちゃうので言い逃れができてしまうんですよね」
「となると現場を押さえるしかないということか」
ユネは身の丈に合わないほど巨大な尻尾に寝転ぶ。
「ですが尻尾は中々出さないですね」
「チユからは何か言われていないのか?」
「一応、グッドラインは超えてるけど時間もあるしもうちょい上を目指してみたら? とのこと」
「裏の方は順調で何より、だけど表の方の習得はこの調子じゃまだまだ赤点だよ」
「うぅ……医者になるのは難しいですね」
「本来なら医師免許取るのに6年の医大生やって、それから研修医という名の奴隷やって……嫌なこと思い出してきた」
「厳しいですね医者の世界」
「人の命を預かる仕事だからね。責任は重い。だけど命に対する一種の軽薄さも必要だよ」
「軽薄さ?」
「医者は万能じゃ無い。どうやっても救えない奴はいる。そいつに手を焼いて本来救えるはずの他の人間を見逃すなんて最悪さ。だから助からない奴はどんどん切り捨てる。それって知らない奴らから見たら軽薄に見えるでしょ?」
「そりゃあ……そうかな?」
「全ての人間が誰しもある程度の知識を持っているとは限らない。切り捨てられた人間の家族なら私のしたことは全て殺人紛いさ」
「…………」
「ナガト君、私は優秀な医者だと自分では思わない。おそらく君も優秀な工作員だと思わないだろう。それでも仕事と決めた以上やるしかない。辛くても悲しくても、時には映画やアニメ、小説、マンガの主人公みたいにスーパーパワーで何でも出来るそんな主人公に憧れて妄想する。でも現実を見たら何も成し得られない、空っぽな自分に苛まれている。それは今ままでもそしてこれからも続いていくよ」
「……才能無いですよね」
「残念だが、ナガト君、君には突出した才能はない」
「うぅ……」
「でもそれで良いんだ。あとはどう失敗と向き合うかだ」
ユネは寝そべってゆったりとした体勢のまま話をする。
「失敗とどう向き合う……」
「それが一番大事、あとは真面目にやってればそれなりについてくるよ」
ナガトは指遊びをしながら、その言葉の意味を考える。
「俺はどっちかって言うと人を殺す側、なので……もっと命に軽薄な方がいいかもしれないですね……」
「かもしれないね」
そうは言ってもナガト自身、今だ人の生死についてどう向き合うか、決まっていなかった。