110_決裂流出_ナガト
ナガトはチユの自室に呼び出されていた。
「さて、何故呼ばれているのでしょう?」
「皆目見当もつきません」
「でしょうね。あの会議もほとんどついて来れてなかったもの」
「すみません……」
「いやまぁ、あれはエマの一人ブチギレ劇場だったから中身なんてほぼ無いのだけれど」
「えぇ……」
「問題は、裏切り者がいるのにそれがどの組織も把握出来ていないこと」
「一番怪しいのは獣桜組だと思います」
「そうね。というか裏は取れているんじゃない?」
「……ヤマトのこと知ってるんですね」
「さぁね~」
「師匠……にしてもエマさん、今日は酷かったですね」
「ええ、そりゃあ、勘当言い渡した男に命救われた上に、獣桜組の内部に裏切り者が濃厚、その上で椿宮師団から事実上の監視体制を敷かれたら怒るわよ」
「面目丸潰れっすね」
「そうね。早いところあの人食い虎が謝れば色々解決するのにね」
「不器用な親子ですね」
「血は繋がっていないそうよ。二人が言うには」
「それにしては似すぎますね。きっとヤマトの兄貴分、タイガさんだっけ。きっとそっくり何でしょうね」
「いや、タイガは凄まじく要領が良くて頭が切れて、性格も人当たりが良くておよそ非の打ち所がないパーフェクトインテリ、その上喧嘩も強かったわ」
「まじか……」
「でも組の連中に可愛がられていたのは圧倒的にヤマトね。そそっかしくて目を離せなかったわ……」
チユは何かを思い出したのか頭を抱える。
「そんなに酷かったのか……」
「格上に喧嘩を売ってはボコボコにされていたわ。諦めも悪くて次の日には再戦を要求していたわ」
「あいつらしいっすね」
「でも、格下とわかっている相手に喧嘩を売られても一切興味を示さなかったの。それどころか喧嘩なんて危ないから止めとけみたいなことを言うのよ」
「なんて言うか……今とそんなに変わらない気がする」
「それに手の掛かる子の方が可愛いって言うじゃない。あと個人的にタイガ好きじゃなかったの」
「好きじゃない。ですか」
「何でもある人並み以上出来るし先回りが出来ちゃうから、辛いことを上手く回避するのよ」
「良い事じゃないですか」
「ええ、そうね。じゃあナガト、私の修行はキツイ?」
「キツイとかじゃなくて生きてるのが奇跡ですよ」
「でしょうね。あなたに課してるトレーニングは自衛隊のレンジャー過程と同じメニューよ」
「レンジャー……ってなんです?」
「……おつむの方は自分でなんとかしなさい」
「うっす」
「さてナガト、今日は座学よ」
「あの師匠、プランクしてる上に師匠が乗っかっているのですが」
「レディに重いって言いたいのかしら?」
チユはナガトの背中の上で小さくジャンプする。
「ヴッ!」
「がんばれがんばれ」
「師匠、膝ついていいですか?」
「死んだらついて良いわよ。ついでに好きなだけ寝てるといいわ」
「そりゃあ……素敵ですね」
「じゃ、始めるわよ」
「うっす」
「まずナガトにやってもらいたいのはこの日本にいる裏切り者の始末。始末と言ってもベストは生け捕り、ベターは裏切り者の殺害、グッドは物的証拠の入手ね」
「結構ハードル高くないですか?」
「今回は生死が掛かってるから本気でやりなさい」
「いつも本気っす」
「あら、じゃあ私の手は要らないかしら?」
「弟子の生首を見たいのですか?」
「届いたら部屋に飾っておこうかしら」
「冗談キツいっすよ」
「と言うわけで獣桜組に向って頂戴」
「わかりました。顔は作った方がいいですか?」
「そうね……はぁ……」
「どうしました?」
「その能力羨ましいわ」
「そうですか?」
「だってあなた、トッケイヤモリとカーペットパイソンとクレステッドゲッコーが顕在化してるだけでその顔の変わりようなのにあと3つもベースを残している。無限に近いレベルの顔を作れるのよ」
「俺としてはヤマトみたいな強くてカッコイイベースが良かったですけどね」
「顔がいくらでも作れるのがいかに凄いか、すぐにわかるわ」
「そうですか? 楽しみにしてますね」
「そうね。それじゃ、情報収集よろしくね」
「うっす。やっときます」
「くれぐれも命第一よ」
「はいはい」
忙しい時期に追い打ちをかけるように右手を負傷しました。
申し訳ございません。