11_生存遊戯_セレネ
(ナガトの様子を二週間見ているけど、なんか妙ね)
セレネはシェルターでアハトノインのメンテナンスをしながら静かに考える。
(性質は臆病さが際立つけどその割りには所々思い切りがいいところもある。何より記憶の矛盾がいくつかある)
セレネはボルトを取り外す。
(精神的ショックで記憶障害? それにしては精神が正常すぎるわ。少し幼さも感じるけど)
布掴みボルトの汚れを拭き取る。
(特に家族のことになると急に弱気になる)
布を巻き付けた細い棒で銃身の中を掻き出す。
(となると家族を失ったショックで何かあったということかしら)
トリガーの重さを指で確認。
(ピースは揃ってきたけど、これは言うべきことなのかしら……)
カチンと乾いた金属音が響く。
(ま、今の私には関係の無いことだわ)
全てのパーツを戻して最終動作確認をする。
(でもやっぱり……)
「気になるわねえ」
「どうしたの?」
うっかり出てしまった言葉にナガトが反応する。
「あー……ちょっと銃がね」
「ふーん、毎日いじくってるけど楽しいの?」
「落ち着かないってのはあるかしら、何より毎日メンテナンスしておかないと使いたい時に使え無くなってしまうわ」
「そうだね」
「この銃にはちょっと思い入れがあるのよね」
無言に耐えられずセレネは口を開く。
「思い入れ?」
「実はこの銃はジャンク屋でタダ同然で売られていたんだけどパッと見て使えそうだったから自分で修理したのよ」
「自分で修理……」
「両親の遺産と会社を持ってかれたから」
「あー」
「私も素手でサバイバルゲームに参加するほどの蛮勇じゃないわ。だから武器になると思ったのよ」
「そりゃあね」
「で、このジャンク品を買ったのだけど、まず全体的に壊れているところと錆を取って、ストックは木を削って新調したのよ。だけどパーツのかみ合いが気になってあれこれパーツを作り直したの」
「あーだから思い入れが」
「うん、それで結局全部のパーツを作ったのよ」
「それって……」
「そう、最初から材料買って作れば良かったのよ。これじゃテセウスのアハトノインよ」
「テセウス?」
「哲学的な問題にテセウスの船っていうのがあるの。船を修理し続けて全てのパーツが入れ替わったとして果たしてそれは本当に元々の船と呼べるのかっていう話ね」
「修理してんだから同じ……あっでも全部もう違うパーツだから……あれ?」
「そうなのよ、答えがないの。だからこの問題はテセウスの船っていう名前をつけて未だに議論されているの」
「そうなんだ。なんて言うか、面白いね」
「そうね。私からしたら所有者がどう思うか自由ぐらいにしか思わないけど」
「それもそうだね」
「ええ、シンプルでいいでしょ?」
ナガトはかまどの火を少し見つめる。それからセレネの方を見る。
「もしも、僕が感染者になって、バケモノになったらそれは僕なのかな」
「……それは難しいわね」
「セレネはどう思う?」
「私は――。ふふ、それもナガトだと思うわ。あとは私がナガトを好きか嫌いか変わっていくだけ」
「そっか、じゃあセレネ、僕に何かあって全くの別人とかバケモノになってもいい関係だったらいいね」
「襲ってきたらこれだけどね」
セレネは銃を持ち上げて不敵に笑う。
「痛いのは嫌だな。でもありがとう」
(ありがとうってそれじゃまるで――)
セレネは言葉に引っかかるが口には出さない。
(撃つしかないのかしら。その時は)
例えナガトがどうなっても自分が思うままに接しようとセレネは心に決めた。