103_決裂流出_セレネ
シュミットトリガ社、舞鶴支部。
「ようやくここまでたどり着けた!」
セレネは一面に広がる工場を見て胸を高鳴らせた。
「…………これは見事ですね」
「ケラグイもそう思うわよね! シュミットトリガ社、日本支部第一号が舞鶴でよかったわ!」
「…………なぜ舞鶴?」
「舞鶴はその昔、日本海軍が工廠を造った場所でもあるの、海から近くてタンカーの乗り入れも出来る、こんな素敵な立地を格安で売ってくれるなんて最高よ!」
「…………そうなのですね」
「港も開けるから海外の貿易が復活するわよ」
「それに獣桜組が囲んでいた職人もこっちで雇っていいって話だからこれから日本の工芸品とかをバンバン輸出して荒稼ぎするわよ!」
「…………日本の物は今でも売れるのですか?」
「何言ってるの! 今の方が遥かに高く売れるわ! 日本刀ってだけで1万ユーロくらいで取引されているわよ!」
「…………日本円で150万円くらいですか……凄いですね」
「愛好家が多いの、だから現代刀匠を確保出来たのは、金のなる木よ!」
「…………商魂たくましいですが、よく獣桜組も許可を出しましたね」
「かなり頑張ったわ……一番しんどかったのは貿易船の手配だったわ」
「…………どうやったのですか?」
「イタリアに獣桜組の同盟マフィアがいるの。名前はビスティアロッソファミリー。イタリア国内ではそれなりに幅を利かせている会社ね。そこに商船ルートに組み込んでもらったわ。エマの手のひらの上よ。技術者はくれたけどそれを運ぶ方法は全部エマに持って行かれたわ……」
「…………製造はシュミットトリガ社で運搬は獣桜組、いいじゃないですか」
「バカ言わないで、日本の輸出入の全てを獣桜組が持っていることになるよの? 輸入品は誰が検査するの? 輸出品は誰がチェックすることになるの?」
「…………そう言う事ですか」
「つまり私たちを生かすも殺すも自由自在なの」
「…………エマらしいですね。泥臭いところは触れないで急所を的確に押さえている」
「しかもカナメが不在のこのタイミングで短納期を要求、日本ことわざでえっと……」
「…………鬼の居ぬ間に洗濯」
「そうそれ!」
「…………エマもそこまでは出来ないと思いますが」
「というと?」
「日本の海域を一体誰が守っていると思っているのですか?」
「あっ」
「…………CEOは実感が無いと思いますが、日本ほどの海洋国家は早々ないですし、こと海に関して椿宮師団は最強です」
「お、言うわね」
「昔ニュースになりませんでしか? 原子力潜水艦座礁沈没事件」
「あ……えーっと、たしか二、三年前だったかしら?」
「あれはミノが沈めました――」
「……はぁ?」
「たったお一人で沈めてしまったのですよ」
「原子力潜水艦よ!?」
「…………感染者等級甲種、これは努力と才能と天運に恵まれたベースを持つ人間だけが掴める最強にして最高の証であることをお忘れ無く」
「……ええ、そうね」
「…………お忘れ無く」
「ねえケラグイ」
「…………はい?」
「原子力潜水艦って一機、いくらするか知ってる?」
「…………三十億円くらい?」
「約1.3兆円」
「はあああああああああああ!?」
「ケラグイが壊れた……」
「…………じゃあミノだけで被害金額は!」
「たぶん3兆円を超えると思う」
「…………通りで破壊神とか言われるわけです」