101_海底抱擁_ミノ
太平洋に太陽が浮かぶ。
「これだけ壊せば流石に諸外国も手を引きますか?」
『海は穏やかですが、領空侵犯は増えています』
「厄介でありますな。ダクダなんとかしてください」
『空は空でちゃんとやってるみたいなので、わざわざ出向かなくても大丈夫でしょう』
「なるほど、では陸の状況は?」
『少々ごたついているもののシルバーベルと関係修復が概ねできたそうです』
「吉報でありますな」
『がしかし、スパイが紛れ込んでみいるみたいで疑心暗鬼が続いています』
「そうでありますか」
『おっと失礼……オイラギから駿河湾の制圧が終ったそうです』
「思った以上にかかったようですね」
『ミノ隊長、あなたと一緒にしないで下さい』
「同じカジキマグロなんですから言い訳しないでください」
『バショウカジキではないでしょう?』
「トラにできてライオンに出来ないことないでしょう?」
『無茶苦茶です』
「そうでありますか?」
『そもそも、トップスピードは言わば短距離走です。それを長距離で速度を維持しようとするのがおかしいのです』
「気合いであります」
『……隊長……もう少しその……我々に寄り添って頂いて……』
「それではたるみます。我々は日本の海の守護者にして最終防衛ライン、求められることは常に最強であること。お忘れ無きように」
『存じております』
「なら結構です」
『ところで隊長は今どちらへ?』
「青森の方まで見回りです。ついでにセレネCEOから受け取った試作品ローレライのチェックも兼ねています」
『電磁励起式水抵抗低減システム、ようは水中に居ながら水の抵抗を減らすことが出来る代物でしたっけ?』
「これは良いです、ビート板みたいで少々ダサいですが、泳ぎの負荷が減るしトップスピードも上がる、あとスクリューが着いているので自動牽引もしてくれます。寝ながら移動も出来きます。今はメインコンセプトを追及しているので他に機能はないですがそのうちはソナーやレーダージャミングなどの機能も搭載予定だとか」
『楽しみですね。ちなみに今の速度は?』
「概ね今までの2倍から5倍、どうしてもシステムの立ち上がりから安定化までのラグが大きく、トップスピードになるまでは少々時間がかかります」
『2倍から5倍って、ミノ隊長、それ時速600キロで移動していることになりますが?』
「おかしいでありますな、水の抵抗は陸上の12から15倍、これを使えば陸上と同じ抵抗になると言ってましたが……」
『抵抗がないということはこちらの游泳力、水が蹴れないので力の伝達が悪いのでは?』
「なるほど! そういうことでありましたか」
『あとミノ隊長が今の15倍の速度で泳ぐとマッハ1.5くらいになるのですが』
「む! 戦闘機と速さ勝負出来る日も近いでありますな!」
『……そうじゃねえよ』
ダクダはため息をついていた。
「装備も開発されたら益々強くなれる。我々は常に最強であり続ける必要があります。このレーザーもレールガンもない数百年進歩の無い海中の世界が変わります」
『変わったのはレーダーや情報通信、無人駆逐艦などの省人化された兵器ばかりですからね』
「ええ、だから楽しみでありますな」
『はい、そうですね』
ミノは日本の海が好きだ。
過去も未来も、そして今も――。
海底抱擁 完。