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赤の魔女は恋をしない  作者: チャイムン
10/11

10.溶け堕ちる天使の夢

 建国祭当日、エルーリアとアイリーンは朝から大騒ぎだ。

 いつもより堅固なコルセットに体を押し込み、侍女達に絞らせる。


 この三ヶ月、デーティアはこの二人から少しずつ筋力や生命力を奪い取っていた。

 今や彼女達の体は以前より更にだらしなくたるんでいる。


 大騒ぎで化粧を終えると、デーティアに魅了と幻惑の魔法をかけ直させにきた。


 今日の彼女達の化粧品は特別の調合だし、魔法も特別だよ。あとたった半日の夢だ。

 今までで最も美しく愛しらしく見える仕上がりだ。王子は今日初めて会ったとしても、恋と言う熱病に落ちるだろうよ。

 そしてそろって堕ちてお行きな。夢の冷めた地獄へと。天使とならば楽しく幸せな道行だろう?

 デーティアはほくそ笑んだ。


「大変お美しいですよ。婚約発表の時に、あたしからお祝いで特別な魔法をかけてもいいですかね?」

 エルーリアは飛びついた。

「どんな魔法なの!?」

「お嬢様が注目を浴びて、後々まで記憶に残る素晴らしい魔法ですよ」

「お願い」


 これで堂々とできる。


 エルーリアは純白の衣装で王子にエスコートされて会場に立った。晴れがましい舞台だ。

 コルセットやボディスで支えにくくなった体を隠すように、フリルやレースをふんだんに使った豪華絢爛なドレスだ。


 二人は寄り添って壇上に上がる。


「ここにサドン男爵に伯爵位を与え、エルーリアとの婚約を宣言する」

 ばか王子が声を張り上げる。

 前置きも何もない。王子はすでにデーティアの香の虜で、煩わいし事を一刻も早く終わらせたい状態に堕ちている。もちろん、エルーリアとアイリーンも同様だ。


「今日から王宮に住むから、あの香を忘れずに持ってきてね」

 出発前にエルーリアは言ったのだ。

 香や化粧品を調合し魔法をかけるデーティアの存在も、中毒のように放せなくなっている。


 周囲は「おめでとうございます」の一言もなく、フィリパの言っていたような木偶人形のように立っている。


 これもあと少し。


「ではお嬢様、いいですか?」

 デーティアは満面の笑みで許可をとる。

「やって」

 小鼻を膨らましてエルーリアが言う。


 デーティアは慎重にしかけておいた城全体と貴族達にかかった、ハウランの魔法の素を解く。

 はっとして身じろぎする貴族達。


 間髪入れず、デーティアはアイリーンとエルーリアの魔法の網をはぎ取って、化粧を落とす油をエルーリアの顔にぶちまけた。


「きゃぁ」

 エルーリアの悲鳴が上がる。

「なにをする!この魔女め!」

 王子キリアンがエルーリアを庇うように抱き寄せる。

「キリー」

 上目遣いにキリアン見るエルーリア。

「もう大丈夫だ。私がいる…か…ら…ぁ?」

 キリアンの声は間延びして止まる。


 キリアンは見た。自分の()()()()を。()()()使()を。


 化粧が溶けて斑な白粉の中にあったのは盛りをとっくに過ぎて、皮膚のたるみきった女の顔だ。


「誰だ!お前は」

 王子は自分の()()()()を突き飛ばした。


「きゃあ!」

 エルーリアは床に転がり悲鳴を上げた。

「どうしたのキリー?」

 王子を見上げた拍子に顔から油と白粉と色粉がどろりと床に垂れた。

「ひっ」と王子の喉から引き攣れた音がする。


 周囲の者達はそれを見て悲鳴を上げた。


 ようやくエルーリアは事態を飲み込み、顔を手で隠し悲鳴を上げた。

「あの魔女の呪いよ!あの魔女があたしに呪いをかけたんだわ!」


 幻惑の魔法の網を取り去った今では、エルーリアの声は小鳥の囀りではなく、カケスのような酒焼けした耳障りな掠れ声だ。


 さあ、王子様。

 ()()()()とやらをみせていただこうじゃないか。


 エルーリアは娼館バンダンでの乱れた生活と粗悪な化粧品を使い続け、更に魔法を一年以上かけられていた。そこにデーティアの魔法で少しずつ筋力と生命力を削ぎとられていた。そしてデーティアが調合した香の中毒になっている。そのため、容姿は見る影もなく衰えていた。

 もはや見かけは老婆に近い。


 アイリーンも同じで化粧は剥げていないものの、老いを隠すのは難がある姿になっていた。

 デーティアはアイリーンの顔にも油を投げた。

 デーティアの魔法によって化粧を溶かす油は放物線を描いて顔に命中して広がった。

 アイリーンの化粧がどろりと溶け落ちる。その姿を視たサドン男爵は唖然として動けないでいた。

「あなた!エルーリアが悪い魔女の魔法にかけられています!」

 叫ぶ老婆をまじまじと見つめる男爵はまだ動けない。


 広間の喧騒をそのままに放置して、デーティアは移動魔法で国王の居室へ飛んだ。


 監禁されていた国王は憔悴していた。

 デーティアは部屋に結界を張った。


「国王陛下、王子の気の迷いは今解けようとしています。あたしについて広間へ出られますか?」

 尋ねると国王は少し希望を持ったようだが、すぐに顔に影がさした。

「部屋は王子が配置した魔術師に固められて出られない。王室付きの魔導士は地下牢に閉じ込められている」


 デーティアは笑った。

「あたしがお連れします。その前に聞いていただきたいことがあります」


 デーティアはアイリーンとエルーリアのこと、フィリパとジルリアのことを話した。

「国のことはあたしにはわかりません。ですから国王であるあなたが采配を振るってください」


「なんと!フィリパが王子の子供を!」

 国王は「なんと可哀想なことを」と呟き、しゃんと起き直った。


「広間に連れて行ってくれ。後は私が処理する」


 任せようじゃないの。

 国のことは国でね。


 その時、国王は妙な顔でデーティアを見つめた。

 デーティアは幻惑の魔法を取り去り、フードをはねのけ素顔でいた。


 おっと、どうやらわかったようだね。

「あたしは人間とエルフのハーフですよ。もう七十過ぎです」

 王はますます考え込んだが、デーティアが急かしたので自分の責務を思い出したらしい。


 あとはよろしく。

 デーティアは国王を護衛とお付きの魔導士とともに広場へ転移させた。


 じゃあね。

 デーティアはシルアの元へ飛んだ。


 自分の息子のおイタは父親が清算しておくれ。

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