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死想蝶歌  作者: 霧雨 葵
始まりの刻
4/17

引越し

 その日(シュー)家の屋敷は朝から慌ただしく家人や兵たちが動いていた。何事かと清蘭(セイラン)は身支度もそこそこに部屋から出ると浩宇(ハオユー)が荷出しの指示をしている。どこかに引越しでもするのだろうか。眠い目を擦りながら困惑していると、清蘭は春蕾(チュンレイ)から自室の荷物をまとめるように言われた。

 「本当に引越しでもするの?・・・・・・」

 清蘭が独り言を呟くと、後ろから浩宇がやって来る。

 「本当に引越しする。と言うか戻るに近いかもしれない」

 浩宇は腕を組みながら言った。人身売買や賊討伐などは徐家の屋敷が近かったため拠点としていたが、それ以前は(ワン)家の別館を拠点としていたらしい。浩宇は徐家の次男であり、家を継がないため王家直属の前線部隊として戦うことになっている。浩宇の兄は長子として徐屋敷内で当主の座についているのだとか。

 清蘭は浩宇から一通り説明を受けると自室の荷物をまとめに戻った。

 「運が悪い。王家別館には梓豪(ズーハオ)まで住んでるらしい。なるべく目立たないようにしよう」

 王家はその名の通り、この国の王の血筋の一族だ。宇軒(ユーシュエン)は王とは親戚関係にあり、皇位継承権は第9位だという。徐家や(ウー)家は名の知れた貴族だが、宇軒の皇位継承権が一桁だとは思ってもいなかった。この間の討伐以降、春蕾はやたらと徐家と他家の関係や仕えている王家について教えてくるため、その度に背筋を凍らせた。

 清蘭の自室にはあまり荷物がない。給金は出ており、ある程度自由に買い物もできるのだが、なるべく部屋に物を増やさないようにしている。正体が気づかれて追手が来た時すぐに逃げられるためだ。

 (ジャオ)家は数年前に滅亡したとされる一族だ。ただ、当時の当主候補である珠蘭(シュラン)、その妹の蘭玲(ランレイ)、蘭玲の娘である清蘭は遺体が見つからないと指名手配をされている。趙家滅亡の裏には死想蝶(しそうちょう)術と言う、道素(どうそ)の力が大きく関わっている。趙家しか使えないその特別な術は、現王をも脅かす(リュウ)家にとって喉から手が出るほど欲しかったものらしい。趙家一族の住まう集落に火を放ったのだ。

 権力事情から王家と呂家は蜜月の関係と噂されている。清蘭はこれからその王家一族の別館で住むようになるのだ。正体が気づかれれば何が起こるか分からない。

 清蘭は最小限の荷物を持つと、王家別館へ足を向けた。


 「徐家のみんないらっしゃい」

 宇軒が笑顔で門で出迎えをしている。どうやら梓豪は不在か他に仕事があるようだ。門で主人が出迎えをしているのにも関わらず、何もしない部下はいない。

 「宇軒様、ただいま戻りました。明日からは不在にしていた分の政務を始めるつもりです」

 浩宇は馬から降りると恭しく頭を下げた。

 「皆の部屋を案内させる。女官に着いて行ってね」

 清蘭も言われた通りに女官について行こうとすると呼び止められる。

 「清蘭、君は兵のみんなとは少し離れたこっちの部屋になる。浩宇の部屋の近くだから浩宇に着いていくといいよ」

 浩宇は「こっちだ」と背を向けて歩き出す。徐家に仕えるようになったばかりの清蘭がなぜ貴族の御曹司である浩宇の部屋に近い場所で住むことを許されているのだろうか。もしかするとこれは趙家と気づかれ、監視をするためなのかもしれない。人質にとられた時に咄嗟に道素の力を使ってしまった。死想蝶術でなければ気づかれないだろうと思っていたが、そうではなかったのか。警戒をしてると、宇軒がクスリと笑う。

 「そう警戒をしないで。清蘭、君は道素の力を持っているけれどその使い方はまだまだだ。これから伸びしろがあるから、浩宇に教わってほしい。君が道素の力を立派に身につけられれば戦力になるからね」

 思っていたよりも戦力として期待されているようだ。人攫いにあうまで清蘭は王家管轄の土地よりも田舎で暮らしていた。そこでは道素の力を持つ者はいなかったが、ここまで重視されるようなことはなかった。初めての扱いに戸惑いが隠せない。

 「道素の力とはこれ以上の使い方があるのでしょうか」

 清蘭が道素の力を習う前に趙家は滅んでしまった。死想蝶術はかなり使いこなすことができるが、それ以外の道素の力は我流で使っている。

 「君はつむじ風しか起こせないけれど、風の道素の力はもっと多様な使い方がある。それこそ、武器のようにもできるんだよ」

 道素の力は未知だ。その力を持っている者同士でしか継承されず、特別な力として長い歴史の中で力の扱い方は隠されている。我流で勉強をしても極めることは難しい。これは好機なのだろう。正体を隠しながら道素の力を使いこなせるようになれば逃げる(すべ)がまた増えるかもしれない。

 「浩宇様、引き続きご指導をよろしくお願いします」

 清蘭は恭しく頭を下げると、新たな自室へと足を向けるのだった。

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