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死想蝶歌  作者: 霧雨 葵
始まりの刻
2/17

出会い

 (シュー)家は代々(ワン)家に仕える一族である。その徐家の次男である浩宇(ハオユー)は王家の御曹司の命で市街にある闇市へと赴いていた。

 「くそだるい。闇市の人身売買なんで今どき潰したってトカゲの尻尾切りでなくならないっつーの」

 昨今、都を中心に闇市が開かれ、盛んに人身売買が行われている。そのせいで都付近では人攫いが横行し、治安が悪化していた。主に狙われるのは中流階級の家の者が多く、スラム街の子どもならまだしも、それなりに身分のある者ばかりなため貴族たちの間で問題となっている。

 王家の御曹司は正義感が強い。王家の領地内では人身売買を阻止したいと配下の徐家、(ウー)家に命令が下されたのは1週間前のこと。そこから早急に調査をし、今日、人身売買が行われることがわかったため、浩宇が出ることになった。

 闇市街は名前の通りで、スラムのように荒れた道と怪しげな店で溢れていた。店前には明らかに人間のものと思われる臓器や、神の使いである童子(ドウジ)などが籠に入れられ売られている。この街では人の命よりも金の方が重い。

 「相変わらず腐ってんな。春蕾(チュンレイ)、件の店はどこだ」

 「この一角を左に曲がった所にあります」

 浩宇は春蕾を含め部下を10人連れてきている。敵の規模は2倍の20人いると情報が入っているが、大人数で動けば敵に勘付かれかねない。腕利きの部下を集め、少数精鋭で店を包囲したたく手筈になっている。

 「お前ら、気を引き締めろ。相手は何を使ってくるか分からない。なんとしてでも全員捕縛し、敵本体の情報を聞き出す」

 浩宇は店前に着くと部下に軽く手を上げ合図する。部下たちは頷くとそれぞれの位置を目指して散って行った。浩宇は店の入り口の暖簾に手をかけ、勢いよく開いた。

 「我らは徐家の者、お前らの悪行は既に知れ渡っている。大人しくお縄につけ」

 浩宇は剣を引き抜くと声を張り上げた。その声に反応するかのようにぞろぞろとゴロツキが出てくる。

 「はっ。偉そうな王家の犬が来たか。それもお前一人だと?舐めたまねしやがって。日頃の憂さ晴らしに付き合ってもらうぞ」

  棍棒や錆びた剣をゴロツキたちが振りかざすが、浩宇はそれを難なくかわし、敵の急所に的確に一太刀、ひとたち入れていく。あっという間にゴロツキの山ができあがった時だった。

 「お、おい。こいつがどうなってもいいのか」

 ゴロツキが少年の首に短剣を突きつけていた。少年は17〜18くらいの見目をしており、ボサボサの髪にボロボロの衣服を身に纏っている。見るからにスラムにいるような者だった。

 浩宇は少年を助けるか悩んだ。中流階級の者ならばまだしも、スラムにいるような子どもは戸籍もなければ、生きていないようなものであり、死んでしまっても特段問題がないからだ。

 「っ!風よ」

 その時だった。少年が手をかざし風を起こし、ゴロツキは驚き瞬く間に吹き飛ばされた。

 「道素(ドウソ)の力持ちか!」

 浩宇はゴロツキが倒れたところをすぐさま縄で縛った。これで浩宇の周りにいたゴロツキは全て捕らえた。見たところ5〜6人。

 「浩宇様、終わりました」

 春蕾の後ろには縄に繋がれてゴロツキが並んでいた。

 「まずまずだな。とりあえずは人の保護をしたら戻るぞ」


 ここ数日、徐家には人が絶え間なく訪れている。ゴロツキたちに捕まっていた者たちの家族が、涙を流しながら行方知れずとなっていた家族との再会を喜んだ。そのうちにほとんどの者が家族の元へと帰っていく中、あの少年だけは残っていた。

 浩宇は春蕾に命じて少年の身元を調べたが、道素の素質を持った少年の行方を探す家は見つからなかった。道素の力を持つ者は成功者になりやすく、貴族社会の上層部のほとんどが道素の素質を持つ者で溢れている。家で道素の素質を持つ者の行方が不明となれば大騒ぎになるものだが、気持ちが悪いほどそう言った情報がなかった。

 「お前は名前をなんと言う?」

 「清蘭(セイラン)と申します」

 男にしては高い声で少年は清蘭と名乗った。名前も女性のような名前だ。背も低い。

 「清蘭か。お前の家族はどこにいる?」

 「家族は隣国にいましたが、先の戦争でみな亡くなりました」

 なので私の行く宛てはありませんと清蘭は俯きながら言った。

 「もし、できるのならあなた様の家で雇ってもらえないでしょうか。掃除や洗濯、なんでもします」

 浩宇は道素持ちの少年か、と思案する。道素持ちであれば常人とはかけ離れた力を使うことができる。戦力としては申し分ない。隣国出身であれば諜報員の可能性も捨てきれないが、戦力として使えるなら使いたい。

 「武術の心得はあるか?」

 「少しだけなら」

 清蘭の身元であれば春蕾に調べさせればいいかと、今後の損得を数える。

 「分かった。雇おう。お前は俺の部下として働いてもらう」

 少女のように小さい清蘭の手を取ると握手した。

 浩宇と清蘭、この出会いは国を大きく揺るがすこととなることをまだ誰も知らない。

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