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魔法学園の空間魔導師  作者: 語部シグマ
第一章:魔法学園の空間魔導師
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〝黒羽瑠璃〟として・その2

 学校終わり……その日はバイトが入っていたので帰りは夜の8時頃になった。



「ただいま〜」


「お帰りミカゲ……随分と遅かったな?」


「あぁ、バイトだったからな。ところで手続きは無事に終えたの………………か?」



 脱いだ靴を揃えていたところにルリエルが声をかけてきたので手続きに関しての話をしようと顔を上げた時、そこには朝とは違う服装のルリエルが立っていた。


 母さんのお下がりではなく、今どきの若者が着るような……しかし〝可愛い〟というより〝美人〟と思われるような服装に身を包むルリエル。



「どうしたんだ、その服?」


「あぁ、これはだな……手続きを無事に終えて帰ってきた後、月夜さんに選んで買って貰ったものだ。………………どうだろうか?」


「いや……マジで良いと思うぞ?ルリエルにとても似合っている」


「そ、そうか!わ、私的には如何なものかと思っていたが……そうか……似合っているか……ふふっ♪︎」



 上機嫌になり、その場で小躍りしそうなルリエル。


 ふと、そんな彼女の背後を見てみれば、台所から顔を覗かせていた母さんが〝グッジョブ!〟と言わんばかりにこちらへサムズアップをしていた。


 手続きについては〝無事に終えた〟と言っていたので滞りなく済ませられたのだろう。


 まぁ父さんがいる限り不備は無いと思うが……。


 手続きが無事終わって良かったなと思っていると、不意にルリエルがこんな事を言ってきた。



「あっ、ちなみに今後は私の事は〝黒羽(くろは)〟、もしくは〝瑠璃〟と呼んでくれ」


「何故に?」



 ルリエルの言葉に俺は疑問符を浮かべる。


 するとルリエルはその理由について話し始めた。



「ここでは〝苗字〟というものが存在するのだろう?それに私は堕天した身だからな……この際思い切って改名する事にしたんだ」


「〝黒羽瑠璃〟か……いい名前だが、何故に〝黒羽〟?」


「堕天した私の翼は黒いだろう?それこそ私自身、その翼を恥じて嫌っていたのだが、陽影さんに〝綺麗な黒い翼だから黒羽はどうだろうか?〟と提案されたのだ。初めてそう言われたのでな……嬉しくてその名にしたのだ。〝瑠璃〟という名もこの瞳と、髪が光に照らされた際に僅かに瑠璃色に光る事から、陽影さんがそう名付けてくれたのだ」


「母さーん!父さん、瑠璃の事口説いてたんだってよー!」


「ちょちょちょ!待ってくれ御影!父さんはそんなつもりで言ったんじゃないぞ?!」



 どうやら今日は残業が無かったらしい父さんが慌ててリビングから飛び出した。


 しかし直後にいつの間にかその背後にいた母さんに肩を掴まれる。



「どういう事なのかしら……ねぇ、あ・な・た?」


「つ、月夜……違う!僕は決して────」


「ふふっ……これはお仕置きものね♡」


「ヒッ────」



 俺が原因ではあるが、それを棚に上げて父さんに向けて〝生きろ〟と心の中でそう声をかけた。


 母さんは怖い笑みを浮かべながら台所へと戻っていき、その後を父さんが言い訳じみた弁解をしながら追ってゆく。



「話を聞いてくれ!」


「話なら後でゆっくりと聞きますよ〜?そう、ベッドの上でゆ〜〜〜〜っくりとね♡」


「月夜ぉぉぉぉ!!!!」



 まるで別れを切り出されたかのようにその場で崩れ落ち両膝をついて叫ぶ父さん。



「ミカゲ、何故に私の耳を塞ぐのだ?」


「聞かなくていい事もこの世にはあるんだよ」


「???」



 俺はキョトンとするルリエル......もとい瑠璃にそう言いながら、〝今夜は耳栓が必要かなぁ〟と思うのであった。


 ちなみに一連の流れを階段から眺めていた妹達は何とも言えない表情をしていた。


 妹達よ、今夜は決して耳栓を忘れるでないぞ?


 まぁそんな事があってから食事を終えた父さんは引き摺られるようにして母さんに寝室へと連れられていった。


 そして俺達も各々の部屋へと戻り、俺は瑠璃にまたゲームでの勝負を挑まれコテンパンにしてやった。


 そして就寝してから数時間後────


 ふと夜中に目が覚めた俺は、まだ眠い目を擦りながらトイレへと向かう。


 そして用を足した後トイレから出ると、両親の寝室から何やら声が聞こえてきた。



「つ、月夜......もう勘弁してくれ......」


「あら?私はまだまだ満足してないわ?それに夜はこれからよ?」



 完全に致している会話である。


 ふと腕に着けた時計に目を落とせば時刻は夜中の3時……この歳になると両親のそういった声を聞くのは萎えてくるものがあり、聞こえなきゃ良かったと心からそう思った。


 つーか両親......特に母さんはいったいいつまでヤるのだろうか?


 この調子だと朝までヤってそうだ。


 俺は先程の会話を直ぐに脳内から消すと、欠伸をしながら部屋へと戻った。


 そして部屋に戻り布団の中へ入ると、今度は瑠璃が起き出し何処かへと向かう。


 何処へ向かうのかはあえて聞かない。


 どうせ行先は限られてるしな。


 そうして瑠璃が部屋を出てから数分後......タタタっと廊下を走る音が聞こえ、それが段々と近づいてきたかと思えば瑠璃が勢いよく部屋へと入ってきた。


 俺は横になりながら瑠璃に注意をする。



「静かにしろよ......妹達が起きるだろ」


「......」



 瑠璃からの返事は無い。


 彼女は静かにベッドへと向かうと、横になることなくその上に座り、そしてふと俺にこんな事を聞いてきた。



「ミカゲ......ご両親はいつも〝あぁ〟なのか?」


「あ〜......」



 その様子から察するに瑠璃も〝あの声〟を聞いたのだろう。


 そういや瑠璃に忠告するのを忘れていたな。



「〝お仕置き〟、〝愛し合う〟、そして〝今夜は長い〟」


「......なんだ?」


「母さんが父さんにそう言ったのを聞いた時は気をつけろって事だ」


「気をつけろって....................................そういう事か......」



 俺が言わんとしていることを理解したのだろう、瑠璃はそう言うと深いため息をついた。


 暗いので表情は分からないが......多分、今の瑠璃の顔は真っ赤になっている事だろう。


 俺と妹達は既に慣れたが、来たばかりの瑠璃には刺激が強すぎる事に変わりは無い。



「喉が乾いたのだが......またあの声を聞くことになるのだろうな......」


「気にしたら負けだ」


「気になってしまうのだが......」


「............気にしたら負けだ」



 言い聞かせるようにして繰り返しそう言うと、瑠璃は納得がいかないようだが無理矢理それを聞き入れた。


 親の情事など気にしていても一銭の得にもなりはしないのだ。


 しかし瑠璃は水を飲みたいようでベッドの上で行くか諦めるかで迷っていた。


 それを見て俺は小さくため息をつくと、起き上がって部屋から出た。


 そして台所から冷蔵庫に冷やしていた飲み物のペットボトルを二本持ってくると、そのうちの一本を瑠璃へと放り投げる。



「すまない」


「別にいいって、俺も喉が乾いたし」



 そう言って飲み物に口をつける。


 意図せず微妙な空気になったので、俺は一つ瑠璃に質問をすることにした。



「ところで、本当に良かったのか?」


「......何がだ?」


「名前のこと。俺は......まぁ当然だが、改名なんてした事ねぇからな。それでも元の名前を捨てるってのは相当なもんだと思ってる。だから本当に変えて良しとしているのか気になってさ」


「もちろん怖かったとも。しかし、名を変えた時に〝あぁ、私は今から新たな人生を歩むのだな〟と、そんな感動を覚えた。それに......」


「それに?」


「なんだか、これでお前達の一員になれたような気がしてな」



 薄暗闇の向こうで瑠璃が、朗らかに微笑みながらそう言っているのかと思うと何だか照れくさくなってしまう。


 向こうからも俺の表情がよく見えないのが救いだったかな。



「これから私は〝ルリエル〟ではなく〝黒羽瑠璃〟として生きてゆく。まぁ至らぬことばかりだが、宜しく頼む」


「頼まれた。そしてこちらこそ」



 瑠璃がこちらへと握手を求めてくる。


 俺はそれを拒むことなく、彼女との握手を固く交わすのであった。


 ところで瑠璃の部屋は変わらず俺の部屋となるのだろうか?


 そんな疑問が浮かんだが、まぁどうでもいいかと結論付け、そのまま再度眠るのであった。


 その翌日、両親が瑠璃の為にと物置になっていた部屋を片付けてくれたのだが、それが両親の部屋のすぐ近くで、瑠璃があの日の事を思い出して複雑そうな表情をしていたのは、また別の話である。






 ◆






 あれから二日が経ちいつものように歯磨きをしていると、何やら隣で同じように歯を磨いていた瑠璃がソワソワしており、チラチラ俺の方を見ていた。



「何だよ?」



 口を濯いでからそう問いかけると、彼女は慌てた様子で〝何でもない〟と言って、そそくさと歯磨きを済ませて部屋へと戻っていった。



「......?」



 わけが分からなかったが、とりあえず俺も学校へと行く準備を始め、そして支度を終えて下へと降りる。


 すると偶然出くわした母さんにこんな事を言われる。



「今日は楽しみね〜♪︎瑠璃ちゃんのこと、宜しくね?」


「......?お、おぅ......」



 何故かウキウキとしている母さん。


 俺は疑問符を浮かべつつも、後を追うようにして下へと降りてきた妹達と共に学校へと向かうのだった。


 そして教室へと入り、いつものように席へとつくと、煉が少し興奮気味にこう話してきた。



「おいおい聞いたかよ御影!」


「何だよ朝っぱらから......そんな聞いた前提で質問されても〝何が?〟としか返せんが」


「なんだよ知らないのか?今日は転校生が来るんだってよ!しかもこのクラスにだぜ!」


「へ〜......つか何でお前がその事知ってんだよ?」


「噂になってるからだよ!昨日の放課後、見たことの無い女子が学園長室に入っていくのを見たって奴がいるんだ。なんでもうちの担任の方角先生も一緒だったらしいぜ?」


「あ〜......だからこのクラスに来るって言ったのか」


「当たり前だろ?他のクラスだったら別の先生が呼ばれるだろうしな」



 〝あ〜、どんな子かなぁ。可愛い子だったらいいな〜〟と、まだ見ぬ転校生に想いを馳せる煉。


 別に興味の無かった俺は欠伸を噛み締めつつ、一限目の準備を始めていた。


 まぁ来るとしても俺と関わることなんて万が一......いや、億が一にもありはしないのだからな。


 ────ん?何やらフラグを立てたような気がしないでもないが......まぁ気のせいだろう。


 そうしている内に鐘が鳴り、担任である〝南北東西(みなきたとうせい)〟先生が教室へと入ってきた。



「席に着け〜。え〜と、ホームルームを始める前に先ずは今日からこのクラスの一員となる生徒を紹介する。入ってきなさい」


「はい」



 返事の後にガラっと今日のドアが開けられる音が鳴る。


 すると興味なさげに窓の外を見ていた俺の耳に生徒達の感嘆とした声が聞こえてきた。


 あまりにも〝綺麗〟だとか、何なら〝美しい〟などといった声が聞こえてくるので、どんな奴が来たのかとそちらへと顔を向ける。


 そして顔を向けた俺は思わず机に突っ伏しそうになった。


 そこにいたのは綺麗な黒く長い髪をポニーテールに纏めた見知った人物であった。


 他でもない......噂の転校生とやらは瑠璃であった。


 そして俺はそこで今朝の母さんの言葉の意味を理解するのであった。



(そういう事かよ────)



 瑠璃は俺の目から見ても非常に......誰の目も引く程の容姿である。


 そんな瑠璃がこのクラスに来たということは、彼女と一緒に住んでいる俺にとって、非常に目立ってしまう可能性が大いにある存在であった。



(頼むから俺に話しかけないで欲し────ん?)



 僅かながらのそんな願望を抱きつつふと隣に目を向けると、先程は気づかなかったが空席となっている机と椅子が置かれていた。


 それを見た直後、俺の顔に冷や汗のようなものが流れる。


 もはや瑠璃の挨拶や教師の話など耳に入ってはいなかった。


 だからだろう......俺はいつの間にか瑠璃が目の前に立っていることに気が付かなかった。



「今朝方ぶりだな御影。今日から宜しく頼む」


「......」



 教室にいる全員からの視線を感じながら、俺はぎこちない笑みを浮かべて彼女に返事をするのであった。



「お、おぅ......こちらこそ......宜しく......」



 どうやら俺の平穏にして安息の学校生活はこの時をもって終了したらしい。


 俺はその事を理解し、今すぐにでも帰りたい衝動に駆られるのであった。


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