表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学園の空間魔導師  作者: 語部シグマ
第二章:東京事変
44/45

この方は鬼ですか?いいえ母親です……

 激しい衝撃と爆破音……それらから身を守るようにしていた俺は静寂が戻った頃合でゆっくりと姉貴の方へと顔を向ける。


 見れば姉貴は身体から煙を上げながらゆっくりとその場に両膝から崩れ落ちた。


 前にアルセーヌとの一戦の時に使用した魔法だったが、あの時とは比べて極力威力を抑えている……しかし、それでもマトモに受けてしまえば一溜りも無い。


 だがそうしなければ姉貴にはダメージを与えられないのだから、我が姉の人外っぷりには辟易する。



「エー……ちゃ……」



 焦点が定まらない虚ろな目をしながらそう呟いている姉貴。


 やれやれ……普通なら気絶しててもおかしくは無い状態なんだがな。


 俺はため息を吐くと終わりを告げるように瑠璃達の方へと顔を向ける。しかしそのタイミングで聞こえてきたのは瑠璃のこんな声であった。



「御影!まだ終わってない!!」


「は─────」



 疑問符を浮かべようとしたその時、俺の頬に衝撃が起こる。


 吹き飛ばされながらもそちらへと顔を向けると、そこには崩れ落ちていたはずの姉貴が拳を振り抜いた姿で立っていた。



「ぐっ……!」



 顎が吹き飛ばされたんじゃないかって錯覚してしまうような痛みが俺の頬を襲う。


 そして姉貴はいったい何処に隠していたのか、先程までよりも強大な魔力を身に纏っていた。



「やっぱりエーちゃんは凄いね。でも、お姉ちゃんは超えられないんだよ」



 褒め言葉の後に諭すような口調……言葉は柔らかいのにその目はかなり据わっていた。


 その目には非常に覚えがある─────俺の陰口を叩いていた奴らや喧嘩を吹っ掛けてきた奴らに向ける目。


 まさかその目を今、向けられるとは思ってなかったな。



「……チッ!」



 さっきから立ち上がろうとしても視界が歪むわ霞むわでマトモに上体を起こす事も出来ねぇ。さっきの一発でどうやら脳震盪を起こしてるらしい。


 それでも何とか片膝立ちまで身体を起こすが、未だ視界が定まる気配が無い。



(やれやれ……こちとら空間の鎧を纏ってたってのによォ……)



 普段は薄く張った空間の膜を身に纏う事でダメージを半減させていたのだが、姉貴のあの一撃はそれを容易くぶち破ったらしい。


 片膝立ちながらもフラフラとなる中……姉貴は俺の目の前でこんな事を言い始める。



「エーちゃん、見ない内に強くなったんだね。でも、お姉ちゃんも強くなったんだよ?だから見せてあげるね……お姉ちゃんの本気を」



 姉貴はそう言いながら纏っていた魔力を更に上げた。そしてそれらを極限にまで圧縮させてゆく。


 圧縮された魔力はその密度をどんどんと増していき、その影響で周囲の空気が消し飛ばされてゆく。



「お母様にはまだ遠く及ばないけれど……」



 今すぐ姉貴を止めなければ非常に不味い状況になる─────そう理解はしているが身体が思うように動かねぇ。



「〝身体強化魔法〟……〝修羅顕現〟」



 姉貴がそう唱えた時、それまで激しく畝りを上げていた魔力が一瞬で研ぎ澄まされた。それはあたかも俺の空間の鎧……〝空鎧〟にも似たものであった。



「ちゃんと避けてね?じゃないと……間違って殺しちゃうかもだから」



 最後にそう言ったと同時に姉貴の姿が消えた。


 俺は直ぐに幾重にも空壁を展開するが、それはまるで一人でに割れたかのように霧散する。


 そして俺の脇腹に姉貴の蹴りが深々と突き刺さった。



「へぇ……今の一瞬で魔力を一点に集中させただなんて……流石の切り替えの速さだね?」



 直ぐに空鎧を脇腹に集中させといて良かったが、それでもその余波で吹き飛ばされてしまった。


 だが皮肉にもそのお陰からか先程までの脳震盪が治まったようで、俺の視界はハッキリしたものとなっていた。



「卑怯くせぇ〜……」



 思わずそう愚痴る。


 弾丸も……それすら瑠璃の剣でさえも容易く弾くってのに、こうも簡単に破壊されては溜まったものでは無い。


 だからそんな愚痴を零してしまうのも、ある意味仕方の無い事だった。


 しかしこうなってくるともはや喧嘩の域を超えてしまうもので、ここからは文字通り〝殺し合い〟にも近いものとなってゆく。


 流石に姉貴は手加減してくれるだろうが、それでもどちらかが病院送りになってもおかしくは無い状況であった。



(本当は使いたく無かったんだが……)



 俺は自身の影に両腕をを突っ込むと、暗黒物質の篭手を装着して引き抜く。


 それを見た姉貴は僅かに目を見開いた。



「エーちゃん、何それ?」


「今の時点での奥の手だよ。それ以上は教えてやる義理はねぇな」


「そう……何をしても無駄なのに」



 姉貴はそう言うと構えを取った。俺もそれにつられるように構えをとる。


 この篭手が姉貴に通用するかは分からない……だが少なくとも破壊される事は無いだろう。なんとか姉貴の一撃を耐え、それで生まれた隙を突くか。


 暫く睨み合う俺と姉貴─────そして合図があった訳でもなく、俺と姉貴は同時に飛び出した。


 徐々に近づく俺と姉貴……姉貴は蹴りを、そして俺は片手でそれを防御しようと構えながら、引いた右手拳を姉貴に向けて放った。


 その瞬間─────



「はぁい、二人ともそこまでよ〜」



 そんな間の抜けるような声と共に俺の拳と姉貴の蹴りは、いつの間にか間に入ってきた母さんによって止められた。



「まったくもう……帰ってくるなり凄い音と衝撃があったものだから何事かと思ったら、二人とも何をしてるの?」


「いや、母さんこれは……」


「お母様、これには理由が……」



 俺と姉貴が口吃ってしまったのには理由がある。それは今、俺と姉貴を止めている母さんの目が笑っていなかったからだ。


 その有無を言わせない迫力に俺と姉貴は途端に気圧されてしまったのである。



「なぁんてね……理由はお父さんからちゃあんと聞いてます。でも周りのことも気にしなさい」


「「ごめんなさい」」



 俺と姉貴の声を揃えた謝罪を聞くと、ようやく母さんの表情が和らいだ。その事にホッとしたのだが、姉貴に関してはそれは束の間の安堵であった。


 何故ならば胸を撫で下ろす俺の目の前で、母さんが笑顔のまま姉貴の首を鷲掴みにしたからだ。


 突然のことに俺は勿論、姉貴も目を点にさせて母さんを見る。


 母さんは人の首を鷲掴みにするような人間では無い。決して……。


 特に俺達家族に対して小突く程度のゲンコツや痛くもないチョップを落としたりする事はあるが、今目の前で行われてるような事はした記憶が無いのである。


 母さんは表情を引き攣らせる姉貴にゆっくりと顔を向けると、その満面の笑みを浮かべながら口を開いた。



「ところで御月……お父さんから聞いたのだけれど、瑠璃ちゃんを家から追い出すだなんて、いったいどういう事かしら?」



 いつもの、のんびりとした口調から一転……妙に静かで底冷えするような声音でそう問いかける母さん。


 俺はその背後に般若─────いや、不動明王の姿が見えたような気がした。


 そんな不動明王を宿した母さんの質問に、鷲掴みにされたままの姉貴は焦った様子でこう答える。



「お、お母様……瑠璃さんは堕天使で─────」


「それがどうしたのかしら?瑠璃ちゃんはとっても、と〜っても良い子よ?お休みの日には掃除、洗濯、お料理はもちろん、買い物まで手伝ってくれるのだもの」


「そ、それはお母様達を騙す為の─────」



 〝あぁ、馬鹿……〟と思った。


 確かに瑠璃は堕天使だが、それはあくまでも無実の罪で堕とされただけであって、瑠璃自身が何か悪さをした訳では無い。


 それに居候の身だからと積極的に家事の手伝いをしているのは俺達家族の中では理解している事で、特に母さん自身が、そんな瑠璃の事をかなり気に入っている。


 そんな瑠璃に関する根も葉もない話をしたもんだから、それを聞いた母さんがどうなるかなど考えずとも直ぐに分かるだろう。


 その証拠に俺は今、無意識に後退りを始めていたのだから。


 本能が〝直ぐにこの場を離れた方が良い〟と警鐘を鳴らしている。それは姉貴も同じだったようで、その顔は瞬く間に血の気が引いていた。


 空気がピリつくのを肌で感じながら、俺はそろりそろりとその場から後退してゆく。


 母さんはそんな俺の目の前で姉貴の首から手を離したのだが、その目は薄く見開かれていた。


 あの目をした時の母さんはガチギレしている証……しかし母さんは手を出すわけでもなく、静かに─────例えるならば、そう……荒れ狂う波が一気に凪いだかのような声音でこう言った。



「昔の御月はお父さんとお母さんに似て、誰に対しても分け隔て無く接する優しい子だったのに……いったいどうしてこんな事を言うような子に育ったのかしら?」



 実際に気温が下がった訳でもないのに極寒の地のような寒さを感じる。それはもう、止めようとしても震えが止まらない程に。



「お母さんの育て方が間違ってたのかしら?それとも海外に行ってそんな事を考えるようになっちゃったのかしら?ねぇ御月……いったいどっちかしら?」



 母さんの前でペタリと座ったままの姿勢でガタガタと震える姉貴。


 そんな姉貴の姿は初めて見るのだが、それを気にしてなどいられない程に俺は恐れを抱いていた。


 全身から冷や汗が出る……ふと見れば瑠璃やテト、それに御陽や御夜に父さんまでもが大量の冷や汗を流していた。



「どうしたの御月?ずっと黙っていてはお母さん何も分からないわ」


「えと……あの……」


「やっぱりお母さんの育て方が間違ってたのね……昔の御月だったら直ぐに答えてくれたもの」


「そ、それは違っ─────」


「それじゃあ海外に行ったせいでそうなっちゃったのね?それなら教育し直さないと」


「ヒッ─────」



 怒りの矛先が向けられている訳では無いのに身体が自然と気を付けの姿勢になる。


 御陽や御夜は勿論、テトまで泣きそうな表情になっており、瑠璃は父さんと共にゴクリと唾を飲み込んでいた。



「御影?」


「はい!」



 思わず大きな声で返事をしてしまった事は許して欲しい……それくらい、今の母さんはこの上無く恐ろしいのだ。


 母さんは俺に顔を向けると、逆に震え上がってしまうような笑顔を浮かべながらこう言った。



「お母さん、お姉ちゃんとお話しなくちゃならないから、御影はお父さん達と先に中に入ってなさい。でもその前にお母さん達の周りに結界を張っておいてね?」


「りょ、了解……」



 〝何故?〟だなんて聞けなかった。


 言われた通りにしなければ、こっちが恐ろしい目に遭うというのを本能が理解していたので、俺は言われた通りに母さんと姉貴の周囲に結界を張ってから瑠璃達を連れて中へと戻る。


 その間にも姉貴が何やらこちらに助けを求めていたが、誰一人としてその声に応える事は無かったのだった。


 かつて父さんが〝母さんだけは絶対に怒らせるな〟と言っていた時があったが……その言葉を本当の意味で理解したのはこの時が初めてだろうな。


 ちなみにこの件がトラウマになったのか、テトはその後、妙に母さんに対して礼儀正しい言動をするようになったのはまた別の話である。


 それと大岡のおっさん達が母さんの事を〝羅刹〟と呼んでいるが、まさしくそうだなと納得したのもここだけの話である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ