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魔法学園の空間魔導師  作者: 語部シグマ
第一章:魔法学園の空間魔導師
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〝黒羽瑠璃〟として・その1

 翌朝、俺は寝不足による身体の気だるさを感じつつのそりと起き上がった。


 あの後も結局ルリエルの負けず嫌いのせいでゲームをする羽目になり、ようやく眠りにつけたのは時刻が3時に回ろうかとしたところであった。


 そうして一つ欠伸をしながら背伸びをしたわけだが、その際にふとベッドの方へと視線を向けて、俺はそこに広がる光景に思わず固まってしまった。


 そこには俺のベッドの上で眠りこけるルリエルの姿があったのだが、俺が固まってしまったのはルリエルの豊満な胸が母さんが渡したパジャマから見えていたから────ではなく、そのルリエルに抱きつくように両側で眠りこけている御陽と御夜の姿があったからである。


 昨夜も部屋に戻った俺は確かに鍵をかけていた。


 しかしそのドアを見てみれば鍵は開けられており、僅かにそのドアが開けられていた状態となっていた。


 本当に……我が妹達はどうやって部屋の鍵を開けているのだろう?


 廊下側にも鍵穴があったのならばピッキングしたというのが理解出来るのだが、残念ながら俺のドアの鍵は内側にしか無い。


 マジで謎である。


 まぁそんな空き巣顔負けの妹達が何故に俺ではなくルリエルに抱き着いて寝ているのかは考えるまでもない事である。


 どうせベッドに寝ているのは当然、俺だと思い込んで忍び込んだのだろう。


 妹達に抱き着かれて寝苦しそうにしているルリエルには申し訳ないが、彼女にはもう少しだけ二人の抱き枕になって貰うとしよう。


 俺は彼女達(特に妹達)を起こさぬよう静かに立って布団を適当に畳むと、ジャージ姿のまま下へと降りる。


 そして顔を洗ってからキッチンへと向かうと、忙しそうに四人分の弁当を詰めている母さんに挨拶をした。



「おはよう」


「あら、おはよう御影。朝食は出来てるわよ」


「了解〜」



 欠伸を噛み締めながら返事をして席へと着く。


 その向かい側では既に起きて出勤の準備も終えていた父さんが朝刊に目を通していた。



「おはよう父さん」


「おはよう御影。昨夜は遅かったようだな?」


「まぁ……なかなか寝させてくれなかったからな」


「なんだ?もう手を出したのか?学生のうちからそのような情事に至るのは、父さん許さんぞ?」


「嫌な勘違いをするんじゃねえよ、ただゲームをしてただけだ。それよりも何か目につくニュースでもあったか?」



 父さんはいつも朝食がてら朝刊に目を通している。しかし今しがたのように眉間に皺を寄せている時は、何かしら気になるニュースが会った時である。


 俺のその質問に対し父さんはため息混じりにこう答えた。



「はぁ……どうやら人間至上主義者達と人類回帰教団の癒着はかなり濃厚だったようだ」



 亜人達が行き交う光景が普通となった現代において、それらを排斥し人間だけの世の中にしようという思想を持つ集団……それが新興宗教の〝人類回帰教団〟である。


 そして亜人達は人間である自分達よりも下の立場であり、我々人間が彼らを支配するのが当然だと考えている〝人間至上主義者〟。


 前々からこの両者の癒着が噂されていたが、まさか本当の事だったとは……いつの時代にもそんな馬鹿な考えを持つ奴らってのはいるもんだな。



「まったくくだらない……今の世の中、そのような思想は愚かだと何故気づかないのだろうな」


「さぁな。ところでルリエルの事について母さんからある程度は聞いてんだろ?」


「勿論だ。ちなみに彼女がまた天界に帰れるというのは有り得るのか?」


「あ〜、昨日それについて聞いてみたんだが、神様に認められる程の功績を挙げれば可能らしい。だけど今までそんな話は聞いたことないって言ってたから限りなく不可能に近いだろうな」


「ふむ……それならば、やはり戸籍と住民票の取得の手続きをしなければならんな」


「それについては任せるわ。というか父さんに頼むつもりだったしな」


「まぁそれが手っ取り早いだろうな。ところで……そのルリエルさんはまだ寝ているのか?」


「……我が妹達の抱き枕にされてるよ」


「また忍び込んだのか……」



 両親は妹達が夜な夜な俺の布団に潜り込んでいることを知っている。


 それこそ幼い頃は微笑ましい光景だったようだが、俺が中学生になった頃に〝一人部屋の方がいいだろう〟という事で別々の部屋となってからもそれが続いている事に段々と複雑な気持ちになっていったらしい。


 そして鍵を付けたのにも関わらず、どうやって忍び込んでいるのかと、俺も父さんも首を傾げるばかりであった。



「まぁあの子達の事はさておき、どうせなら一緒に行って手続きをしてやりたいと思っているんだが……」



 そこで言葉を区切っていたが、俺は父さんが言わんとしている事を直ぐに察した。


 確かにその方が早いのでルリエルを起こしに行った方が良さそうだな。


 まぁ着替えをせにゃならんので遅かれ早かれな話ではあるが……。



「あ〜……じゃあ今から起こしてくるわ」



 俺はそう告げると、一旦食事を中断して自室へと向かう。


 すると俺の部屋辺りから何やら騒がしい声が聞こえてきた……どうやら三人とも目が覚めており、口論をしているようだ。


 俺の予想としては妹達が目を覚まし、抱き着いているのが俺ではなくルリエルであったことを知って憤慨しているのだろう。


 なんか入るのが嫌になってきたな……。



「お〜い、三人共そろそろ朝飯を────」



 そう言いながらドアを開けた時、そこには俺のベッドの上でキャットファイトを繰り広げている三人の姿があった。


 いや、正確に言えば妹達に襲われているルリエルという構図だったが……。



「あっ、み、ミカゲ!た、助けてくれ!」


「あっ、おにぃ!今からこの女狐を懲らしめてあげるから!」

「おにぃのベッドを奪うなんて……死罪に値する」


「た、頼む!この二人をどうにかしてくれ!!」


「ごゆっくり〜……」



 俺はそれだけを言うと、助けを求めるルリエルを他所にそっとドアを閉めたのであった。


 そしてその後ルリエルは母さんによって助け出されたらしいが、至る所に引っ掻き傷を作る羽目になるのであった。


 我が妹達の前世は猫ではなかろうか?






 ◆






「酷い目に遭った……」



 朝の騒動の後、朝食を食べ終えたルリエルが歯を磨く俺の隣でそう嘆いていた。


 俺は口を濯いだ後、さも興味無さそうにこう返す。


 うん、心の底から興味無かったんだけどな。



「どんまい」


「お前という奴は……」



 恨めしげに俺を睨むルリエル。


 あの時見捨てたのをまだ根に持っているらしい。まぁ、当然と言えば当然なのだが……。


 そんなルリエルはパジャマから俺が貸したジャージへと着替えている。


 俺とルリエルは割と近い身長なのだが、それでもルリエルの方が少しだけ低く、手が僅かに袖に隠れる為肘元辺りまで捲っていた。


 下の方は裾が擦れるらしく短パンである。


 物好きな奴から見れば情欲を掻き立てられる服装なのだが、残念ながら俺は欲情することは無い。


 色恋に興味が無いので彼女いない歴を日々更新しているのだが、その事に両親は段々と心配し始めているのだとか。


 だからと言って彼女を見つけようとは思ってないけどな。


 普段から目立ってないので言い寄ってくる女子も居ないのだが……。


 そんな自虐的な事を考えつつ、部屋で着替え終えた俺は今日の授業に使う教科書を鞄へと入れていた。



「よし、そろそろ出るか」



 そう呟いて部屋を出ると、母さんの部屋から母さんとルリエルが出てきた。


 出てきたルリエルは先程のジャージ姿から私服へと着替えている。どうやら母さんが着させたらしい。



「流石にあの服装じゃ駄目よ〜」



 そう話す母さんは何故か見せびらかすようにルリエルを自身の前へと置いていた。


 あ〜、なるほど……これは俺に感想を求めているみたいだな。



「似合うと思うぞ?」


「駄目よ御影!そこはちゃんと〝可愛い〟とか〝綺麗〟って褒めなきゃ」


「へいへい綺麗で可愛いですよ。それじゃ行ってくるわ」


「も〜」



 不満気な母さんには悪いが、俺はその手のことに興味は無い。


 それにルリエル自身、どことなく嬉しそうだからそれで良いと思う。


 そうして家を出た俺の後を妹達が追いかけるようにして駆け寄ってきた。



「も〜待っててよ〜!」


「別に待たんでもいいだろ。どうせ同じ学校なんだしよ」


「そういう問題じゃないの〜!」

「おにぃと一緒に登校する……すなわち私達の至福のひととき」



 毎回思うが、本当にこの妹達に春は訪れるのだろうか?


 いや、俺が言えた義理では無いが……。


 そうして妹達に両腕を掴まれた事による多少の歩きづらさを感じつつ登校した俺は自身の教室へと入った。


 教室ではクラスの生徒達がそれぞれのグループに別れて最近の流行りについて話していたり、昨日のテレビの感想を言い合ったりしていた。


 誰も俺に気づく様子はなく、かといってこちらから声をかけることもない、割といつもの光景。


 そうして自分の席へと着くと、待ってましたとばかりに一人の生徒が俺の前の席へと座った。



「おーっす御影!」


「よォ、煉……お前はいつも元気だな?」


「そういうお前は相変わらず……というかいつもよりダルそうだな?」



 話しかけてきたのは俺の数少ない友人である〝吾妻煉(あずまれん)〟である。


 炎撃魔法の使い手で、初の魔法実技の授業で大爆発を起こし教師たちの間で問題児に認定された奴である。


 仲良くなったのは一人の女子がチンピラに絡まれているところを、たまたま出くわした俺とこいつで返り討ちにした事がきっかけであった。


 その時に妙に気が合い、何かとつるんでいる悪友でもある。



「それよりも今日は数学の抜き打ちテストがあるんだってよ?俺、一秒たりとも勉強してねぇよ……」


「あ〜……数学の式部先生は抜き打ちが好きだからなぁ。まぁ俺はいつも通りド真ん中を狙うがな」


「お前って本当に変わってるよなぁ。なんでそんなにド真ん中を狙うんだよ?」


「その方が目立たねぇからだ」


「マジで〝霧隠〟より忍者だなお前」



 〝霧隠〟とはこのクラスに在籍している〝霧隠才加(きりがくれさやか)〟の事である。


 彼女は有名な忍びの家系で、だというのにそれをおくびにも出さない変わった奴である。


 しかも情報通で色んな奴から情報を求められるが、ちゃんと代金は頂くというちゃっかりとした隠れ守銭奴であった。


 煉がそう話しながら霧隠を見ているその視線を感じてか、同じクラスの〝桜庭咲良(さくらばさくら)〟と談笑していた霧隠がこちらに手を振っていた。


 煉はそれに手を振り返しながら感嘆の息を漏らす。



「はぁ〜、いいよなぁ霧隠……彼女になってくんねぇかなぁ……」


「そう思うんだったら告白すりゃいいだろ」


「ふっ……甘いな御影。俺が告白していないと思うか?」


「……玉砕したのか」


「言わせるなよ」



 妙にカッコつけちゃいるが、こいつは目に止まった女子全員に告白しては玉砕している大の女好きである。


 別に割と良い容姿ではあるが、いったいこいつの何が駄目なのだろうと前々から疑問を抱いている。



「御影も目立たない事をやめればモテると思うけどな、俺は」



 そう言いながら煉が次に視線を向けたのはクラス……いや、学年で一番の人気を博している〝御剣勇聖(みつるぎゆうせい)〟である。


 御剣はなんでも世界がまだ今のようになってからまだそんなに経っていない頃……後に〝黎明期〟と呼ばれる混沌とした時代に現れた勇者の子孫であるらしく、またそのルックスも相まって女子達はもちろん、男子達からも高い人気を博していた。


 そんな御剣は現在進行形で女子達に囲まれていた。



「やめろ……あんな風になったら、あまりの面倒臭さに俺はどうにかなっちまいそうだ」



 目立つという事はそれなりに敵を作ることになる。


 御剣でさえ彼に嫉妬を抱く輩がいるのである。


 そうまでして目立ちたくは無い。何事も波風立たず、穏やかな日々を送れればそれでいいのである。



「それにしてもいいよなぁ……家に帰れば可愛い妹ちゃん達と美人の母親がいるんだからさぁ」


「面倒なだけだ。妹達に関しては未だに一緒に風呂に入ろうとしてくるから、ずっと結界を張ってなきゃ、のんびり風呂にも浸かれねぇんだぞ?」


「何それ羨ましいんだけど?」


「そう思ってんのは多分お前だけだろうな……」



 もし煉が妹達に告白した日には絶対に絶交する事にしよう。



「はぁ〜……いつになったら俺に彼女が出来るんだろうか……」


「来世に期待だな」


「待ってくれ!なんで今世では希望が無いみてぇな言い方をするんだよ?!」


「お前……今まで何人に告白してきた?」


「え〜と……ついこの間、保健医の癒川(ゆかわ)先生にフラれたのを含めて、ざっと30人ってところかな?」


「お前、遂に先生にまで……もうその時点で諦めろよ」


「諦めねぇよ!なんてったって俺はこの高校生活に全てをかけてるんだからな!!」



 もはやケダモノである。


 俺は闘志を燃やす煉に〝頑張れよ〜〟と気持ちが篭っていない言葉を投げると、一つ大きな欠伸をするのであった。


 あぁ、眠い……。


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