閑話:暗躍する者達
ここは東京にある一件の邸宅────その書斎にて書類を纏めていた男の背後に、一人の少女が姿を現した。
男はその少女に顔を向けることなく、書類に目を通したまま彼女に声をかけた。
「上手く回収出来たか?」
「当然だよ。ボクを誰だと思ってるのさ?」
少女はそう言うとそっと、男のテーブルの上にUSBメモリーを置いた。
「これだけか?」
「心配しなくても、オーガスタスの研究資料の全てがこの中にある。これなら身軽だしね」
「ふん……上手くやったものだな」
「あのブタが騒いでくれたお陰でやりやすかったよ。まぁ、ボクとしては、奴と対峙していた少年に挨拶をしたかったところだけども」
「確か……お前が初めて失敗に終わった原因となった少年だったか?」
「彼のお陰でボクの大怪盗としての名に傷が付いてしまった」
少女────大怪盗アルセーヌはそう言うと、その時のことを思い出して苦い顔を浮かべた。
「まぁ、オーガスタス・ヘルマンの研究資料を得ることが出来ただけ良しとしよう。例の実験体については盗み出せそうか?」
「やめといた方がいいと思うよ。まぁ、やろうと思えば出来なくもないけれど……その場合、あんたの事がバレてしまうかもね」
「それは非常に不味いな。この私の野望を叶えるまで、捕まる訳にはいかないのでね」
「将来有望とされた議員さんにしては、随分と弱腰だね?」
「慎重と言って貰おうか?私はね、非常に慎重派なんだよ」
男はそう言うと目を通していた資料を置き、無造作に判を押した。
「例の実験体については諦めることにしよう。なに……研究資料がある限り、計画は続けられるからな」
アルセーヌはいつの間にか姿を消していた。
男は彼女が置いていったUSBメモリーを手に取ると、それを眺めながらふっとほくそ笑む。
「この日本の頂点に立つのは、この私だ」
平和な日常が流れる日本の水面下で一つの悪意が静かに動き始めていた。




