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魔法学園の空間魔導師  作者: 語部シグマ
第一章:魔法学園の空間魔導師
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一悶着

 その後オーガスタスの遺体はエイブラムス警部達によって回収された。


 司法解剖やら何やらを行うそうだが、その後は墓地にてしっかりと埋葬されるらしい。


 俺達にそう伝えたエイブラムス警部であったが、その直後、俺達が聞き捨てならない事を言い出した。



「さて、そちらの少女をこちらに引き渡して貰えないか?」


『は?』



 テトと瑠璃以外の俺達が揃ってエイブラムス警部を睨みつける。


 しかしエイブラムス警部は動じる事無く、さも当然かのようにこう言ってのけた。



「その少女はオーガスタス・ヘルマンと関係があるようだからね。流石に見過ごす訳にはいかないのだよ」



 そう言ってエイブラムス警部がテトに手を差し伸べようとするも、テトは俺の背に隠れてしまう。


 俺はそんなテトを守るようにしてエイブラムス警部へと立ち塞がると、再び篭手を装着して構えた。



「悪ぃけど勘弁してくれねぇかな?テトはようやく自由になったんだ。その自由を奪うってんなら、黙っちゃいねぇぞ?」


「ほぅ……この私とやり合う気かな?私としては君とは敵対したくはないのだがね」


「引き渡せと言われて〝はい、そうですか〟と従うほど、俺はお人好しじゃないんでね」


「ふむ、業務執行妨害として、残念だが拘束する他無いな……む?」



 隣に人の気配を感じそちらへと顔を向けると、そこにはいつ目覚めたのか瑠璃が剣を構えながら立っていた。



「ようやくお目覚めか」


「すまない……どうやら寝過ごしたようだ。しかし、今の話は聞いていたのでな。私としても二度もテトを連れていかれたくは無い」


「無理すんなよ?重傷だろ?」


「そう言う御影こそ、随分と無理をしているようだが?」



 俺と瑠璃はそう言葉を交わしたあと、同時にエイブラムス警部へと顔を向ける。



「やれやれ、まだ未成年……しかも怪我人とやり合いたくは無いのだが」



 エイブラムス警部はそう言うと、俺達のようにその場で構えを取った。


 緊迫する空気……しかし俺達の間に割って入るように母さんがエイブラムス警部へと話しかけた。



「あらあら〜。大の大人が子供相手にムキになってはいけないわよ?ねぇ、エイブラムスくん」


「その声……そしてこの私をそう呼ぶ貴方は、まさか〝Ms.遠山〟か?」


「トオヤマ?」


「あぁ、母さんの旧姓は〝遠山〟って言うんだよ。しかし母さんの旧姓を知ってるとは……いったいどういう関係だ?」



 エイブラムス警部の口から出た母さんの旧姓に思わず構えを解く。


 そんな中、母さんは恥ずかしそうに手を振りながらエイブラムス警部の問いに答えていた。



「やだ、も〜……今は結婚してるから〝忍足〟よ?それにもう刑事では無いし」


「退職されていたのですか……いやはや、貴方とあろうお方が勿体ない。それにしても、何故ここに貴方が?」


「愛しの我が子のお手伝いよ」


「我が子?」


「えぇ、今、貴方の目の前にいるその子が私の息子よ。名前は〝御影〟と言うの」


「なるほど、そうでしたか」


「えぇ、そうなのよ。それよりもエイブラムスくん……ここは御影のお願いを聞いてくれないかしら?」


「何故です?この少女は────」


「あら、テトちゃんも私の子供よ?」


「……はい?」



 あ〜……うん……エイブラムス警部がそう反応するのも分かる。


 我が母親はにこやかな笑みを浮かべ、あろう事かテトを自身の娘だと、あっけらかんにそう言い放ったのだった。


 これには息子である俺も開いた口が塞がらない。


 確かにそう言い張ってしまえば、エイブラムス警部もおいそれとテトを連れて行く事が出来なくなる。


 とは言え母さんよ……流石にそれは無理があるんじゃないか?



「娘だと言い張るのですか……」


「えぇそうよ?家族で旅行中に連れ去られちゃって……それで助ける為にここに来たの。ようやく助け出せたと思ったのに、そんな理不尽な理由で連れ去られては困るわ」


「Ms……いや、Mrs.忍足。私も馬鹿では無いのでね?貴方の話が嘘か本当なのか直ぐに分かりますよ」



 だろうなぁ……。


 大岡のおっさんは苦笑いを浮かべているし、これに関しては流石に同意することが出来ない。


 すると何を思ったのか母さんは満面の笑みを浮かべながらエイブラムス警部の前へと歩み出る。


 しかしその目は全く笑ってはいなかった。


 その時、〝ヤバい〟と思ったのは俺だけでは無いだろう。



「ねぇエイブラムスくん?エイブラムスくんにお子さんはいるかしら?」


「え、えぇ……娘が一人……」


「それなら、子を連れていかれる親の気持ちが分かるわよねぇ?」



 母さんの迫力のある笑みに気圧されたのか、エイブラムス警部は後退りしながらコクコクと頷く。


 しかし直ぐに気を取り直すと、大きく息を吐いてから母さんにこう言った。



「確かに分かります。ですがコレとソレとは話が違う……」


「あら、どうして?同じ事ではないかしら?それとも……久しぶりに私と手合わせしたいのかしら?」



 その瞬間、母さんの纏う空気が一変した。


 アレは母さんがマジでキレてる証拠で、その状態の母さんを前にした者は無条件に白旗を上げてしまうのである。


 とは言っても、そうなった奴は父さん以外に見た事が無いけどな。


 エイブラムス警部はゴクリと唾を飲み込んだ後、それでも自身の意見を曲げようとはしなかった。


 度胸があると言うか、強情と言うか……。


 何にせよ、これ以上母さんを刺激しないで欲しい。


 本気になった母さんを止めるのは俺でも骨が折れるからな。いや、比喩表現ではなく文字通りの意味で。



「どうしても駄目かしら?」


「えぇ、どうしても聞き入れられませんね」


「そう……なら、分かったわ」



 そして母さんはエイブラムス警部へと襲いかかった────訳ではなく、何故か不意に携帯を取り出すと、何処かへと連絡を入れた。



「国際電話って高いのよねぇ……」



 そんなことを言いながら誰かに連絡を入れる母さん。


 暫くして相手が出たのか、母さんは流暢な英語で会話を始め、そして数分の後に電話を切ったのだった。


 やけに会話が弾んでいたようだったが、いったい誰と話していたのやら……。


 すると今度は別の方から着信音が流れ始め、エイブラムス警部が訝しげな表情で携帯を取り出すと、こちらもまた流暢な英語(まぁ当たり前だが……)で話し始める。


 しかしエイブラムス警部は先程の母さんとは違い、非常に困惑した様子で相手と話し込み始める。


 暫くしてようやく会話を終えたらしいエイブラムス警部が携帯をしまいながら困った表情で母さんに話しかけた。



「卑怯ですよMrs.忍足……レストレード局長に脅しをかけるなど……」


「あら?脅したりなんかしてないわよ〜♪︎ただ、ちょっとお願いしただけ♪︎」



 母さんは誤魔化していたが、英語は割と得意な俺にも、母さんが英語で〝血を見る〟だとか〝貴方も私と手合わせしたい?〟だとか物騒な事を言っていたのを聞いている。


 しかし当の母さんはニコニコしているだけでエイブラムス警部の言葉を聞こうとしていなかった。


 まぁ、その笑みには有無を言わせない迫力があったけどな。


 暫くエイブラムス警部は無言で母さんを見つめた後、降参したように大きくため息をついた。



「はぁ〜〜〜……分かりました。そちらの少女については貴方の言う通りにしましょう」


「ありがとう♪︎」


「いえ、無理矢理にでも連れて行こうとすれば、こちらにも甚大な被害が出るのでね。Mrs.忍足……貴方の話はこちらでも有名ですから」



 いったい母さんは向こうでどれだけ恐れられているのだろう。


 エイブラムス警部の判断に異議を唱えている部下達を説得しているエイブラムス警部の後ろ姿を見て、俺は心からそう疑問に思うのだった。


 そして今の今まで俺の背に隠れていたテトは話がまとまったと知って俺に問いかけてくる。



「テトは、御影達と一緒にいられるのですか?」


「もちろんだ。俺達と一緒にいられるぞ?」


「嬉しいです」



 テトの嬉しそうな顔を見ると何だか込み上げてくるものがある。


 いや……ちょっと待て……比喩表現ではなくマジで何か込み上げ────



「ゲフッ────」


「御影?!」



 嬉しそうにみあげてくるテトの目の前で、俺は盛大に血を吐いた。


 そういえば何やら胸や背中に生暖かく感じ、服もどことなく湿ってきているようにも思える……俺にはその理由について既に検討がついていた。



「やべ……傷口が開いたかもしれん」


「いや、〝かもしれない〟じゃなくて実際に開いとるやろ!!」



 都胡のそんなツッコミを聞きながら隣へと目を向けてみると、瑠璃もまた俺と同じように血を吐いて膝から崩れ落ちていた。



「無茶し過ぎだぞ?」


「そう言う御影こそな」


「「あはは……」」


「いや笑っとる場合かい!二人が一番重傷やっちゅうのに無茶するからや!!」


「あらあら、早く医者を呼ばないといけないわね」


「いや、救急が来るまで待つより、我々が乗ってきたヘリで病院まで送った方が早い。さぁ、早く二人をヘリへ乗せるんだ」



 都胡と大岡のおっさんに肩を貸してもらいながらヘリへと乗り込む。


 エイブラムス警部はその間、部下達に研究所の捜索を指示するのであった。


 そしてヘリへと乗った途端に強烈な眠気に襲われ、俺と瑠璃は揃って意識を手放すのであった。


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