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魔法学園の空間魔導師  作者: 語部シグマ
第一章:魔法学園の空間魔導師
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羅刹降臨

 ここで〝忍足月夜〟という人物について語るとしよう。


 月夜は〝遠山家〟の娘として生まれ、父親は元警視総監だった男である。


 幼い頃から護身のためとあらゆる武道を習ってきたのだが、その中でも特に空手と徒手格闘の筋が良かった。


 学生時代には師範代に至るまでになっていたが、当時はまだ刑事になろうという気は毛頭なかった。


 しかし尊敬する父親が暴漢の襲撃を受け、その怪我が原因で無念にも警視総監を退任した事が彼女が刑事を目指すきっかけとなる。


 そして月夜は大学を卒業した後に警官となり、誰もが目を見張るほどの速度で刑事へと昇格した。


 そしてかつて父親を襲った暴漢達をその手で捕まえる事を果たし、〝魔導事件特捜部〟の主任に就任したのであった。


 その後は子供を身篭ったのを機に退官したが、その実力は未だ衰えてはいない。


 その証拠に月夜は今、異形と化した男達全員を相手にたった一人で大立ち回りを繰り広げていた。



「あらあら、女性は花を愛でるように優しく扱うものよ?」



 そう言いながら掴みかかろうとした男の顔面を蹴り飛ばす月夜。


 純粋な力のみで言えば明らかに男達の方が月夜よりも強いのだが、その月夜に蹴り飛ばされた男の顔は首が引きちぎれん程に明後日の方向を向いていた。


 何故、異形と化した男達に対しそれ程までの威力を放てるのか────その理由は月夜が現在進行形で使用している〝身体強化〟の魔法によるものであった。


 月夜が現役時代の頃に特に評価されていたのがその身体強化魔法の練度である。


 極限にまで精錬された月夜の身体強化魔法は、もはや人外の域にまで達していた。


 故に彼女は影で〝羅刹〟と、今も尚そう呼ばれているのである。



「あらやだ。服が砂まみれになってしまったじゃないの」



 呑気にそう話す月夜を前に、男達は完全に恐怖しているのかもはや誰一人として襲いかかろうとはしない。


 それに気付いた月夜は困ったように眉尻を下げると、その場にいた誰しもが戦慄するような一言を言い放つ。



「もう終わりなのかしら?私はまだ満足していないのだけれど」



 既にそこには先程のような聖母の笑みを浮かべていた月夜の姿は無かった。


 そこにいたのは正に羅刹……敵と見定めた者には情けも容赦も、そして慈愛すら持ち合わせていない女性の姿をした鬼であった。



「そっちから来ないのなら、今度はこちらからね?」


「「「────!!」」」



 命の危機を悟った男達は我先にへとその場から逃げ出そうとする。


 しかし振り返った直後に、いつの間に移動したのか足元にまで来ていた月夜を視界に捉え、凍りついたかのように動きを止めた。



「あれだけ好き勝手やって、今更逃げられると思っているのかしら?申し訳ないけれど……私、こう見えてそこまで優しくはないわよ?」



 ゾッとする程の月夜の声に男達は声にならない悲鳴を上げた。



「私が満足するまで……耐えてくれるかしら?」



 そうして次の瞬間に、男達の身体に夥しい程の月夜の蹴りが浴びせられる。


 その蹴りが男達の身体を捉える度に鳴ってはいけない音が鳴り続ける。


 そうして暫くして、そこには頭はもちろん腕や足までもがあらぬ方向へと折れ曲がった状態で地面に伏す男達の姿があった。


 その中心で月夜はぐーっと背伸びをしたあと、満面の笑みを浮かべてこう言った。



「あ〜〜〜スッキリしたっ♪︎」



 その一連の光景を目撃していた煉達……その中で都胡はこんな事を呟いた。



「昔から叔母さんだけは怒らすなって言われとったけど……今ようやっとその意味が分かったわ……」



 その呟きに同意するように、月夜を除くその場にいた全員が何度も頷くのであった。


 そして月夜が服に付着した砂を払い落としている時、大岡の部下が彼女に声をかけた。



「忍足主任?」


「もうっ、今は主任じゃないから月夜でいいわよ〜」


「あっ、はい……それで月夜さん。今までいったい何処にいたのですか?全然姿が見えなかったんですけど……」



 そう問われた月夜は最初キョトンとしていたが、直ぐにその理由を思い出してこう返した。



「夫から連絡が入ったから出てたのよ〜。それで遅くなっちゃったの。ごめんなさいね?」


「あっ、いえ……ちなみに電話の内容は何だったのですか?」


「え?あぁ、今そっちに向かったっていう連絡よ〜」


「向かったって……いったい誰が……?」



 警官に介抱されながら二人の会話を聞いていた煉、都胡、才加は直ぐに誰のことかを悟ると、驚きと喜びの表情で顔を見合せてから月夜に問いかけた。



「ほ、ホンマに?!」

「マジですか?!」

「本当に?!」


「えぇ、本当よ♪︎あの子の事だから、もう着いてる頃じゃないかしら?」


「あの……いったい誰が来るって言うんです?本当に僕達には心当たりが無い────」



 大岡の部下がそう言い終えるか否かのタイミングで何処からともなく轟音が鳴り響く。


 その場にいた全員が一斉に音が鳴った方へと顔を向けてみると、そこには空中を舞うオーガスタスの姿があった。


 それを見ていた煉達三人や大岡の部下を始めとした警官達は呆然とそれを眺めていたが、たった一人、月夜だけは変わらぬ様子でこう言ったのだった。



「あらあら、もう終わったかしらね〜」






 ◆






 月夜が異形と化した男達を叩きのめすその数分前────


 ようやく研究所へと到着した瑠璃達はそのまま施設内へと踏み込み、テトを探しながら先へと進んでいた。


 その道中で行く手を阻もうとする研究員や黒服達を倒しながら先へと進むと、何やら大きな円柱状の容器が並べられた部屋へと足を踏み入れる。



「なんだこれは……」



 その容器の中に入れられていた物を見て大岡が思わずそう口にした。


 その容器に入れられていたのは頭が五つもある犬や、獅子と山羊、そして蛇の頭を持つ獣……また頭は猿、身体は獅子、四本足は虎、尾は蛇の獣といった、歪な動物達であった。


 それらが入れられている容器を一つ一つ眺めながら、大岡は自身の脳裏に過ぎった考察を口にする。



「もしやこれは……全て合成獣か?」


「そうかもしれません。まるで神話などに出てくる魔獣を再現したかのようですね……」



 大岡の言葉に咲良が自らの推測を話した。


 容器に入れられていた合成獣達は共に入れられていた液体によるものかピクリとも動かない。


 その横では瑠璃がおぞましいものを見るような目で合成獣達を眺めていたのだが、そのうちの一つの容器の中を見た瞬間、思わず絶句し立ち止まってしまった。


 そこに入れられていたのは、どこかテトとよく似た少女であった。


 御影と共に眠りについた時のテトと同じような表情をしていたその少女……しかしテトと違うところはその少女には手足が無かった。


 固まる瑠璃の元へと来た大岡もそれを見て絶句していたが、確認するように瑠璃と咲良に問いかける。



「まさかとは思うが……この少女が君達が話していた少女という訳ではあるまいな?」


「い、いえ……似ていますが、多分違います……」


「ふむ……もしかすると、オーガスタスはその少女を新たに作ろうとしていたのかもしれんな」


「いったい何の為に……」


「すまない……流石にそこまでは分からん。だが、これが人道に反するものだということは分かる。それと、奴がろくでもない事をしようとしているという事もな」



 ゴクリと唾を飲む瑠璃と咲良。


 そして彼女達が再び少女へと顔を向けた時、その少女が入れられている容器の後ろで何かの影が揺らめいた。



「────っ、二人とも伏せろ!!」



 大岡はその言葉と共に押し倒すようにして二人を地面に伏せさせる。すると彼らの頭上を何かが風を切るようにして通り過ぎた。


 三人が恐る恐る顔を上げてみると、そこには両手が鋭利な刃物である巨大な人型の異形が三人を見下ろしていた。



「逃げるぞ!!」



 大岡の言葉に弾かれるようにして動き出す瑠璃と咲良。するとその異形は雄叫びを上げ、両手の刃物を振り回しながら三人を追いかけ始めた。


 合成獣達など意にも介さず振り回すので、合成獣達は容器ごと真っ二つに両断される。


 先程の少女も既に頭と胴体が離れた状態となっていた。


 逃げる際にそれを見た瑠璃は唇を噛み締めるが、今はそれを気にしている余裕など無い。


 そして逃げ続けていた瑠璃達は開けた場所へと出ると、身体の向きを変えて異形へと相対した。



「確認するが、二人は戦えるだろうか?」


「心配には及びません。かつては騎士として訓練に明け暮れていたものですから」


「なに?」



 瑠璃の言葉に訝しげな表情となる大岡の前で、瑠璃はまるで抑えていた力を解放するようにその翼を広げた。


 勢いよく広げられる六つの黒翼……その際に舞う羽は光に照らされ、キラキラと輝いていた。



「瑠璃くん……君はいったい……」


「私はかつて天使として天界に住んでいました。今では堕天した身ではありますが……」



 そう自ら卑下するようにそう話した瑠璃は手にしていた剣と盾を構えると、異形へと斬りかかった。



「大岡さん!驚くのは後です!」


「あ、あぁ、そうだな。速やかに彼女の援護へと回る!」



 大岡はそう言うと拳銃を抜き放ち、異形へと向けて発砲した。


 大岡が撃った弾丸は真っ直ぐに異形へと飛んでゆくが、それらは異形が払った刃物によって弾かれる。



「チッ……意外にも頭の回る奴だな!」



 悪態をつきつつも射撃を続ける大岡。そんな彼の目の前では瑠璃が異形の刃を躱しながら斬撃を放ってゆく。


 しかし異形はその身体も硬いのか、全くと言っていい程、瑠璃の剣は通らなかった。


 そのうち今度は瑠璃の方が押され始め、遂には体当たりを受けた事で体勢を大きく崩す。



「しまっ────」



 振り下ろされる刃を防ごうと剣を横に構える瑠璃。しかし異形はその刃が瑠璃の剣とぶつかる寸前でその身体が凍りついた。



「瑠璃さん、早く離れて!」


「咲良?」



 瑠璃がそちらへと顔を向けてみると、そこには咲良の前に立つようにして薄い水色を基色とした女性が現れていた。


 咲良は非常に珍しい精霊魔導師で、その前にいる女性は彼女に召喚された氷の精霊であった。



「フリージア、あいつを凍らせて!」


『了解、ご主人様♪︎』



 咲良の命令を受けて氷の精霊フリージアが吐息をすると異形の身体が完全に凍りついた。



「今だよ瑠璃さん!」


「あぁ!」



 瑠璃が剣に魔力を込めると、その剣が光を放ってその魔力を更に高める。


 そして────



「はぁぁぁ……〝七星連撃(グランシャリオ)〟!!」



 瑠璃が放った七連撃は全て凍りついた異形の身体を捉え、異形は木っ端微塵に砕け散っていった。


 その直後に何処からか拍手が鳴る……瑠璃達がそちらへ顔を向けると、そこにはいつの間にいたのかオーガスタスが彼女達に向けて拍手を鳴らしていた。



「いやぁ……そいつもワシの自慢の作品なんだがね。まだ子供だと思っていたが、どうやら過小評価だったらしい」


「オーガスタス・ヘルマン……違法な実験及び合成獣の密造により貴様を逮捕する」



 大岡が警察手帳を見せながらそう述べると、オーガスタスはニヤリと笑みを浮かべてこう言った。



「日本の番犬風情が、そう易々とワシを捕まえられると思うな。たとえ牢に入れられようとも、あの方のお力があれば何時でも出れるしな」


「あの方?なるほど、貴様の背後には相当な人物がいるようだな。それについても署でじっくりと聞かせて貰おうか?」


「話すと思うかね?そもそもワシは捕まる気など毛頭無いわ!それに、貴様らがここから生きて出られる保障などどこにもありはしないのだしな」


「なんだと?」


「やれ、TE-TO01」



 オーガスタスがそう口にした時だった……それにいち早く気付いた瑠璃が大岡と咲良を守るようにして盾を構えると、そこにかなりの衝撃がぶつかる。


 放たれたのは一筋の光線────それが収まったのを確認した瑠璃が盾越しにそちらを見ると、そこには腕を長銃へと変えたテトの姿があった。



「テト……」


「……」



 瑠璃が声をかけるもテトに反応は無い……それどころかテトの瞳は何処か虚ろなものであった。



「テトに何をした?」



 瑠璃がオーガスタスを睨むと、オーガスタスは愉快そうに笑みを浮かべながら懐からスイッチのようなものを取り出し見せた。



「貴様らの影響からか言うことを効かなくなったのでな。コイツでワシの命令に従うようにした」


「操っているというわけか」


「あぁそうだ。本来は暴走した合成獣共を従わせる為に作ったものなのだがな。まぁこのような仕事をする際はあらゆる事態を想定せねばならん。なのでTE-TO01にも同じようなものを埋め込んでおいたまでよ」


「外道が……!」


「何とでも言うがいい!どうせ貴様らが生きて出られる事などないのだからな!殺れ、TE-TO0────」



 オーガスタスが再びスイッチを押そうとした瞬間、その装置が突然オーガスタスの手の中で砕け散った。


 その事に驚きオーガスタスが瑠璃達へと顔を向けてみると、そこには銃を構えた大岡の姿があった。


 その大岡の銃口から煙が上がっているのを見るに、彼がスイッチを撃ち抜いたのだろう。


 大岡はその煙を吹き消しながらこう言った。



「射撃は最も得意とするところでね。それこそ昔は周りから〝鷹の目(ホークアイ)〟と呼ばれていたよ」


「き、貴様ァァァ……!」


「これであの少女が操られる事は無くなった!瑠璃くん、急いで彼女を保護するんだ!」


「はい!」



 大岡に指示された瑠璃は急いでテトの元へと駆け寄ると、優しい表情を浮かべながら彼女に声をかける。



「さぁ帰るぞテト。……テト?」



 スイッチは破壊したのにも関わらず、依然として反応の無いテトに瑠璃が訝しげな表情をしていると、その腹部に重い衝撃が走った。



「なっ……!」

「瑠璃さん!!」



 瑠璃はテトによって腹部を刺されていた。


 深々と突き刺さったテトの刃は瑠璃の身体を貫通し、その切っ先は赤く染っていた。



「どういうことだ?!」



 大岡がオーガスタスへと顔を向けると、そのオーガスタスの手には先程破壊したはずのスイッチが握られていた。


 オーガスタスは下卑た笑みを浮かべながら揚々とこう話す。



「予備を用意しているに決まっているだろう!先程〝あらゆる事態を想定せねばならん〟と言っていたのを忘れたか?」


「クソ!」



 大岡は再びスイッチを撃ち抜こうと銃を構えるが、そんな大岡にオーガスタスはこう言った。



「いいのかな?ワシに構っているとそこの天使が死ぬぞ?」


「くっ……!」



 大岡の視界の端ではテトが再び腕を銃へと変え、その銃口を地面に伏す瑠璃へと向けている。


 大岡はどちらに狙いを定めるかで迷ってしまうが、それは致命的なミスであった。


 後から駆けつけてきたオーガスタスの部下達が大岡と咲良を取り囲み、二人はあっという間に取り押さえられてしまった。


 オーガスタスは悠然と二人の目の前まで来ると、チラリと瑠璃の方へと目を向ける。



「まさか天使とは思わんかったな。まぁ翼の色から堕天使だろうが、どちらにせよ貴重な素材である事には変わりはせんな」


「素材……?」



 聞き捨てならない言葉に咲良が眉をひそめながらそう口にする。


 するとオーガスタスは満面の笑みを浮かべてこう言った。



「あぁ素材だとも!なにせ天使だぞ?滅多にお目にかかれぬ存在だぞ?あいつを素材にすれば、今よりも更に強力な人造生命体を作り出すことが可能となるだろう!それに小娘、お前もだ。お前はどうやら精霊魔法の使い手だな?精霊魔法も珍しい魔法……お前も貴重な素材として丁重に扱ってやろう」


「お断りします!」


「ふはは!断れる立場かね?まぁいい……TE-TO01、そいつを始末しろ!しかし跡形も無く消し去ってはならん!欠片でも残さねば素材として使えんからな!」


「ワカリマシタ……」



 テトは完全に抑揚の無い声でそう返事をすると、構えていた銃に魔力を込め始める。



「テ……ト……」



 瑠璃は地面に伏しながらテトへと顔を向けると、そのテトの表情を見て目を見開いた。


 テトは無表情ではあったが、その目から涙を流していたのである。


 瑠璃は一旦目を閉じると、再びテトへと笑みを浮かべながらこう言った。



「テト、お前は悪くない。だから決して自らを責めたりするな」


「……」



 そうして瑠璃はそっと目を閉じて覚悟を決めた。



「すまない……御影……」



 テトから魔力砲が放たれる直前に瑠璃がそう呟いた時だった────



「別に謝る必要なんざねぇよ」


「……え?」



 チャージが完了したテトの魔力砲……しかしそれは放たれることなくその場で霧散した。それどころかテトの手が元の状態にまで戻っている。



「……?」


「なに?!」



 魔法が解除された事に自身の手を眺めながら疑問符を浮かべるテトと、その光景に驚きの声を上げるオーガスタス。


 そして何が起きているのか理解出来ていない瑠璃の身体が何者かによって抱き上げられた。


 テトの魔力砲を消し去り、瑠璃を抱き上げた者────それは本来まだ病院にいるはずの御影であった。


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