夏の一時・その2
海水浴とバーベキューで一通り遊び終えた俺達(俺は大半寝ていたが……)は、今度は買い物をしに街へと繰り出していた。
主な目的はテトの私服を買う為であり、女子達が中心となってあれこれテトの着せ替えをしていた。
「今度はコレなんてどうやろ?」
「あっ、いいかも。絶対にテトちゃんに似合うよ!」
「ほんなら試着させてみよか」
「テトちゃん、こっち来て♪︎」
「かしこまりました」
テトに似合いそうな服を見つけては盛り上がる都胡、咲良、才加、そして御陽と御夜……当然、俺と煉はその辺り疎いので参加はしていない。
ちなみに瑠璃もついでで五人の着せ替え人形にされていた。
「俺達暇だな御影?」
「仕方ねぇだろ、こればっかりは……参加したところで付いてけやしねぇだろうしな」
「だよな〜……」
買い物に連行された父親とはこんな感じなのだろうか?
俺と煉は暇ながらも、勝手に女子達から離れることも出来ず店の前で、ただ呆然と暇を持て余していた。
「「暇だ……」」
偶然にも煉と全く同じ言葉で声が重なる。
その事に思わず吹き出し煉と笑い合うも直ぐにまた退屈そうに空を見上げていた。
そのタイミングで女子達が店から出てくるが、その中で都胡、咲良、才加が意味深な笑みを浮かべながら俺達を見ており、よく見れば三人の後ろには瑠璃が何やら恥ずかしそうな表情を浮かべている。
その事に訝しげな表情をしていると、前の三人が〝どうぞご覧あれ〟というように瑠璃の前から左右へと退ける。
するとそこには先程とは違う服装に身を包んだ瑠璃とテトの姿があった。
瑠璃は丈の短いタンクトップの上に羽織った同じく丈の短いシャツを前方の裾を結んでおり、デニムのショートパンツ、そしてオシャレなヒールサンダルといった服装。
普段の瑠璃では絶対に選ばない露出が高めな服装であった。
だからだろう……瑠璃が恥ずかしそうな顔で落ち着かないような動きをしているのは。
「こ、このような……露出が高い服など……」
「瑠璃はん、これもオシャレだって言ったやろ〜?そんなんじゃモテへんで?」
「わ、私に色恋沙汰など……!!」
混乱しているのか瑠璃は焦りながらそんな事を言い始めては都胡に憤慨していた。
一方、テトへと顔を向けてみると、テトは白いワンピースに同じく白いつば広帽子を被っていた。
今のテトを見た奴らは全員、テトがどこかの良家のご令嬢と言われれば素直にそう信じてしまうだろうと思える程、見るからに見違えた姿となっていた。
ちなみに当のテトは今の自身の服装が気になるのか、興味津々そうにそのつば広帽子を触ったり、ワンピースに触れたりという行動を取っている。
「似合うじゃねぇか、二人共」
「〜〜〜〜〜っ!!」
テトは何も言わなかったが、瑠璃は顔を一気に赤らめたかと思えば、直ぐに頭から湯気を出して俯いてしまった。
「さ〜すが御影……なかなか隅に置けへんな」
ニヤニヤとこちらを見ながらそう話す都胡。
とりあえず都胡にはその頭に拳骨を落としてやった。対する都胡は〝なんでやねん!?〟と抗議していたが……。
「まぁ、とりあえず二人の服を買えたっつー事で、次は何処に行く?」
「小笠原海洋センターなんてどうや?うち、ウミガメ見てみたかってん」
「ウミガメか……確かに普段から見れるようなもんじゃねぇしな」
都胡が提案した行先に対する意見を聞こうと煉達へと顔を向けると、煉、咲良、才加、御陽、御夜の五人は異議なしというように頷いた。
しかし瑠璃とテトは揃って首を傾げている。
「どうした?他に行きたいところでもあったのか?」
そう訊ねると瑠璃が両手を振ってそれを否定した。
「あっ、違うんだ……実は私はウミガメというものをよく知らなくてな……」
「は?」
瑠璃と同じように首を傾げているところを見るにテトも知らないのだろうが、まぁテトに関しては知らないのも無理は無い話だろう。
しかし瑠璃も知らないというのは意外な話である。
「流石に元天使と言えどウミガメくらいは知ってるだろ」
「そういった生物がこの世界に存在するというのは知っているんだ。しかし実際に見たことは無いので、どのような姿をしているのか……」
「あ〜……万年亀やアクパーラと似たような姿と言えば分かりやすいか?」
万年亀とは日本や中国で縁起が良いと伝えられている霊亀の事であり、アクパーラとはインド神話に登場する亀の王である。
まぁアクパーラに関しては背中に象と世界を背負った姿なので、それと似ているかと言われれば微妙な感じではあるが……。
しかし俺に挙げられたその二つを聞いても、瑠璃は更に疑問符を浮かべるだけであった。
「すまない……あまりピンとは来ないな……」
「……?」
うん……これ以上言っても二人は理解出来ないだろうと判断し、実際に見てもらうことに決めた。
というわけで俺達は小笠原海洋センターへと向かう────が、そこでちょっとしたトラブルと言うか……面倒な事に巻き込まれてしまった。
「君達かわうぃ〜ね♪︎」
『……』
突然話しかけてきた、いかにも〝チャラ男〟といった感じの男達が瑠璃達を見てそう声をかけてきた。
思わず軽蔑の目を向けてしまったのはナンパしてきた事以外に、〝かわうぃ〜ね〟なんて死語を未だに使ってきた事も要因であるだろう。
ともかく俺や煉はもちろん、瑠璃達もチャラ男達に対し軽蔑の眼差しを向けていたのだが、チャラ男達は気づいていないのか、そもそもそんな目を向けられている意味を理解していないのか、怯む事無くなおも瑠璃達に話しかけた。
「今から俺らとお茶しない?」
「すみません、今から皆で海洋センターへと行くので」
咲良のやんわりとした拒絶。
しかしチャラ男達はそんな事お構い無しに、あろう事かそんな咲良の肩に手を回してきた。
ちなみにチャラ男達の視界には俺と煉は入っていないらしい。
「やめてください」
「そんな事言わずにさぁ。それよりも海洋センターに行くなら、そのまま俺らとデートしようよ♪︎俺ら、君達を楽しませる事が出来るよ?」
「そうそう、まぁその後はホテルで気持ちよくさせてあげるからさぁ♪︎」
はっきり言ってドン引きである。
瑠璃や才加も軽蔑から侮蔑の眼差しに変わっているし、都胡に至っては吐き気でも催したのかというくらいに顔を歪ませている。
今まで見たことの無い表情だった。
その中で瑠璃がチャラ男の手を払いながら咲良を引き寄せると、咲良とは違いはっきりと拒絶の言葉をチャラ男達に言い放った。
「私達は貴様らのような奴など相手にしていない。迷惑だ。さっさと私達の前から去れ」
「あ?女のくせに調子乗ってんじゃねーよ!」
瑠璃に拒絶されたチャラ男は逆ギレして瑠璃の顔を殴った。
そしてそのまま瑠璃の胸ぐらを掴むと、クソみたいな表情でこう言い放った。
「女ってのはなぁ、黙って男に媚びてケツ振ってりゃいいんだよ!まぁ、お前みたいな気の強い女をヒィヒィ言わせんのも好きだけどな」
その言葉にチャラ男達が一斉に笑い声を上げた。
胸ぐらを掴まれた瑠璃は怒りと侮蔑、そして頬を殴られた痛みが入り交じった表情をしていた。
「これ以上、痛い目に遭わされたくなけりゃ大人しく一緒に──〝ペキッ〟──……あぇ?」
その場に鳴り響く小気味のいい音────それは他でもなくチャラ男の指から聞こえ、チャラ男の人差し指はあらぬ方向へと折れ曲がっていた。
まぁ、俺がへし折ったんだけどな。
「あぁうえぇぇぐぉあぁぁぁ!!」
「「ケンちゃん!?」」
瑠璃から手を離し、その場で自身の手を抑えながら悶絶するチャラ男。
チャラ男が他の奴らから〝ケンちゃん〟と呼ばれていることや、へし折れた指を見て涙やヨダレやらを垂れ流している事などどうでもいい。
俺は瑠璃を庇うように立ち塞がり、チャラ男達を睨み付けていた。
「御影……やり過ぎるなよ……?」
煉からそう言われていたが今の俺は腹の底から怒りが煮えたぎっていた。
「テメェ……今聞き捨てならねぇ事言ってたよな?いったい誰をどうするって?俺の連れに何をしようって言ったのか、もう一度言ってくんねぇかな?」
「て、てめ……ケンちゃんに何しやが────」
殴りかかろうとしてきたチャラ男の仲間を、その顔面を蹴り飛ばす。
するとチャラ男の仲間は面白いくらいに吹っ飛んでいった。
「女だからと、そんなふざけた事を言ってる奴を見るとどうしようもなくむかっ腹が立つんだよ。けど、直ぐにここから消え失せるってんなら見逃してやるよ」
「ふざけっ────」
残るもう一人が俺に殴りかかろうとした時だった……その首に鋭利な刃物が突きつけられる。
「ひぃ────っ」
「────!?」
鋭利な刃物を突きつけていたのは瑠璃でもなければ煉達でもなく、まさかのテトだった。しかし俺が驚いたのはそこではなく、その刃物がテトの腕と一体化していたからである。
テトは刃物をチャラ男の仲間に突きつけながら、無機質な声でこう言った。
「彼らに危害を加えるならば容赦はしませんと警告します」
「ひ、ひぃぃぃ!化け物ぉぉぉぉ!!」
刃物を突きつけられたチャラ男の仲間は、悶絶しているチャラ男ともう一人の仲間を連れてその場から逃げ去っていった。
それを見送ったテトは追いかけることなく刃物を引っ込め、またその刃物はゆっくりと形を変えて元のテトの腕へと戻ってゆく。
そして腕を元に戻したテトはといえば、何事も無かったかのようにこちらへと振り返り、俺の服の裾を摘み、クイクイと引っ張りながらこう言った。
「ウミガメ、見たいです」
「そうか……そうだな……」
マイペースと言うかなんと言うか……俺達はウミガメを見るのを催促するテトに思わず苦笑を浮かべるのであった。
◆
御影達が小笠原海洋センターへと向かっていたその頃────散々な目に遭わされた先程の男達は、逃げたその足で病院に向かいながら口々に御影とテトについて話し合っていた。
「なんなんだよさっきの……」
「くそっ……指は折られるし、あのガキは手がナイフみてぇになるし、なんなんだよアイツら……」
「うぅ……鼻が痛え……絶対に折れてるよコレ……」
痛みに涙を滲ませながら三人が歩いていると、不意に彼らの背後から声をかけてくる者が現れた。
「すみません、少し宜しいですかな?」
「あぁ?」
三人が振り返ると、そこには身なりの良い一人の男がいた。
その男はあの孤島にて研究員達を率いていた男であった。
男が指を鳴らして合図をすると、どこからともなく美女が現れ、手に持っていたアタッシュケースを三人へと開いて見せる。
そこに入っていたかなりの量の札束を前に三人はゴクリと唾を飲む。
「先程、貴方がたの話が聞こえてきましてな……宜しければ是非とも、貴方がたが会ったという子供についてお話を聞かせて貰えませんでしょうか?これはそのお礼という事で……」
そう話しニヤリと怪しい笑みを浮かべる男。
三人は互いに顔を見合せたあと、不敵な笑みを浮かべて男へこう言った。
「何を聞きたい?」
その返事を聞いて男は更に笑みを深めるのであった。




