夏の一時・その1
「それで……どうするんや?」
昼飯中、バーベキューコンロで肉を焼いていると都胡からそのような事を問いかけられた。内容としては結局のところテトをこれからどうするかについての事だろう。
俺は数枚の肉をひっくり返しながら暫く考え、そしてその結論を都胡に述べた。
「とりあえずはこのままでいいんじゃないか?」
「へ?」
俺の答えに都胡は素っ頓狂な声を上げた。
「今どうこう考えたって良い結論なんて出ねぇよ。俺達に出来ることなんざたかが知れてるしな。それに────」
チラッとある方向へと目を向け、妹達に挟まれ肉に舌鼓を打ち目を輝かせているテトを見て少しほくそ笑む。
「あぁして見るとただのガキにしか見えねぇだろ。だから今は旅行を楽しんでればいいんじゃないかね」
「御影は相変わらず楽天的やなぁ……まぁ、そこが御影のええとこなんやろうけど」
「そういう事だ。というわけで、この肉は俺が貰う」
「あっ、ちょっ……!うちが育てとった肉が!!」
都胡がじっくり焼いていた肉を横取りし、それを口の中へと放り込む。
まぁ都胡の言う通り、今は良くても旅行から帰った後のことは考えねばならないだろう。しかしその時はその時でどうにでもなりそうな気がしていた。
「お肉のおかわりを要求します」
「へぃへぃ……ほれ、沢山食いな」
考えなければならない事は多々有れど、俺達は今はバーベキューを存分に楽しむのであった。
それからは各々で海で泳いだり、砂の城を作って遊んだりしており、俺は瑠璃とテトと共にかき氷を食べていた。
なにせ二人共、かき氷を知らないのだと言うものだから、せっかくならばと勧めたのである。
そうして二人はかき氷を食べたのだが……。
「くっ……」
「脳にダメージを受けています……」
勢いよく食べたものだから、かき氷ではお馴染みのキーンという痛みに襲われていた。
「がっつくからだ。まぁ暫くすりゃあ直ぐに消えるさ」
「先に言って欲しかったのだが……」
「これも貴重な経験だろ?」
ストローを加工して作ったスプーンを加えながらそう言うと、瑠璃は恨めしげにこちらを見てきた。
テトに関しては、かき氷を見ながら〝この敵は強敵です〟などと変な事を言っている。
そうしてテトは再びムシャムシャとかき氷を口に入れては、またアイスクリーム頭痛に苛まれるを繰り返していた。
何をやってるんだか……。
そして、ようやくかき氷を平らげたテトは〝けぷッ〟と可愛らしいゲップをすると、満足そうな表情────いや……無表情なのでその表現は少し違うのだが、ともかく満足気な態度でこう言った。
「エネルギーの補充が完了しました」
「お前さぁ……もう少しその喋り方、どうにかならねぇか?」
「何かおかしな点でもありましたか、と疑問を口にします」
「それだよそれ。その機械的な喋り方をどうにか出来ねぇのかって言ってんだ」
「どうにかと申されましても、元からこの口調なので」
「そうは言ってもだな……もう少し子供らしい喋り方ってのを────ほら、例えば御陽達みてぇな感じで」
「……?」
なんとか口調を変えさせようと試みるも、理解不能とばかりに小首を傾げるものだから、こっちもつられて首を傾げてしまう。
「諦めた方がいいのではないか?」
「だけどよぉ……」
諦めを促してくる瑠璃に俺が言い返そうとしていると、視界の端でテトの体がゆらゆらと揺れていることに気づいた。
いや、揺れていると言うよりもコクリコクリと船を漕いでいるようだった。
「スリープモードへ移行します……」
「つまり眠くなったんだな?」
「エネルギーの補充……必然の…………」
「分かった分かった!分かったからここで寝るのはやめろ」
俺はテトを立たせると、その手を引いて叔父さんが持ってきたビーチチェアへと連れていった。
そして先に座っていた父さんに説明し譲ってもらうと、テトをそこへと座らせたのだった。
座るなりゆっくりと瞼を閉じて眠りにつくテト。
「飯食って満腹になったら寝るとか……本当にガキにしか見えねぇんだけどな」
「事情を知らなければ、よもや禁忌の存在だとは思われないだろうな」
スヤスヤと眠るテト。そんな彼女を見ているとこちらも不思議と眠たくなってきた。
なので俺もビーチチェアの隣に敷かれていたシートに寝転び昼寝へと勤しむ。
「お前も寝るのか……」
「色々と疲れたしな。眠い時に寝るのが健康の秘訣だよ」
「いったいどういう秘訣だそれは……」
五月蝿いなと思いつつ、襲う睡魔に抗うことなく眠りにつこうとしていると、不意に寝ていたはずのテトが起き上がり、そして徐ろにビーチチェアから降りたかと思えば、次の瞬間には俺の身体の上に寝そべり始めた。
「おい……」
「ここが一番心地よいと判断しました」
「重いんだが?」
「すぅ……」
「寝やがった……」
やれやれ……上に寝られると非常に寝苦しいのだが、テトは構わず深い眠りへとついてしまった。どうやら寝付きは非常に良いらしい。
「まぁいいか……」
俺はそんな諦めにも似た言葉を呟いたあと、自分も眠りへとつこうとする。しかし突然聞こえてきた大声に閉じかけていた瞼が勢いよく開いた。
「あーーーーー!!テトがおにぃと添い寝してる!!ずるい!!!!」
「うるせぇ……」
大声を上げたのは何かの用があってこちらへと来ていた御陽であった。
そして御陽の一言に御夜も気づいたらしく、こちらに駆け寄ってきては御陽と同じように大きく目を見開いていた。
「おにぃとの添い寝……私と御陽ねぇの特権なのに……」
そんな特権を与えた覚えは無いのだが、御陽と御夜は心の底から悔しそうに地団駄を踏んだり砂浜を叩いたりしていた。
やれやれ……せっかく眠りにつこうとしていたのによ……。
「今だけは譲ったれや二人共。家に帰ったら思う存分添い寝して貰えばええやないか」
「確かに……」
「その手があった……」
「「おにぃ、帰ったら私達と添い寝して!」」
「断固として断る!!」
どうしてこの妹達はこうも悪い方に影響されやすいのだろうか?
俺は微睡む意識の中、なおも騒ぐ妹達を前に呆れてため息を零すのであった。




