大怪盗アルセーヌ・その3
アルセーヌとの一戦の翌朝、俺はまだ痛む身体に鞭を打ってベッドから起き上がる。
そして部屋を出たのと同時に同じく部屋から出てきたのだろう瑠璃と鉢合わせをした。
「おはよう御影……随分と疲れた顔をしているな……」
「そう言うお前も……同じような顔をしているぜ?」
「まぁ……な……」
あれから気を失っていたらしい俺は瑠璃によって起こされた。
どうやら瑠璃は決着がついた所で意識を取り戻したらしく、倒れていた俺に気づいて声をかけたのだという。
ちなみにアルセーヌに関しては残念ながら捕まえることが出来なかった……奴は意識を取り戻したあと、また煙幕を使ってその場から逃げ去ったのである。
しかしアルセーヌに関して意図せずある事実を得られたし、奴から万年時計を奪い返す事にも成功したので、とりあえずは良しとする事にした。
俺はその時のことを、歯を磨きながら思い返す。
俺を起こしたあとの瑠璃はその場の状況を見て俺に声をかけた。
「やったのだな?」
「まぁな……つってもギリギリの勝利だったが」
「勝てたのであれば十分だろう。それにしてもよく攻撃が効かない奴を倒せたな?」
「あぁ、それについてはだな────」
俺は自身の推測を瑠璃へと語る。
「そもそもの認識が間違いだったんだよ」
「どういう事だ?」
「確かに物質をすり抜ける魔法は存在する……だが、奴が使っていた魔法に関してはそれとは全くの別モンだった」
「違う魔法……?いったい奴は何の魔法を使っていたと言うのだ?」
「考えてみりゃあ凄くシンプルな魔法だよ。奴が使っていたのは〝幻惑魔法〟だ」
「幻惑?」
俺が示した魔法に瑠璃は訝しげな表情となる。
「この世界には〝立体映像〟ってやつがあってな?それは空間に人や生き物といった映像を映し出す技術なんだが、今の世界になる前から存在してたもんだ」
「それがどうしたと言うんだ?」
「しかし結局は映像だから勿論触れることは無い。実体がねぇわけだからな」
「おい、先程からいったい何を言っているんだ?まさか腹に受けた傷のせいで気が触れたわけではないだろうな?」
「やれやれ……ここまで言って理解できねぇのか。つまりだな、俺らが見ていた〝大怪盗アルセーヌ〟ってのはまやかしだったってわけだ。まぁ見た方が早いだろ」
そう言って俺は前方へと指差した。
そこには先程のアルセーヌの姿は無く、代わりにカジノにでもいそうな、バニーガールのような姿をした獣人の少女がいた。
少女は忌々しげに、そして苦々しい表情を浮かべながらこちらを睨みつけていたが、特徴的な猫の耳と尻尾はへたりと下がっていた。
「あの少女は……」
「あれが〝大怪盗アルセーヌ〟の本当の姿だよ。俺の〝空爆〟によるダメージで魔法が解けたんだろ。とは言ってもこっちも相当なダメージのせいで動くに動けねぇから、そこはお互い様ってこったな」
そう話す俺の目の前でアルセーヌはフラフラと立ち上がると、そのまま何をする訳でもなく踵を返して、身体を引き摺るようにして去ろうとしてゆく。
「待て────」
「放っておけ。万年時計は取り返したんだ……今はそれで良しとしようじゃねぇか」
先程から瑠璃の動きがどこかぎこちない……多分、アルセーヌに蹴られた際に肋骨辺りを損傷したのだろう。ヒビが入っている可能性もあるので無理はさせられない。
フラフラと歩くアルセーヌ。しかしふと立ち止まったかと思うと、こちらに顔を向けてこんな事を問いかけてきた。
「まさか……ボクの魔法を見破ったどころか、ここまで追い詰めるとはね……君、名前は?」
「んあ?忍足御影だ」
「〝忍足御影〟……その名前、覚えたよ。今日受けた屈辱は絶対に晴らす。この借り、いつか必ず返しに来るよ」
「おう、いつでも来い。何度でも返り討ちにしてやらぁな」
暗くてよくは見えなかったが、俺の言葉を聞いたアルセーヌがふっと笑みを浮かべたように見えた。
そしてアルセーヌの姿は空間に溶けるようにして消えたのだった。
「あの女……余力残してやがったか」
アルセーヌが消えたことで完全に緊張の糸が解けたのか、俺の身体を酷い激痛が襲う。
「〜〜〜〜〜っ……」
「痛むのか?」
「かなりな……気を抜いたらまた意識を失いそうだ」
「待ってろ、今すぐ救急車を呼ぶ」
「頼む……あっ、その前に先に連絡して欲しい所がある」
「何処にかけるんだ?」
「ちょいと……知り合いにな」
俺は瑠璃に頼み転がっていた携帯を拾って貰うと、そこから電話帳に登録してあった〝とある人物〟へと連絡を入れた。
暫くの呼出音の後、目当ての人物の声が電話口から聞こえてきた。
『はい、大岡ですが?』
「あぁ、大岡のおっさん。俺だ……」
『その声は御影か?懐かしいな。元気にしてたか?』
「まぁな……と言いてぇところだが、今はちょいと死にかけてるわ」
『はぁ?!何かあったのか!?』
「話せば長いんだが……悪ぃがそれを今話してる暇はねぇんだよ。とりあえず俺の携帯のGPSを辿って来てくんねぇかな?」
『それはいいが……いったい何が……』
「だからそれを話してる余裕はねぇんだよ。とりあえず直ぐに来て欲しい。あとは俺と一緒にいる奴に聞いて……く……れ……」
視界が霞む。
電話口からは大岡のおっさんの声が……そして近くでは瑠璃の声が聞こえてくるが、その声が段々と遠ざかって行き、そして俺は静かに、そしてゆっくりと意識を手放したのだった。
◆
────とまぁそんな顛末があったわけで……あの後、俺は瑠璃が手配してくれた救急車で運ばれ手術を受け何とか一命を取り留めた。
報せを受けて駆けつけてきた母さんには泣かれるわ怒られるわ一悶着はあったものの、瑠璃が俺に頼まれて駆けつけた大岡のおっさんへ事の次第を説明してくれたお陰で何があったのかは大方理解して貰えた事だろう。
また、こうして家で朝を迎えれたのは治療魔法のお陰でもあり、アルセーヌの弾丸に射抜かれた傷も綺麗さっぱり無くなっている。
とはいえ魔法を行使した事による疲労感は治癒魔法では癒す事が出来ず、俺は朝から酷い倦怠感に苛まれているのであった。
ちなみに瑠璃に関しては、やはり肋骨にヒビが入っていたらしい……それは俺と同じく治癒魔法で治すことが出来たのだが、その後の事情聴取などによる寝不足が祟っているので疲れきった表情をしているのである。
「しかし……今でもあの少女に負けてしまった事が悔しくて仕方が無いな」
瑠璃はそう言うと、ポツリと〝どこにあのような力が〟とボヤいていた。
俺は口を濯いでいた水をぺっと吐き出したあと、そのボヤきへの返答をする。
「まぁ獣人族だったみてぇだからな……それは仕方ねぇって事だ」
「獣人族が関係しているのか?」
俺は一瞬だけ〝え?〟という表情になったが、直ぐに瑠璃の状況を察して一人納得する。
瑠璃は元とはいえ天使族だ……天使族は普段は天界で暮らしているので、この世界の者達との関わり合いは余程の事で無い限り皆無に等しい。
よって瑠璃が獣人族の事についてよく知らないのも無理は無い話であった。
俺は顔を拭うのに使っていたタオルを洗濯カゴへと入れたあと、瑠璃に獣人族の事について説明してやった。
「獣人族の特徴ってのは、まぁ見た目も当然ながら、注目すべきはその身体能力の高さだ。ちなみに瑠璃は〝バネ〟って知ってるか?」
「私を馬鹿にしている意味合いでその質問をしている訳では無いのであれば、その答えは〝知っている〟だ。確か細長い金属を螺旋状にしたもので、両側から挟むように押すと縮み、離すと一気に元の状態に戻るものだったな」
瑠璃の言葉に俺は頷いて肯定する。
「獣人族の身体能力は俺達人間より遥かに超えている……例えるならその肉体が瑠璃がイメージしているバネを更に強力にしたものだと思ってくれればいい」
「つまりどういう事だ?」
「子供の獣人族でもゴリゴリのマッチョのプロレスラー相手でも勝てるという事だ」
「……なるほど」
プロレスラーについて一度テレビで見たことがあった瑠璃はそれを思い浮かべたのか苦い顔でそう納得していた。
よっていくら天界の騎士として鍛えていた瑠璃であっても、あの日アルセーヌに負けたのは仕方の無い事であったのは、彼女自身も理解出来るだろう。
それでも瑠璃は自分よりも幼いアルセーヌに負けた事がよっぽど悔しかったのか、〝次は負けない〟と目に闘志を燃やしていた。
しかし不意に何かを思い出したかのような表情となると、俺にこんな事を聞いてきた。
「そういえば昨夜は聞きそびれていたのだが、あのアルセーヌをどうやって倒せたんだ?」
「あ〜、それはだな………………うん、その話については学校に向かいながらにするか」
そろそろ時間も家を出なければならない頃合────今ここでその話をしていたら最悪遅刻してしまう可能性があった。
なので俺はそう言って、一旦着替えに部屋へと戻るのであった。
そして着替えを終えて家を出た俺は、瑠璃と共に学校へと向かい、その道中で先程伝えた通り、瑠璃の質問への回答をする事にした。
「さっきの事についてなんだが……」
「あぁ、家を出る前から気になっていたんだ」
「え〜と……何処から話したらいいのかね?う〜ん、先ず前置きとして俺が使う魔法について説明するか」
「あの見えない壁や箱についてか?」
「そうだ。先ず俺が使う魔法は〝空間魔法〟って言って、本来なら物を他の空間にしまったり出したり、また空間内の事を把握したりする事が出来る魔法なんだよ」
「それは凄いのか?」
「そう聞かれると複雑なんだが……まぁ希少な魔法の一つって事だけは言える。基本的には戦闘向きじゃねぇ魔法なんだが、俺はこの魔法でどんな事が出来るのかを追究した。んで、編み出した魔法の一つが〝空爆〟だ」
「〝空爆〟?」
聞き慣れないと言うような表情を浮かべ首を傾げる瑠璃。
まぁ実際には〝空爆〟などという魔法は存在しない……何故ならこれは俺が独自に創作した魔法であるからだ。
その原理を簡潔に説明するならば〝空爆〟はいわゆる〝空気の爆弾〟だ。
空気というのは圧縮すればするほどその温度が上昇するという特性を持っている。すなわち俺は〝空間魔法〟を用いて空気を極限にまで圧縮したのである。
それが昨夜アルセーヌの周囲を漂っていたあのシャボン玉のようなものである。
圧縮された空気はその温度を急上昇させており、それに加えて俺は発火するギリギリにまで一気に圧縮させる。そして〝指を鳴らす〟という……銃の引き金のようにその合図で一気に破裂させるのである。
すると、どうなるか?
一気に圧縮させた事で球体状の結界内の空気は発火するも密閉状態である為直ぐに酸素が欠乏している状態に陥る……そこに破裂させた事によって新たな酸素が一気にそこへ流れ込み、いわゆる〝バックドラフト現象〟を生み出した事により爆発を起こすのである。
これが〝空爆〟の原理という訳だ。
俺は出来るだけの数の〝空爆〟をアルセーヌへと食らわせた……よってそれを全て受けたアルセーヌは瞬く間にその意識を刈り取られたのである。
とはいえ殺すつもりは無かったので気絶させる程度にまで威力を抑えた。
それにより奴を逃がす結果となったが、最低限の目標である〝アルセーヌから万年時計を取り返す〟というのは達成出来たので、あえて奴を追わなかったのであった。
まぁ……結構なダメージを追っていたってのも理由の一つだけどな。
「────というのがアルセーヌを倒した時の顛末ってわけだ」
「なるほどな……確かに威力を抑えていたとはいえ、複数の爆発を受ければ奴とてただでは済まされないだろう」
「つってもこの〝空爆〟は本当に繊細な魔力運用と操作が求められるから、即座に使うことが出来ないほど難易度が高ぇけどな」
「それはそうだろうな。ちなみに他にはどんな事が出来るんだ?」
「あとは空間を通って別の場所へと移動できる〝空間転移〟や……あとは〝空間刀〟かな」
「〝空間転移〟とやらは何となく想像出来るが、〝空間刀〟というのはどのような魔法なんだ?」
「これについてはまた違った魔法の応用によるものなんだけど……それを話している時間は無さそうだな」
〝空爆〟の話をしている間に俺達は学校へと到着していた。
まぁ、俺が編み出した空間魔法の応用技については今挙げた二つ以外にもあるのだが、それについては追々話してゆくことにしよう。
「おはようございま〜す」
「おはようございます」
「おう、おはよう」
今日は学園の〝挨拶運動〟の日であったのか、正門前にて生徒会所属の生徒達と教師が登校してくる生徒達に挨拶をしていた。
俺と瑠璃もそれに習って教師に挨拶をし、その教師も返すように挨拶をしてくる。
まぁ、至って変わりのない光景なのだが、俺と瑠璃が玄関へ向かおうと通り過ぎた辺りで、先程の教師が思い出したかのように俺達に声をかけてきた。
「あっ、忍足御影と黒羽瑠璃!」
「なんスか?」
「なんでしょうか?」
呼び止められた俺と瑠璃は揃って振り返り教師の方へと顔を向ける。
すると教師は不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「二人共、よくやった。特に忍足御影……お前もやる時はやるんだな」
「「???」」
いったい何の事を指して言っているのか分からず、瑠璃と顔を見合わせながら疑問符を浮かべる。そして俺は教師に生返事をした後、疑問符を浮かべたまま玄関へと向かったのであった。
その後に教室へと到着したわけだが……その際にふと黒板に目を向けると、そこには〝8:00より体育館にて臨時の全校集会〟と書かれていた。
「何かあったのか?」
「いや、私に訊ねられても困るのだが……」
またしても首を傾げる俺と瑠璃。
すると俺達が来たのに気づいた煉と都胡が駆け寄ってくる。
「おっす御影!なんか疲れた顔してんな?」
「瑠璃はんもおっはよ〜さんや♪︎」
「お〜っす、煉、都胡。ところで臨時の全校集会なんて、いったい何かあったのか?」
そう問いかけてみると、二人も俺達と同じく疑問符を浮かべながらこう返してきた。
「いや、知らねぇ。ただ、なんでもどっかのお偉いさんが来てるらしいぜ?」
「噂だとウチらに話がしたい事があって来たらしいで?」
「「???」」
煉と都胡の言葉に疑問は更に深まるばかり。しかしこの時、俺は何処か嫌な予感がしてならなかった。
何かとても面倒な事になりそうな────特に俺の平穏な学園生活が更に崩れるような……そんな気がしてならなかったのである。
妙な悪寒もしたしな。
「何故だろう……今すぐ逃げ出さないとならねぇような気がしてならねぇんだが……」
「何を言うとんの?」
「いや……うん……なんでもねぇ……多分……気のせいだ……うん、気のせい……」
自分に言い聞かせるようにそう話す。
その際、煉が〝あ〜、もしかして……〟と言いたそうな表情をしていたのだが、俺はそれを逃避するようにあえて気づいていないフリをしたのであった。
しかしこの後、そんな俺の予感が的中することになるなど……この時の俺は知る由もない。
それを悟ったのは全校集会にて、この〝国立桜杜魔法学園〟の学園長であり、歴代初の女性学園長でもある〝郝堂朱羅〟の一言であった。
この世界でも頂点に君臨すると言われる程の最強の魔導師の一人にして、〝赤の魔導師〟とも呼ばれている彼女は、周囲の目を引く程の燃える炎の如き赤い髪を靡かせて壇上へと登壇すると、マイクに向かって声高らかにこう言った。
「おはよう諸君!!急な集会になった事、非常に申し訳なく思っている!しかし、今回は〝とある方〟が訪問なさっていてな……非常に忙しい方なので急遽こうして集まって貰った次第だ!」
そう前置きを話し、間髪入れずに本題へと移る学園長。
その本題を聞いていた俺は話が進むにつれてサーッと顔を青ざめさせるのだった。
「諸君らの中には昨夜の事件の事を知っている者達もいることだと思う!そう、かの大怪盗アルセーヌが我が国の美術館に展示されていた〝ガルガタスの万年時計〟を奪った事件だ!」
「御影、まさかとは思うが……」
「言うな瑠璃。決してその先を言うんじゃねぇ……」
言おうが言うまいがこの後に続く言葉が変わるわけでは無いという事は十分に理解していたのだが、それでも俺はそれを認めたくなくて瑠璃の言葉を遮った。
そして学園長の声を拒絶するように耳を塞ぐ。
無駄だと言うのは分かっていたが、どうしてもそうしたくなったのだ。
そんな俺の目の前では学園長が話を続けている。
「とても痛ましい事件だ……かつてのガルガタスの民達に非常に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。だが!何の因果か、そのアルセーヌから見事に万年時計を取り返した者達が現れたのだ!」
まるで演説のように興奮しながら話す学園長。
俺はその話を聞きながら心の中でその話だけに留めて欲しいと……完全に無駄である祈りを込めていた。
「警察からの話ではその者達はなんと我が校の生徒だと言うではないか!それを聞いた私はどれだけ誇らしく思ったことか……そして!その話を知った、かつてのガルガタスの長の子孫であり、今は国立新美術館の館長をなさっている〝イアーゴ・ウィゴー・エルドラド〟殿が是非とも感謝の意を述べたいと、この度こうして来てくださったという訳だ!!それではエルドラド館長殿……是非こちらへ」
学園長に促され、一人の褐色の肌の老人男性がゆっくりと登壇してゆく。
そして学園長にマイクを譲られた老人男性であるエルドラド館長は、心の底からその喜びと感謝の気持ちを表したような笑みを浮かべながら口を開いた。
「初めまして、学園の皆さん。今しがたご紹介にあずかりました、国立新美術館の館長をしておりますイアーゴ・ウィゴー・エルドラドと申します」
流暢な日本語で挨拶をするエルドラド館長。
長年日本で暮らしていたからか、日本語を話すのは難しい事では無いのだろう。そんなエルドラド館長は一度俺達を見渡したあと、再び口を開いて続きを話し始めた。
「私のご先祖様であるガルガタスの長がこの国立新美術館へと……まぁやむなく売ったわけですが……そのガルガタスの宝の一つである万年時計が奪われた時には、とても悲しく、ご先祖様達にとても申し訳ない気持ちでいっぱいになりましたが、この学園の生徒のお陰により無事に取り戻す事が出来ました。私はその生徒に心よりの感謝の言葉を伝えたい。故にこうして馳せ参じた次第でございます」
長々と話していたが、要するに〝万年時計を取り返してくれた事への感謝を伝えたい〟といった辺りだろう。
そしてまた学園長がマイクの前へと来ると、一枚の表彰状らしき用紙を取り出し俺達に掲げて見せた。
「これは警視総監からの感謝状だ。生憎、警視総監殿は多忙により来られなかったのでな……私が代理としてこちらを該当の生徒へと渡そうと思う。それに同じく館長殿からも感謝の品を手渡したいそうだ。それでは今からその生徒の名を呼ぶので、呼ばれたものは返事をして登壇願いたい」
「よし、逃げよう」
学園長の言葉を聞き終えることなく俺はそう言うと、そそくさとその場から退散しようと動き始める────が、いったいいつの間にいたのやら、今朝に正門に立っていたあの時の教師ががっちりと俺の肩を掴んだ。
教師は俺と目を合わせると、ニッコリと笑みを浮かべる。
それを見ていたのかいないのか、学園長が壇上にてこう話した。
「ははは、どうやら気の早い生徒がいたようだ。それでは来て貰うとしよう……忍足御影、そして黒羽瑠璃!両名は壇上に来て貰おうか!」
他の学年やクラスの生徒達、そして教師達から拍手が巻き起こり、同じクラスの奴らは目を見開いて俺に注目していた。
「ほら、呼ばれたぞ?返事をするんだ」
「………………………………はい」
泣く泣く壇上へと登る俺と瑠璃。
そしてその後、俺達二人は感謝状を授与され、館長から多大なる感謝の意と品を受け取るのであった。
未だ鳴り止まぬ拍手の中、俺は容易に想像出来るこの後の展開を予想し、ガックリと両肩を落とすのであった。




