大怪盗アルセーヌ・その1
「皆、大ニュースや!!」
教室に来るなり開口一番、都胡が新聞を掲げながらそう言ってきた。
あれから都胡は持ち前の気さくさで既にクラスに馴染んでおり、今ではクラスの奴ら全員と仲が良くなっていた。
そんな都胡の言葉に世間話をしていた俺、煉、瑠璃の三人は同時に彼女へと注目する。
「お前が息巻いて来るほどとは……いったいどんなニュースだ?」
「これや!」
勿体ぶる事無く、待ってましたとばかりに俺の机に新聞を広げ、その中のある一面を指差す都胡。
その記事は大々的に取り上げられており、そこには〝稀代の大怪盗、国立新美術館に予告状か?〟と書かれていた。
それを見た俺はつまらなさそうに欠伸をする。
「それなら今朝、父さんが話してたし、なんならニュースでも見たわ」
「なんや面白くない反応やなぁ……あの大怪盗アルセーヌが日本に来るんやで?」
〝大怪盗アルセーヌ〟────数年前に突然現れた神出鬼没の怪盗で、世界各国の美術館や博物館に予告状を出しては、必ず目当ての品を盗んでゆく、今も有名な犯罪者である。
つい最近ではパリのルーヴル美術館に展示されていたサモトラケのニケ像が盗まれ、その後に闇オークションに出品されていたと、かなりの話題になっていた。
「……んで、確か今回狙ってんのは〝ガルガタスの万年時計〟だったか?」
「そやね〜」
〝ガルガタスの万年時計〟────この世界にエルフやドワーフといった数々の種族が現れた際に同時に現れた島や大陸、また国や遺跡なども出現した。
それこそ空を見上げてみれば浮遊している島なども見受けられ、当時は〝ラ○ュタは本当にあったんだ!〟と叫ぶ奴らがいたという。
その中で富士山の地下に出現したとされるのが〝ガルガタス〟という街であり、火山の地下に出現したとして残念ながらそのほとんどが溶岩に飲み込まれてしまった街でもある。
その中で生き残った者達が資金を捻出する為に美術館に買い取ってもらった品々のうちの一つがその〝ガルガタスの万年時計〟であった。
当時はまだ、各国の科学技術を持ってしても決して作ることが出来ないとされていた万年時計は、その技術水準の高さと、装飾の華麗さにより〝資料的価値〟としてではなく〝美術的価値〟との認識で国立新美術館へと展示される事となった。
それから数十年が経った今でも万年時計はその時を未だに刻み続けており、それを一目見ようとする客がなおも後を絶たない程である。
大怪盗アルセーヌがその万年時計に狙いを定めたとあって、その警備は更に厳重なものとなったと、今朝のニュースでもそう報じられていた。
「警視庁では万が一盗まれるような事になれば警察の名折れだと息巻いているそうだぜ?」
「そういや月夜叔母さんは元刑事さんやったな」
元警視庁魔法犯罪対策課所属の刑事であった母さんは今でも警察内に知人が多い。
たまに元部下だったという人が家に遊びに来ては愚痴をこぼしてゆく姿を何度も見た事もあった。
そういえば、そのうちの一人である大岡のおっさんが今回の警備の担当だって言ってたっけ?
「ともかく俺達には関係のねぇ話だな」
「でも一目見てみたいやん?かの有名な大怪盗アルセーヌはいったいどんな姿をしてんねんやろ」
「どうせ変な髭のおっさんだろうよ」
俺は小説家モーリス・ルブランの作品に出てくる〝アルセーヌ・ルパン〟の姿を想像しながらそう話す。
遥か昔に書かれた小説であるが、その内容や物語の構成が何となく好きで全巻制覇した事もあった。
そんな俺の言葉に都胡が不敵な笑みを浮かべてこう話す。
「分からんで〜?意外と可愛い女の子かもしれんやん」
「どっちにしろ犯罪者には変わりねぇだろ。まぁここは日本の警察に任せることにしようや」
しかしそんな俺の言葉を聞いてもなお、都胡は何やら落ち着かない様子でソワソワしながら俺達にこんな事を提案してきた。
「ほんなら今日の放課後、皆で見に行ってみぃひんか?」
「は?」
都胡の予想外の提案に俺は思わず机に突っ伏そうとしていた身体を一気に起こす。
「アルセーヌが予告状を出すのは決まって当日の朝……犯行時刻は午後七時。せやからその時間に皆で見に行こうって言っとるんや」
「なになに?何か面白い話してるねぇ」
話を聞いていたのか霧隠が話に入ってきた。その後ろには当然のように咲良もいる。
「ねぇねぇ、いったい何の話してるの?」
「ん〜?今日の夜七時に皆で国立新美術館に行こうって話や。その時刻に有名な大怪盗アルセーヌが万年時計を盗むんやって」
「何それ面白そう!」
霧隠が犬系の獣人であったならば勢いよく尻尾を振っていそうな程、興味深々そうに乗り気になっている。
咲良が止めに入っていない様子を見るに、彼女もまた興味があるのだろう。
「どうやろう御影?一緒に行こうや!」
「あ〜……残念だが今日は生憎とバイトだから行けねぇな」
「サボればええやん」
「ふざけんな。サボるなんてする気ねぇよ」
「え〜」
不満そうに口を尖らせる都胡。
ドタキャンなどすればバイト先に迷惑がかかるし、サボれば必ず大目玉を食らう……普段から面倒事が嫌いな俺にとってそれは忌避すべき事であった。
「つーわけで行くなら俺以外の奴らで行けよ。まぁ結果がどうなったかくらいは教えてくれ」
「しゃ〜ないな〜。ほな、御影以外の皆で行こか〜」
都胡の言葉に俺以外の奴らが声を揃えて賛同する。
まったく……目の前で行われるのは犯罪なのに、それをエンターテインメントと捉える辺り、この時代は本当に平和だな。
大怪盗アルセーヌの事でワイワイと盛り上がる瑠璃達を他所に、俺は再び欠伸をするのであった。




