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異世界にはメディアリテラシーが必要だと思う13

「……わかりました」


 アデルが頷く。


 この数日、本当に色々と考えてくれたみたいだ。


「よかったら、いつでもトーゲン村においで。フラウたちも、アデルのことを尊敬してるみたいだし」


「そ、そうでしょうか」


「うん。あと、このチキン料理……また、作ってくれるかい。チキンスープとか」


「えっ!!」


 アデルが真っ赤になった。


 はわ、はわわ……と震えている。


「あの、その、スープを毎日作ってほしいというのは、庶民の間では、その、その……」


「あっ」


 しまった。


 リィトは戦慄した。


 味噌汁を毎朝作ってくれとか、そういう時代錯誤なアレではないのだ。断じて! というか、異世界でも同じような言い回しなんだなぁ、と転生してから十数年、ちょっと感心してしまった。


「ごめん、アデル! なんかセクハラっぽい言動だったら許してくれ!」


「はら……? それは存じませんが、その、即座にお答えはできないといいますか」


「うんうん、さっきのはナシで頼みます! 皇女殿下に不敬を働いたとかで、軍事制裁とか受けたら困るしね!」


「道ならぬ恋というやつですね……!」


 完全に乙女心が沸騰しているアデルと、焦るリィト。それをじっと眺めていたナビと、頭の上にハテナマークを飛ばしているフラウ。


 ナビが、人工精霊(タルパ)のわりには人間くさい、大きな溜息をついた。


「まったく。マスターは本当に、アレですね」


 今回の「アレ」には、人たらしとかそういう文言が入るのではあるが、ナビの言葉を拾うものはいなかった。比較的察しのいい猫人族ズが、朝一番で自治区に帰ってしまっているのが悔やまれたのだった。



 アデルがやっと落ち着いて、食後のお茶を飲んでいるとき。


「本当に、ここはいいところです」


 しみじみと呟いた。


「そろそろ、帝都に帰らねばならないのが惜しいくらいです」


「アデルさん、帰ってしまうのですか」


「ええ。帝国人のギルド自治区への滞在は、帝国市民権を放棄していないかぎりは最大でも十日間と決められています」


「リィトさんは?」


「僕は市民権を放棄したから問題ないよ」


「そんなあっさり……まぁ、そこがリィト様のいいところではありますが」


 アデルが眉をひそめる。


 くっとお茶を飲み干して、一息つくとアデルは改めて話を切り出した。


「明日にはここを発とうと思います」


「そうか……また来てくれるだろう」


「ええ、リィト様を説得するために」


「えー、まだ諦めてくれないのか」


「当然です。英雄の不在は、誰がなんといおうと帝国の損失ですから!」


「うーん……本当に、買いかぶりすぎだと思うんだけど」


「フラウは、アデルさんがまた遊びにきてくださるのを待っています!」


 純真無垢なフラウの言葉に、アデルが微笑む。


 この数日の滞在期間に、ずいぶんと仲がよくなった様子。


 こないだの戦争のときには、いつも張り詰めた表情であったアデルが年下の女の子と穏やかに話している様子は微笑ましい。


「ええ、私も楽しみにしているわね──また、例の場所で遊びましょう、フラウ」


「例の場所?」


 荒野と山しかない土地だけれど、例の場所なんてあっただろうか。


「はい、倒木に隠れていたのですが、小さな沢のようなものが」


「沢! 沢って、水のある!?」


「水がない沢などあります?」


「すごいぞ、これで地下水に頼らず農業用水が──」


 何故かほとんど雨の降らない土地である。雨が降ったとしても、水はけのよすぎる土地だから保水できるかは不明だが。


「残念ながら、本当に小さな沢ですよ……ロマンシアの城にある、手水桶みたいなものです。水たまりかと思ったほどで」


「そ、そうか……なんだ……」


「ただ、不思議なものを見つけました」


「ん?」


「何かの紋様のような」


「はいっ、花人族の紋章でも、人族の言葉でもないです!」


「フラウも見たことがない紋様か。今度、見に行ってみよう」


「ええ、リィト様でしたら何かおわかりになるかも」


「だから、買いかぶりすぎだよ」


 だが、土地に関する新しい発見はありがたい。


 今度、フラウに案内してもらおう。できればアデルも一緒がいいけれど。


「そうだ、アデル」


「はい……?」


 リィトはアデルに、一つの提案をした。


 彼女がトーゲン村に帰ってきやすいように、そして、リィトにも利があるように。


「君に頼みたいことがあるんだ」



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