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クビになろうと思う。6

 それは聞き捨てならない。


 ギルドは同業者組合ではあるのだが、実態は巨大企業だ。ギルドから斡旋された仕事については、様々な制約があるらしい。遅配による違約金やノルマ上乗せというのがそれだ。


「うーん……」


 リィトは少し考えて、牛車の窓から飛び降りた。


「帝都の坊ちゃん?」


「少し下がってて、えぇっと……」


「メルです」


「僕はリィトだ。メルさん、少し離れてて。できたら、後ろ向いて目をつぶってて」


「立ちションですか?」


「違うよ!」


「……大きいほう?」


「違うってば!」


 なんてことを真顔で言うんだろう。


 ギルド自治区の人間はさっぱりした性格だというが、今のはさっぱりしているにもほどがある。リィトにだって恥じらいはある。


 立ちションではないし、もちろん大きい方でもないということを強調しつつメルを下がらせて、倒れた巨木に向き合う。


 リィトはそっと、木の幹に手を触れた。



「──動け」



 たった、一言。


 リィトがそう巨木に命じると、太い幹に変化が起きた。


 にょろり、と巨木の根っこが動いたのだ。


 木に意思が宿ったわけではない。


 リィトが巨木の根にかけた魔術は、「生命促進」と「生命枯死」だ。


 動かない生き物だと思われている植物も、長いスパンで見れば生長によってムキムキになったり、枝や根っこを伸ばしたりしている。また、枯れていく過程で強度が下がりもする。


 生長と枯死。植物の動きを司るそれらをいい感じに繰り返して、巨木を動かしているわけだ。


 オーケストラの指揮者のようにゆらゆらと腕をゆらすリィトの動きに合わせるように、巨木の根っこが絡み合って二本足を形作る。


 やがて「よっこらしょ」とでも聞こえてきそうな動きで立ち上がって、とことこと川の方へと巨木が歩いて行って──



「ダイブ!」



 掛け声とともに、巨木がすてんと身を投げ出すように転ぶ。


 ざばーん、と景気の良い音。しぶきが上がる。


 リィトが腕を下ろすと、巨木の根っこは再び動かなくなった。


 巨木が川の流れをせき止めることはなかったようで、一安心だ。


 向こう岸への橋にもなって、一石二鳥。


「よし、こんなものか」


 植物魔法。


 得意分野だし、この程度のことは朝飯前といったところだ。



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